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ラブコメの主人公はお好きですか?  作者: 利苗 誓
第6章 修学旅行 交際編
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第209話 バス旅行はお好きですか?


「悠人~、ご飯よ~」

「…………ん」


 修学旅行当日の朝四時、赤石は眠たげな眼をこすりながら、リビングへとやって来ていた。


「悠人、今日は修学旅行行ってきなさいね」

「はい」


 赤石は母親に作ってもらった料理を咀嚼し、準備をした。

 一時間後、赤石は家を出る。


「じゃあ行ってきます」

「は~い、行ってらっしゃい」


 赤石は家の扉を開けた。


「……っ!」

「……はっ!」


 扉を開けたすぐ先に、須田がいた。


「ち、違う! 違うんだ! これは何かの間違いだ!」

「何の間違いだ」


 須田が小声で言う。


「俺はやってない! 俺はやってないぞ!」

「犯人のセリフだな、それは」


 赤石は玄関で靴を探し始めた。


「思えば、あの時から俺の歯車が狂いだしたんだ……。あいつさえ、あいつさえいなければ裕子ちゃんは……!」

「突然過去を話し出す犯人止めろ」


 赤石はあくびをする。


「というかお前いつからいたんだよ」

「三分くらい前。五時集合だったろ? ちょっとしたサプライズをな」

「そうか。暇なやつだな」

「えへへ……来ちゃったっ」

「ラブコメのヒロインか」


 須田はカバンを左右に振りながら言う。


「早くして、悠」

「荷物が重いんだよ」

「はいはいはいはい! 赤石君の! ちょっと良い所見てみたい~!」

「パリピのノリ止めろ」

「はい、履~いて履いて履いて履~いて履いて履いて履~いて履いて履いて」

「どんだけ履かすんだ。二足しかねぇよ」


 須田は子気味良く手を叩く。


「あらあら統貴君、元気ねぇ」

「…………っす」

「思春期の少年止めろ」


 控えめに、軽く会釈した須田に赤石が言う。


「おばさん、おはざざざざーーっす」

「勢いで乗り切る野球部の挨拶止めろ」

「あははは、統貴君は今日も元気やねぇ」


 赤石たちは小声で話す。


「今日もおじさまは仕事なの?」

「日本アニメの純朴なヒロインの喋り方止めろ」

 

