第222話 修学旅行二日目はお好きですか? 3
黒野を連れた赤石たちは京都観光を終え、ホテルへとやって来ていた。
修学旅行二日目のホテル。明日が修学旅行の最終日になる。
『どうしよう赤石君、明日で修学旅行が終わっちゃうよ!』
飲み物を買いに来た赤石のスマホに一報が入る。
「そうか」
自動販売機の前の椅子に座った赤石は
『今日か明日が勝負だな』
と返した。
「またあなたなの?」
「赤石」
自動販売機の前で水城と何度かやり取りをしていると、高梨と黒野が現れた。
「なんでこんな所にいるんだよ」
「それは私のセリフよ。なんで二日も続けてあなたと会わなきゃいけないのよ」
「赤石なにしてた?」
黒野が赤石の隣に座る。赤石は咄嗟にスマホを隠した。
「……」
高梨は黒野と逆側に座り、赤石のスマホを奪い取った。
「おい、返せ」
「へ~……」
赤石が高梨からスマホを取り返す。
「恋人と連絡を取り合ってるのね」
「全然違う」
「はあ……」
水城との関係性を疑われているためか、高梨はため息を吐いた。
「まあ大体わかるわよ」
「じゃあスマホ取ろうとするなよ」
「高梨って案外横暴なんだ」
黒野が言う。
「思ってたより高梨はお嬢様っぽくないんだな、これが」
「人を選んでるのよ」
「それはどうも」
「褒めてないわ」
赤石はスマホをポケットに入れた。
「あ、赤石君!」
「赤石~」
「うわ~……」
暮石と上麦、そして鳥飼がやって来る。
「赤石君もお土産買いに来たの?」
「いや、ブラックトータスの気配を感知したから追ってきただけだ」
「何それ?」
「未知の生物と戦う主人公気どりしてるのよ、赤石君は」
この修学旅行を通して高梨たちは暮石たちと仲を深めていた。
「あはは、相変わらず赤石君は何考えてるか分かんないね」
「お前は感情が耳に出るから分かりやすいもんな」
「嘘!?」
暮石は頬を赤く染め、両手で耳を隠した。
「恥ずかしいときは耳が二度動く、怒ってるときは少し内側に巻く、楽しいときは外側に、悲しいときは細かく震えてるもんな」
「ちょっとちょっとちょっとちょっと~~~~!」
暮石は真っ赤な顔で赤石の口を封じた。
「ダメだよ赤石君、何言うの!? 皆さっき聞いたこと忘れてよ!」
「マジかよ……」
「知らなかった……」
鳥飼と上麦は暮石の耳を見る。
「ちょっと見ないでって!」
暮石は片手で赤石の口を封じ、片手で耳を隠す。
「それに暮石は――」
「わーーーーー―! わーーーーー! わーーーーー!」
暮石は大声を上げ、赤石の声をかき消す。
「何をやってるのよ暮石さん、あなたうるさいわよ」
「うるさいもどうもこうもないじゃん! 恥ずかしいから! 自分が何思ってるか知られようとしてるんだよ!」
「恥ずかしいときは耳が二回――」
「わーーーーーー! わーーーーーーーーーーーーー!」
暮石は赤石を叩く。
「ちょっと、止めてくれ暮石。放してくれ」
「じゃあ言わないでよ! 絶対だよ!」
「全く……」
暮石は羽交い絞めにしていた赤石を解放した。
「ちなみに暮石の――」
「わーーーーーーーーー!」
暮石が再び赤石にとびかかる。
「あかねちゃん、赤石君殺して!」
「任せろ!」
鳥飼が赤石を絞め殺そうとする。
「たかな、し!」
「ちょっとあなたたち、よそでやってよ。私たちまで容疑者になるでしょ」
「違う、だろ!」
赤石は鳥飼と暮石の拘束からなんとか抜け出し、上麦の後ろへ回った。
「はぁ……はぁ……この偽善者どもが! こいつがどうなってもいいんだな!」
赤石は上麦にジュースを渡し、人質に取る。
「だって、赤石君が悪いんだよ! あんなこと言うから!」
「赤石、おいしい」
上麦はマイペースにジュースを飲む。
「うるさいな……」
黒野は眉をひそめ、暮石たちを見ていた。
「あんなの嘘に決まってるじゃない」
「――え?」
はあ、とため息を吐いた高梨は暮石たちを見る。
「暮石さん、あなたあんな話本気で信じてたの? そんなわけないでしょ。そもそも赤石君はあなたが恥ずかしがってるのも怒ってるのも見たことがないはずよ」
「言われてみれば……」
暮石は百面相する。
「高梨の言う通りだぞ。他人の耳を見る趣味はないし、そもそもお前いつもは髪で耳隠れてるだろ」
「――あ」
暮石が耳を触った。今は髪型をハーフアップにしているため耳が見えるものの、普段の暮石の髪型からは耳は見えない。
「お恥ずかしいことをしました……」
暮石がさらに顔を赤くしながら平謝りした。
「本当よ。うるさいわね」
「まあ今は耳赤くなってるけどな」
「~~~~~~!」
暮石は耳を隠す。
「赤石君最低! 変態! 人でなし!」
「赤石よく人から怒られる」
振り向いた上麦が赤石を見上げ、言う。
「それだけ俺の能力が高いってことだろうな。嫉妬してんだよ」
「違うから!」
暮石は耳を隠しながら言った。
「そもそも赤石君なら暮石さんの耳ばかり注視しててもおかしくなさそうだものね」
「赤石、変態!」
「死ねこのクズが!」
「赤石……」
「赤石君最低! 女の子をこんなにもてあそんで!」
周りの人間から赤石はさんざ罵倒される。
「地動説を唱えたガリレオも、多分こんな気持ちだったんだろうな」
「「絶対違う!」」
暮石たちは意見を一つにした。
「あ、かいしくん?」
後ろから水城がひょこひょことやって来た。
「もしかしてお取込み中だったり……?」
「いや、全くそんなことはない」
水城は赤石の横に来た。
高梨、黒野は厳しい目で水城を見る。
赤石は高梨からスマホを奪い取られる前、自分がいる場所を伝えていた。
「あの、まだ自由時間だよね? 良かったら私の部屋でちょっと遊んだりしないかな、って思ったんだけど……」
水城はおずおずと訊く。
「私はいいわ」
「私もいい」
高梨と黒野は一番に抜ける。
「赤石君は……」
「ああ、行く」
赤石は二つ返事で返す。
修学旅行中、赤石は水城の恋愛の手伝いをすることを約束している。
高梨は冷たい目で赤石を見た。
「あ、そ」
「……」
高梨と黒野はそそくさと踵を返した。
「あ、じゃあ私も行こう……かな?」
「え、じゃあ私も行く」
「んー」
暮石たちは手を上げた。
「あ~……」
赤石のみを部屋に来させ、都合よく利用しようとしていた水城にとってこの状況は少しばかりややこしいんだろうな、と赤石は推測する。
「うん! じゃあ皆で遊ぼ?」
「うん、じゃあ行く」
暮石、赤石たちは水城の後ろをついて行った。




