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ラブコメの主人公はお好きですか?  作者: 利苗 誓
第5章 夏休み 後編
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閑話 手料理はお好きですか? 2



「やっと着いた……」


 上麦は後半、半ば八谷に手を引かれながら赤石の家へとたどり着いた。


「帰りたい……」


 上麦は、いの一番に赤石の家に入り、置いてあった椅子にどさり、と座り込んだ。


「よく分かるよ」


 赤石は、買ってきた食材を冷蔵庫に入れながら言う。


「赤石、何作るのよ!」


 八谷が腕まくりしながら赤石に近づいた。


「お前がカレーって言ってたからな。カレーを作る」

「カレーね!」


 八谷は袋の中から野菜を取り出した。


「ピーマンいるわね!」

「まだカレーロース作ろうとしてるのか。普通のカレーだ」


 赤石は野菜の皮を剥きだした。

 上麦は椅子に座ったまま近くのリモコンを取り、勝手にテレビを見始めた。


「私は何すればいいのよ!」

「のんびりしててくれ」

「それじゃあ私の料理スキル育たないじゃないの!」

「育てに来てたのか……?」


 赤石は眉を八の字にする。


「じゃあ野菜むいてくれ」

「分かったわ!」


 赤石は八谷と分担して料理を始めた。




「出来たわ!」

「ああ」


 野菜の準備が出来た赤石と八谷は、具材を煮込み始めた。


「じゃあカレールーを入れる」

「二つね!」

「ああ」

「あと、コーヒー牛乳を……」

「え!?」


 八谷は口をあんぐりと開けた。

 赤石は関係なく、コーヒー牛乳をカレーに入れた。


「ちょっと! 何してるのよ! 馬鹿よあんた! なんでそんなことしてるのよ! 全然料理のこと分かってないじゃない!」

「カレーは味が濃いからこれくらいなら隠し味になるんだよ」

「そんなわけないじゃない!」


 八谷は困った顔で慌てる。


「じゃあチョコレートも入れておくか……」

「止め! 止めなさいよ!」


 八谷が赤石の手元からチョコレートを奪おうとしたが、


「あーーーーーーーーーーーー!」


 チョコはカレーの中に入った。


「赤石、八谷さん、うるさい! テレビ聞こえない!」

「なんで怒られてんだよ」

「あぁ~あ……」


 八谷は諦めたように、カレーを見た。


「あんたがこんなに料理音痴だとは思わなかったわ」

「そっくりそのまま返してやるよ、その言葉」

「あんた、料理はレシピ通りにって言っておきながら、全然レシピ通りじゃないじゃない」

「一般に敷衍ふえんしてる隠し味なら問題ないんだよ」


 暫くの間カレーを煮込み、出来上がる。


「出来たぞ、上麦」

「カレーだ!」


 上麦はテレビを消し、勢いよく食卓へと向かった。


「カレー食べる!」

「はしゃぐなよ、飛び散るぞ」


 身の丈に合わない大きな服を着た上麦に、赤石は注意を向ける。


「カレー! カレー!」


 上麦は自分の更に盛られるカレーを、スプーンを持ったまま体を揺らし、待っていた。


「カレー好きなのか?」

「食べ物が好き!」


 思えば上麦は色んな所で色んなものを口にしていた気がするな、と赤石は記憶をめぐらせる。そして上麦の上背を見た。


「何見てる! 食べてるのに大きくならないの不思議がった! 駄目!」

「そうか」


 赤石は上麦から視線を外した。


「上麦さん、注意した方が良いわよ。赤石、カレーにコーヒー牛乳とか入れてたわよ」

「まあ牛乳でもよかったけどな」

「絶対まずいわよ」

「?」


 上麦は小首をかしげる。


「なんで? カレーにコーヒー牛乳、よく聞く。まずくないと思う」

「え?」

「……」


 赤石はふ、と鼻で笑う。


「な、なによ!」

「食べたら分かる」


 上麦はカレーを口いっぱいに頬張った。


「美味しい! 普通の味!」

「普通が一番だよ」


 赤石もカレーを食べ始めた。