 赤石の母親はため息をつき、頬に手を当てる。


「そうねぇ、今日も朝早くからサーバーの保守に行ったわ。統貴君はシステムエンジニアなんてなっちゃ駄目よ」

「臨場感があるな……」

「ライブか。説得力だろ」

「じゃあおばさん、行ってきます!」

「はいはい、気を付けてね」


 そう言うと赤石と須田は家を出た。


「愉快なおばさんだな!」

「普通だろ」


 赤石と須田は二人で、集合場所へと向かった。







「じゃあ悠、俺あっちのバスだわ」

「ああ、俺はこっちだ。じゃあな」


 赤石と須田はそれぞれのクラスのバスへと乗り込んだ。


「おぉ赤石、お前が最初か」

「そうですか」


 バスの中には神奈がいた。


「一番最初に来るとは、殊勝な心掛けじゃないか」

「遅刻したら大変なんで」

「まあ遅刻した生徒がいると私ら確かに大変だからな~」

「他人事な……」


 神奈はけらけらと笑う。


「先生」

「ん?」

「学校辞めるんですか?」

「……転勤だよ」

「……そうですか」


 赤石はそれ以上は聞かなかった。


「じゃあ赤石、どこでも好きなところ座ってていいぞ。また次の生徒が来たら同じこと教えてやってくれ」

「分かりました」


 そう言うと、神奈はバスを出て他の先生と合流した。

 どこに座るでもなかった赤石は、バスの一番前の席に座った。

 そして待つこと五分。


「……あ」

「……」


 二番目にやって来た生徒は、上麦だった。


「赤石!」

「ああ」

「私一番乗り?」

「俺を除けばな。好きなところに座れ、って話だ」

「へ~」


 上麦は赤石の隣に座った。


「もっと空いてる席あるだろ」

「三葉来るまでここいる」

「今日はどうやって来たんだ?」

「お母さんに送ってもらった。早く着きすぎた」


 集合時間まで、まだ三十分以上残っていた。


「赤石早すぎ」

「こういうのは早めに来るタイプなんだよ」

「……あ」


 上麦は声を漏らした。


「前赤石ごちそうくれた。私もあげる」


 ん、と上麦は赤石に何かを手渡そうとした。


「……」


 ドロップスだった。


「……」


 赤石はドロップスを見つめる。

 上麦は、白いドロップスを持っていた。


「早く食べて」


 上麦は赤石とは逆の方向を見る。


「いらん」

「食べろ!」


 上麦は赤石の口に、無理矢理入れようとする。


「いらねぇよ! はっか味だろこれ! お前嫌いだから俺に食わそうとしてるだろ!」

「大人への第一歩!」

「お前の方が子供っぽいんだよ! 俺もはっか味嫌いなんだよ! 出したものは食え!」


 上麦は赤石の力に負け、仕方なくはっかあじのドロップを舐め始めた。


「うぅ……」


 上麦は眉間にしわを寄せ、はっか味のドロップスを舐め始めた。


「圧倒的な力ってのは、大抵つまらないものだ……」


 赤石がそう呟いた最中、バスの中に三人目、四人目の生徒が入ってきた。


「赤石君……」


 暮石だった。


「え、白波……え?」


 暮石が上麦と赤石を交互に見やる。


「三葉、助けて……」

「え!? え!?」


 暮石に抱き着いた上麦の頭を、暮石が撫でる。


「二人しかいないからって……赤石が……乱暴した」

「え!? ええええぇぇ!?」


 暮石が大声を出す。


「おい赤石、お前死にたいらしいな」


 後ろにいた鳥飼が舌打ちをしながら赤石を見る。


「言い方があるだろ。俺は正義を執行しただけだ」

「赤石君、やっぱり白波のこと……!」

「被害者面したやつが必ずしも被害者だとは限らないぞ、暮石」


 赤石は椅子の隙間にあるドロップスの缶を持ち上げた。


「はっかあじ以外全部食うぞ」

「赤石最低! 返せ!」


 上麦は赤石の手からドロップスをもぎ取った。


「ああ、そういうこと……ごめんね、赤石君。白波が本当に馬鹿だ」

「赤石、お前が悪い!」

「なんでだよ」


 暮石は自分にくっついて離れない上麦を連れたまま、後方の席へと向かった。


「あぁっ!?」


 通り掛けに鳥飼が赤石の顔にメンチを切る。

 赤石はため息をつき、また外の景色を見やった。









「あ、赤石……」


 数十分の時間が経ち、続々と生徒が表れ始めた。バスに乗車した八谷は赤石と目が合う。


「……おはよ」

「ああ」


 八谷は赤石の席の横で暫く立ち往生し、


「……」


 そのまま後方の席へと向かった。


「あら、赤石君」

 

 続けて、高梨が入ってくる。


「ああ」

「あなた一番前の席に座ってるのね」

「そうだな。この教室で最も権力のない人間がここに座る」

「醜い人間ね」

「なんでだよ」


 高梨は通路を挟み、赤石と反対の席に座った。


「赤石君の隣に座ったらまた吐瀉物をかけられそうだから距離を取らせてもらうわ」

「一回やったみたいな言い方するな」


 順調に、生徒が集まってくる。


「赤石、おっす!」

「ああ」

「赤石殿、おはようでござる!」

「おはようでござる」

「やあやあ赤石君、息災かい?」

「ああ」

「赤石……ふふへへ……」

「おはよう」


 後方の席から順に、席が埋まっていく。

 黒野は赤石の後ろの席に座った。


「赤石、一番前の席勇気あるな」

「酔うんだよ」

「そうよ、赤石君はすぐ酔うのよ。人間として耐久力が低いと言わざるを得ないわね」

「…………」


 黒野は押し黙った。





「おーーーい!」


 そろそろ集合時間も間もなくとなった中、神奈が慌ててバスに入ってくる。


「聡助見なかったか!?」

「え、櫻井君……?」

「櫻井の野郎……?」


 バスの中が、にわかにざわつきだす。


「聡助の姿が、見えない」


 神奈は慌てていた。


「あと、花波も来てないぞ……」

「嘘……」

「なんで?」

「何かあったのかな?」


 誰も櫻井と花波の情報を持っていなかった。


「大変なことになったぞ……どうする……」


 神奈は頭を掻きむしっていた。

 櫻井と花波が、いない。





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― 新着の感想 ―
[良い点] 赤石フレンズの絡みが好きです。 [一言] 櫻井「やばい、集合時間に間に合わない!?」 花波「どうしましょう!?」 櫻井「…よし電車で行こう。向こうでみんなと合流すれば大丈夫のはず!」 …
[一言] 無断欠席二名ということで出発ですね。 (一応家に電話とかしないとダメかもだけど。)
[良い点] アアアアアァ!!今日がスーパーの特売日じゃねーか!!
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