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ラブコメの主人公はお好きですか?  作者: 利苗 誓
第5章 夏休み 後編
221/592

閑話 高梨散歩はお好きですか?



「さあ、今日も始まりました、土曜二十二時恒例、須田散歩―――!」

「……」

「はい、拍手!」


 パチパチ、と乾いた拍手が送られる。


「そして今回の須田散歩にはゲストが来てくれています」

「誰だ?」

「そう、聞いて驚くことなかれ! 頭脳明晰に容姿端麗、伊藤若冲かぎりなしの、高梨お嬢様です!」

「伊藤若冲は四字熟語じゃないわよ」

「わぁーーーー!」


 須田が拍手を送る。


「さて、高梨さん、今回須田散歩に出演することになりましたが、いかがお思いでしょうか?」

「そうね、全てを忘れさせてあげるわ」

「おーーっと! 強気な発言! 強気な発言! アナウンサーの赤石さん、どう思いますか?」

「まさか高梨お嬢様が出てくるとは思わなかったので正直驚いていますね」


 赤石はマイクを持つパフォーマンスをする。


「いつまでこのテレビ風なのは続くのよ」

「今までです!」

「そうか」

「それにしても高梨、お前こんな夜中に外に出てよかったのか? 俺は心配だぞ」


 須田が訊く。


「大丈夫よ。今私は別荘暮らしよ。夜遅くに出ることなんて簡単だわ」

「那須さんに怒られたんじゃないのか?」


 高梨は半眼で赤石を見る。

 図星か、と赤石はため息を吐く。


「大丈夫よ、赤石君と統貴と夜のお散歩に行くって言ったら許してくれたわ」

「どことなく危ない言い方な気がするのは俺だけか」


 赤石たちは歩きだした。


「でも赤石君、夜に屈強な男の子二人で歩いてて怖い思いをすることなんてあるのかしら?」

「屈強な男は統貴だけだと思うが、あるにはある」

「たしかに、あったな昔」

「ああ」

「ちょっと何よあなたたち、二人の間で完結させないで私にも教えなさいよ」

「そうだな……あれは、ちょうど一年くらいまえのことだったかもな……」


 赤石は昔を懐かしみ、語りだした。






 赤石と須田は二人、夜の散歩を楽しんでいた。


「いや~、やっぱ夜の散歩は虫の声が心地良いし、静かだし、月綺麗だし涼しいし、良いことばっかだなぁ~」

「まあちょっと怖いけどな」


 赤石と須田は笑う。

 夏の夜は須田たちが散歩をするのに、ちょうど良い時期だった。


「あ、公園じゃん。ちょっと寄っていく?」

「そうするか」


 二人は公園へと入った。


「いや~、夜の公園は夜の公園でまたひとしお~…………」

「……」


 須田と赤石は同時に足を止めた。


「悠、なんか俺耳鳴りするわ」

「奇遇だな、俺もだ」


 須田と赤石は耳を抑える。

 

「二人同時に耳鳴りなんて珍し――」


 キーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー。

 耳をつんざく、甲高い音が響いた。


「これ、本当に耳鳴りか?」

「いや、違うな」


 赤石と須田は周りを警戒する。


「モスキート音かもしれない」

「モスキートーン? 何それ? 新作のアイス?」

「だといいけどな」

「モスキートって、蚊……だっけか?」

「ああ、モスキート音っていうのは、比較的年が若い人にしか聞こえない音のことだ。夜の公園とかに若者がたむろしないように、モスキート音を流すところもある、と聞いたことがある」

「じゃあこれもモスキート音か……うっ!」


 須田は耳をふさぐ。

 張り裂けそうな音は、どんどんと鋭くなり、二人を襲っていた。


「これはいよいよ怖いな」

「どこから音が鳴ってるのか分からない」

「どうする?」

「ちょっと広場に出てみる……か?」


 赤石と須田はあたりが見渡せる広場に出た。


「……」

「……」


 耳を澄ます。

 音はすぐ近くまで迫っていた。


「事件のにおいがする」

「かもしれない」


 赤石と須田は物陰に隠れながら、ゆっくりと音のする方へと近づいて行った。


「統」

「ああ」


 赤石と須田は音源と思われるすぐ近くまで来た。

 赤石も須田も、相手を視認できる距離ではない。そしてそれは相手にも同じだった。


「いっせーので、で出るか?」

「ああ」

「いっせーのーで!」


 バッ、と赤石と須田が音のする方へと姿を現した。


「ひぃっ!」


 そこにはバイオリンを持つ四十代の男が、いた。


「……な、なんですか!?」

「す、すみません……」


 須田と赤石は頭を下げ、へこへこと帰って行った。


「音楽の練習だったな……」

「そうだな……」

「夜の公園って案外音楽の練習をするのに最適なのかもしれないな」

「かもな」


 