「嘘よ……」


 八谷もまた、カレーを食べ始めた。


「…………」


 無言で咀嚼を繰り返す。


「お味は?」

「普通に美味しいわ」

「そうか」


 赤石は食べ進めた。


「まあカレーは誰が作っても簡単に出来るし上手いからな。よっぽど無茶なことしない限り」

「まだまだ料理道は遠いわね……」

「遠ざけてんだよ」

「普通が一番!」


 三人はカレーを頬張った。


「赤石、おかわり!」

「ああ」


 赤石は上麦から皿をあずかり、盛った。


「まずくなかったら全部おいしい!」

「良い舌してるな。料理はレシピ通りにやれば、普通は失敗しないし、普通に美味いものが出来上がる。この世の摂理だよ」

「白波、包丁持てない」

「まあ適材適所だ」


 八谷は悔しそうな顔をしながら、カレーを食べた。

 三合のご飯が、消えた。






「赤石、ご飯美味しかった! ありがとう!」


 上麦は背伸びをした。


「ああ」

「来てよかった! これからも料理をどんどん作って欲しい! 作るのは嫌いだけど食べるのは好き!」

「また気が向いたらな」

「満腹!」


 上麦はお腹をさする。


「じゃあ帰ると良い」


 短針は八の字に届こうとしていた。


「そうね。上麦さん、駅?」

「白波、駅! 八谷さんは?」

「私も駅から近いから駅まで行くわ」

「じゃあ俺も行くよ」


 赤石は自転車を取り出した。


「い、良いわよ、悪いし!」

「悪いというなら、もうここまで来た時点で相当悪い」

「そ、それはそうだけど……」


 八谷はもじもじとする。


「乗った! 赤石進め!」


 上麦は赤石の自転車の籠に荷物を置き、荷台に乗った。


「おい止めろ、二人乗りは道路交通法違反だぞ」

「窮屈な世の中なった」

「全くだよ」


 上麦は降りた。


「でも白波足疲れた。白波こぐ」

「いいぞ」


 赤石は上麦を自転車に乗せた。


「…………」


 赤石は自転車のハンドルを持つ。

 上麦の脚は、地面までまだまだ距離があった。


「ぴったりだな」

「どこが! サドル高い! 馬鹿にした!」

「サドルが高い方が早く簡単にこげていいんだよ」

「赤石馬鹿! 下げて!」


 赤石はサドルを下げた。上麦は満足そうに、走り出した。


「あ、赤石」

「なんだ」

「悪かったわね、突然押しかけて」

「全くだ。明日から学校だぞ」

「夏休み、終わるわね」

「そうだな」

「楽しかったわね」

「まあ休みは例外なく楽しい」


 八谷と赤石は二人で歩き、その前を上麦が自転車でこぐ。


「夏祭りとかプールとか、今年の夏は色んな所に行ったな。多分来年はこうはいかない」

「私もどっちも行ったわ……」


 行きはしたが、赤石と帯同していたわけではなかった。


「明日からは毎日会えるわね」

「そうだな」

「修学旅行楽しみね」

「微妙だ」

「なんでよ!」


 八谷は赤石の肩を叩く。


「また料理とか勉強とか教えなさいよ」

「暇ならな」

「……」

「……」

「赤石、私たち仲良くなったわよね」

「気持ちの悪いことを言うな」


 赤石は八谷から一歩距離を取る。


「何よ、それ! おかしいじゃない!」

「お前らしくもない」

「私らしいって何よ」


 八谷はぷい、とそっぽを向く。


「……」

「……」

「赤石」

「なんだ」

「赤石と聡助ってなんで上手くいかないのかしら」

「……」


 八谷は、赤石に櫻井と仲良くなって欲しい。

 仲良く幸せに暮らせればいいが、そうはいかない。そううまくいくわけには、いかなかった。


「性格が違うんだろ」

「……」

「……」

「どこのあたりがそう思うのよ。あ! そうよ、私がそれとなく聡助にそう言って、赤石が嫌だって思うところ改善してもらったり――」

「余計な気を回すな。一度嫌いになった人間を好きになるのは、難しい」


 そして櫻井が赤石のために何かをする人間ではないことは、赤石自身よく分かっていた。


「……」

「……」


