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ラブコメの主人公はお好きですか?  作者: 利苗 誓
第6章 修学旅行 交際編
254/593

第225話 銭湯はお好きですか? 2



 男子陣の銭湯は静かになった。


「霧島……お前の努力だけは認めるよ……」

「そうだな……」


 男たちは沈んだ顔で、静かに体を清める。


「やばくない、マジ?」

「いやいや、あかねの方がヤバいよ」


 暫くして、仕切りの向こうから、女子生徒たちの声がかすかに漏れてくる。


「お前ら、静かに!」


 霧島が口に人差し指を当て、静粛のジェスチャーを取る。

 男たちは仕切りに耳をあてがった。


「三葉、服だぼだぼだから全然わかんないけど、やっぱり直接見たら大きいんだな~って」

「え~、止めてよ、ちょっと。そんなことないって。あかねの方が大きいよ」

「いやいや、私なんか背高いからそう見えるだけ」


 鳥飼と暮石の会話だと、男たちが気付く。


「あかねなんて腹筋割れてるし格好いいよ」

「ちょっとだけだって。止めてよ。三葉も胸大きいんだから。ほらほら~」

「ちょっと揉まないでよ!」


 暮石と鳥飼が互いの胸に触れているシーンが男たちに想起される。


「いい……」

「ああ、いい……」

「ここが天国か……」


 霧島たちが声を漏らす。


「でも白波はやっぱり見かけ通り小さいなぁ」

「あかね変態!」


 次に上麦の声が聞こえてくる。


「やっぱり上麦ちゃん小さかったんだ」

「俺はああ見えて大きい方がよかった……」

「何言ってんだ! 小さいほうが美徳があるだろ! これだから女の胸しか見てない奴は……」

「はぁ!? 黙れよ!」

「おいお前ら静かにしろ! またバレるだろ!」


 全員が小声で話す。


「でも小さいのも私は好きだぞ~、白波」

「変態! 変態!」


 きゃはははは、と鳥飼と上麦の声がする。


「あぁ……向こうに……向こうに一体どんな天国が広がってるんだ……」

「うらやましいぜクソ……」

「俺来世は女湯の石になりたい」


 男たちが壁に耳をあてがっている様子を見て、段々と数を増やしていく。


「神奈先生はやっぱり思ってた通りですね」

「だよね~だってスーツ着てるだけでもぴっちぴちで弾けそうだもん」

「あぁ~? 当たり前だろ~大人だぞ?」

「ここにいる中でもしかしたら一番……」

「女の価値は胸なんかじゃはかれねぇよ。ここだよ、ここ」


トントン、と胸を叩いたかのような音がする。


「胸じゃん」

「心だよ!」


 鳥飼と神奈の声がする。


「おいおいマジかよ、ここやべぇ……ベストスポットじゃねぇか!」

「いや、壁に耳をつけてなくても聞こえるぞ!」

「馬鹿! ちげぇよ! 臨場感が段違いだろうが!」

「最高だ……」


 男たちは声を漏らす。


「黒野さんも実は案外……」

「…………」


 誰かの声がした。


「おいおいマジかよ! 黒野もいるのかよ!」

「いや、黒野はねぇわ」

「なしだな」

「馬鹿! お前ら見る目ねぇなぁ! あれで大きかったらギャップ萌えだろうが!」

「萌えとか久しぶりに聞いたわ」


 ぎゃあぎゃあと小声で騒ぐ。


「私は別に胸の大きさなんて気にしてないしどうでもいい。もっと大事なことあるし、そんなことバカげてると思う」

「も~、だから黒野さんに係わっちゃ駄目だって言ったのに」

「ごめんね~、黒野さん」


 黒野が雰囲気を壊す。


「本当あいつ毎回空気読めねぇよな」

「ダメだなぁ、本当あいつ。可愛げねぇわ」

「もうちょっと愛嬌のある返事欲しいよなぁ」 


 外野のダメ出しが入る。


「はいはい、質問です! 先生はその大きな胸で一体何人の男性を落としてきたんですかぁ?」

「お、落としてないから! 誰も! まだ交際ゼロだから! 清い体なんだよ!」

「「「えええぇぇぇ~~~~~~!?」」」


 女子生徒たちから大きな驚きの声がする。


「おいおいおいマジかよ、聞いたかお前ら」

「狙い目だな、これは」

「神奈先生、もうそろそろいなくなるから後腐れなく告白できんじゃねぇか?」

「その後女子から白い目で見られるだろうが!」

「先生、あの美貌で交際経験ゼロなのか?」


 女子生徒からの反応は続く。


「先生、今何歳?」