「とまあ、こういった具合だ」

「なによその話」


 高梨は呆れた顔で赤石たちを見ていた。


「まあ、楽しいは楽しいけどちゃんと安全に配慮しようね、という話だなあ」

「そうだな」


 須田と赤石はのんきに歩く。


「そうね……あ」


 高梨はてくてくと道の端に向かって歩き出した。


「赤石君、統貴、見てみなさいよこれ」

「「……?」」


 赤石と須田は高梨の指さしたものに近寄る。

 そこには夜も変わりなくそり立つ、タンポポがあった。


「ただのタンポポ……」

「英語でダンデライオン」

「なんで英語で言うのよ。綺麗ね」


 ふふふ、と高梨はタンポポを見る。


「おいおい高梨、そんなことでいちいち須田散歩に感動してちゃ、この先が思いやられるぜ!」

「なんで外国風なんだよ」

「夜の道って、こんなに綺麗なのね」


 高梨は翻り、道の真ん中を軽快なステップで進んでいった。


「あいつテンション高いな」

「夜の散歩に慣れてないんだろうな。あるいは、今まで夜に出歩いたり出来なかった分、その反動があるのかもしれないな」


 赤石と須田は先に先に、と進む高梨を温かい目で見る。


「赤石君、統貴。私、今すごく楽しいわ」

「……ああ」


 高梨は空を浮かぶ月に手を伸ばした。


「夜っていろんなものが綺麗に見えるのね。星、月、草、花、道、それに家族団らんの声も聞こえてくるわ。高層ビルの屋上じゃあ見えなかったものがたくさん見えてくるわ」


 高梨は目を閉じてそっと耳に手を当てる。


「楽しそうだな」

「楽しいわ!」


 高梨はひらひらと踊りながら進む。


「赤石君見て、シロツメクサよ!」

「文化祭が懐かしいな」


 高梨は近くの木に相対した。


「統貴、あなたこんなところで立ち止まって何してるのよ」

「それは大木だ!」

「ウドの大木だ、と揶揄してるんだろうな」

「俺への偏見がひどい!」


 赤石と須田は高梨の後をついていく。

 そのうち、大きな公園へと入って行った。


「大きな公園ね、ここは」

「昼間は家族連れの大人がいっぱいいたりするぞ」

「そうなのね」


 高梨は道なりに歩く。


「赤石君、統貴! ブランコ!」


 高梨はブランコを指さし、腕をぶんぶんと振った。


「子供か、お前は」

「全く……」

「一番を決めるわよ! もちろん、私が一番よ!」

「あんまりはしゃぐなよ。危ないから」

「分かってるわよ!」


 高梨はブランコに飛びついた。


「だから危ないって」

「誰が一番こげるか勝負よ!」

「ダメだ。高梨、止まれ」


 高梨はスピードを落とした。


「ブランコっていうのはゆっくり漕ぐから趣があるんだよ。早くこいでちゃ趣がない。鹿威しとおなじだ」

「悪かったわ……」


 高梨は頬を染め、ゆっくりとこいだ。


「ごめんなさい、少しテンションが上がっちゃって」

「夜の公園がそんなに好きか?」

「公園に来る機会なんてほとんどなかったのよ」

「……」

「……」


 赤石と須田は黙った。

 

「それに、夜の公園って何か興奮するじゃない」

「なんかエロ同……」

「おっと統貴、それ以上は止めてもらおうか!」


 赤石は須田の言葉を制した。


「何を言おうとしたのよ」

「お前には早い世界だ」

「何よ、余計気になるじゃない」

「夜の公園に興奮した高梨。知らぬ間に屈強な男に取り囲まれて……」

「止めるんだ統貴、色んなものが失われる」

「そういうことね……」


 高梨は察した。


「でも二人とも、ありがとう。今日はこんな素敵なところに連れてきてくれて」

「夜に公園に連れて行っただけでこんなに喜ばれるなら冥利に尽きるよなあ」

「安い女だ」

「失礼ね」


 高梨はブランコを漕いだ。


「赤石君、統貴」

「何?」

「なんだ」

「新学期、楽しみね」


 赤石と須田は顔を見合わせた。


「そうだな」

「皆でまた、目いっぱい遊びましょうね」

「……そうだな」

「私は皆と出会えて幸せよ」

「またガラにもないことを……」


 赤石たちはブランコを、漕いだ。





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― 新着の感想 ―
[良い点] 面白くて一気に読めちゃいました(゜∀゜*)(*゜∀゜)これからも頑張って下さい(´p・ω・q`)♪ [気になる点] 三千路ってどう読むんですか(-ω- ?)
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