 八谷は黙り込み、地面を見た。


「じゃあ特にどこが嫌なのか教えてよ」

「そうだな……」


 赤石は八谷を見た。

 お前みたいなのが櫻井を好きであること、そういうところが、一番嫌いだよ。

 そうは、言えなかった。


「まあ色々だな。お前と高梨が上手くいかないのと一緒だ」

「私は高梨さんとだけじゃないわよ……」


 八谷は最近、どんな人間とも上手くいっていない。

 そんな気がしていた。


「いつからお前はそんなに落ち込むキャラクターになったんだよ。明るく明朗快活にいけよ」

「赤石はそっちの方が良い?」


 八谷が赤石の目を見る。


「さあな」

「ねえ」

「俺は何でもいいよ」

「何がいいのよ、あんたからして」

「……」


 詰めてくるな、と思った。


「好みを共に出来ること、かもしれないな。分からない」

「好みを共に出来ること……」


 八谷はぶつぶつと呟く。

 赤石は八谷に対して、負い目を感じている。


「赤石が考えてることって、よく分からないわよね」

「そうか?」

「そうよ。もっと私に、あんた自身のことを教えなさいよ」

「全て開示してるつもりだ」

「あんた、なに考えてるのか何もわからないのよ。好きなもの、好きなこと、嫌いなもの、嫌いなこと、教えなさいよ」

「突然言われても困る」


 赤石は返答に窮した。


「ちょっとそこ、遅い! 白波の自転車の方がもっと速い!」

「てめぇ、自転車返せ」

「変態! 来ないで!」


 赤石は上麦を追いかけ、上麦は走って逃げた。


「危ないから速度を落とせ!」

「じゃあ走る駄目!」


 赤石は歩いた。

 上麦も速度を落とした。

 そうこうしているうちに、三人は駅に着いた。


「じゃあ白波ここでお別れ。駅着いてからお母さんに来てもらう」

「悪かったな、いろいろ」

「ううん。白波美味しかった。お母さんに報告する」

「報告ってなんだよ。なんで俺が悪いことした、みたいなニュアンスになってんだよ」


 にひひ、と上麦は笑った。

 そして赤石と八谷は上麦を送り出す。


「じゃあお前の家行くぞ」

「悪いわね……」

「まあ途中で事件に遭われても寝覚めが悪い」

「何よ、その理由」


 赤石は八谷を家まで連れて行った。


 八谷の別荘の前で、八谷は赤石に手を振った。


「おやすみ、赤石」

「ああ」

「……」

「……」

 

 赤石は踵を返した。


「赤石!」

「……?」


 赤石は振り向く。


「後でカオフしてもいいかしら?」

「まだ外だぞ」

「赤石が帰ったら!」

「好きにしろ」


 赤石はまた歩みだす。


「電話で!」

「だから好きにしてくれ」


 赤石はそのまま、帰り始めた。段々と、赤石の背中が小さくなっていく。


「…………」


 八谷は小さくなっていく赤石の背中を見て、一抹の寂しさを感じていた。なんともしれず、目がうるんでいるような、そんな気さえした。


「赤石、おかえり」


 八谷は赤石のカオフに対して、そう打ち込んだ。


「まだ帰ってないって言っただろ」


 そう返事が返ってくる。

 夜の寒さに当てられたか、頬を赤くした八谷はごしごしと頬をこすり、家へ入って行った。






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― 新着の感想 ―
[一言] できとるやん 赤石君と八谷さん櫻井君が居なかったら、できとるやん でも櫻井君が居なかったら、この二人に、そもそもの接点が無かったわけで…ままなりませんね。
[良い点] 追いつきました。 八谷の赤石への距離の詰め方が、気があるようで、少し引っかかりました。修学旅行編が待ち遠しいです。
[気になる点] 八谷ってまだ櫻井好きなのになんで赤石にちょっかいかけてるんだろう? 友達のレベル超えてて完全に気のある男にやるちょっかいのかけ方なんだが こういうのこのまま読んでればわかるようになるの…
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