「十三さいだよ、十三歳」

「嘘だ~、本当は三十路でしょ?」

「うるせぇなぁ、静かにしろ」

「先生も早く結婚しないと婚期逃すよ?」

「あ~あ~、聞こえねぇ」

「先生多分二十七くらいでしょ? その年で交際経験ないのって天然記念物ですよ」

「お前らはあるのかよ!?」

「「「え、普通にありますよ……」」」


 女子生徒は皆肯定する。


「おい、ふざけんな! なんでだよ!? おい! 俺ら誰も交際経験ある奴いねぇだろ!」

「一人の男が色んな女と付き合ってんだよ……」

「ふざけんなよ! おい! 探し出せ! ただじゃおかねぇ!」

「止めろ! 皆争うな! エデンの園だぞ、ここは!」


 霧島が音頭を取る。


「でも高梨さんもすごい体のプロポーションいいよね」


 暮石の声がする。


「止めなさいよ、暮石さん」

「いやいや、何かスポーツとかやってたの? 上から下まで本当に綺麗」

「私はなんでも出来るのよ。あがるわ」


 ざば、と高梨が湯から上がる音がする。


「おいおい、聞いたかよお前ら!」

「くっそぉ! やっぱり高梨さんは最高だぜ!」

「あの姉御肌、たまらねぇ!」

「それにしてもおかしくねぇか?」


 一人の男が声を上げる。


「あっちの声が聞こえてるのに、こっちの声は聞こえねぇのか?」

「確かに……」


 不安の声が上がる。


「ふっふっふ……」


 霧島がニヒルに笑う。


「これこそが僕が轢いていたレール、罠だよ」

「何!?」

「あらかじめ僕が大声で叫び、女子陣にこちらを警戒させる。その上で喋ることを止め、静かにすることで女子陣は警戒を解く。ああ、普通に喋るならあっちには聞こえないんだ、と思うわけだ」

「マジかよ!?」

「おいおいおいおい天才かよ!?」


 霧島は腰に手を当てる。


「のぞき見を捨て、盗み聞きを取る! 骨を切らせて肉を断つ! これこそ、僕の真の目的なのさ!」

「霧島神!」


 男たちは霧島を褒め称える。


「あと暮石さん、こっちの声はあっちにも聞こえてるから気を付けた方が良いわよ。じゃあ」

「え……」

「「「え…………」」」


 男たちの動きが、止まった。


「え……もしも~し……」

「「「…………」」」


 男たちは息を殺す。


「も~、高梨さん本当嘘ひどいよね」

「あ、ちょっと、神奈先生、仕切りの上からあっち見ようとして――」

「「え?」」


 男たちが上を向いた瞬間、大量の桶が降ってくる。


「「「痛えええええぇぇぇぇぇ!!」」」

「本当だあああああああぁぁぁぁぁ!」


 きゃあああああ、と無数の悲鳴とともにありとあらゆるものが、男湯に投げ込まれる。


「違う! 違うんだ!」

「最低! 皆もう喋っちゃ駄目!」

「クソ! 高梨あの野郎!」

「俺たちの天国を邪魔しやがって!」

「皆こっちの会話はあっちに盗聴されてるから気を付けて!」

「何が盗聴だ! 勝手に大声で話してたのはそっちだろうが!」

「そうだそうだ! 俺たちは静かに銭湯をたしなんでただけだ! 俺たちに罪はない!」


 そうして銭湯の時間は終わりを迎えようとしていた。








「いやぁ、かなり遅れちまったなぁ」


 櫻井は一人、銭湯に入りに来ていた。


「やっぱ困ってる人は放っとけねぇよなぁ」


 二十時五十七分。櫻井は銭湯に入る。


「まぁちょっと遅ぇけど大丈夫だよな?」


 がらがら、と戸を開けるが、誰もいない。


「あぁ~、良い湯だなぁ」


 櫻井は一人で銭湯を堪能する。


 ガラガラガラ、と戸を開ける音がした。


「え?」

「え?」


 湯につかる櫻井の視界には、一糸まとわぬ新井の姿が、あった。





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― 新着の感想 ―
[一言] 安心と安定の櫻井だな。 どうせ男女湯入れ替えを待っていたんだろ。
[良い点] ハイ、現行犯ですね(ぉぃ [気になる点] 間違ったのは新井か櫻井か……そんな事はどうでもいいので それまでの会話じゃなくて視覚情報をだな [一言] って書くと、野郎どもの詳細が書かれるので…
[一言] 最近櫻井は天然だって信じてる。じゃなきゃイかれてるとしか思えない
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