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ラブコメの主人公はお好きですか?  作者: 利苗 誓
第5章 夏休み 後編
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第194話 高梨の想いはお好きですか? 2



「あなた、八谷さんと初めて出会った時を覚えているかしら」

「初めて?」


 赤石は記憶をたどる。


「確か、ゴミ当番か何かでゴミ捨てについていった気がする」

「そうよ。八谷さん、何か言ったなかったかしら」

「いや、特に何も……。強いて言うならそういう目で見てこない男子が良い、みたいなことを言っていた気がする。誰でも大差ない気はするが」

「それは、私のせいよ」

「私のせい?」


 赤石は高梨を見る。


「八谷さんに、赤石君に近づくようにけしかけたのは私よ。赤石君は恋愛サポート上手だから赤石君に話しかけてみるといいわ、といった具合にね」

「なんでそんなこと」


 八谷が話しかけてきたのは偶然ではなかったのか、と赤石は得心する。


「嫌いだからよ」

 

 高梨は言う。


「どこが?」

「自分の容姿ばかりに頼って何も精進しないところ、よ。私がお父様に無理に稽古をつけさせられたこともあって、嫉妬していた節もあるわ」

「嫌いだから俺に近づけてどうしようと思ったんだよ?」

「八谷さんを櫻井君の周りから排除しようと思ったわ。それで赤石君と八谷さんがくっつけば一石二鳥だと、そう思ったわ」

「……なるほど」


 八谷との出会いは、高梨に仕組まれたものだった。


「それから私はことあるごとに八谷さんを赤石君にけしかけたわ」


 赤石は静かに聞く。


「そこで八谷さんのいじめの事件が起こったわ」

「ああ」


 八谷の写真をばらまき、悪意のある言葉でクラスを煽動した、あの事件。


「私は責任感を感じたわ。私が八谷さんを赤石君に焚きつけたせいであんな事件が起こって……。私は事件の解決に向けて動き出したわ」

「ちょっと待ってくれ」


 赤石は高梨を手で制した。


「ちょっと待ってくれ、お前が八谷のいじめの事件は私の責任だ、って言ったのは、お前がクラスを煽動した、じゃなくて、お前が俺に八谷を近づけた、って意味か?」

「そうよ」

「紛らわしい言い方をするな。ならお前がやったんじゃねぇじゃねぇか。俺を弄んで楽しいか」

「だから最初からある意味私のせいかもしれない、と言ったじゃない。それにそうだとしても私が事件の引き金になったのは間違いないわ」


 高梨は沈鬱な顔をする。

 赤石は高梨に責任があるとは、思えなかった。


「まあいい。続けてくれ」

「それで、私は事件の解決に向けて動き出したわ。まずは、統貴と櫻井君が事件の解決のために行動するのを止めたわ」

「なんで……?」


 確かにあの時、櫻井と統貴は助けに来なかった。統貴は別クラスであるからともかくとして、櫻井が助けに来なかったのは少しばかり疑問に思っていた。


「あれはあなたと八谷さんの間で解決しないといけないじゃない。櫻井君が出しゃばったら全部なあなあにされて終わるだけじゃない。八谷さんとあなたの話なのに櫻井君が出張ったところで問題の根治にはならないわよ。あなたも八谷さんも、そのあともずるずると嫌な目に遭うんじゃないかと、私はそう思ったわ。だから私はあなたたち二人で解決できるようにしたのよ」

「そうか……」


 櫻井が出張っていたら、あの時何が起きていたのか。過ぎたことは分からないが、確かにあの後もちりちりと嫌がらせにあっているような、そんな気がした。


「結果的に赤石君が全責任を負う形で事件は終結したわ。そしてあなたと八谷さんの距離も縮まった。……いえ、もしかすると私はあなたと八谷さんの距離が縮まることをも想定して、櫻井君にも統貴にも行動させなかったのかもしれないわ」

「俺ばっかりに迷惑がかかってるじゃねぇか」

「ごめんなさい」


 高梨は謝る。

 また高梨が罰せられることを要求することを危惧した赤石は、早めにとりなした。


「結果的に上手くいった私は慢心したわ。他の女の子も櫻井君の周りから排除できれば私はついに、自分の意思で櫻井君を獲得できると、そう思ったわ」

「……」

「上手くはいかなかったんだけど……」


 そうだな、と赤石は返す。


「でもあの件から、八谷さんが櫻井君への不信感を強めたのかもしれないわ。だとしたら私が完全に悪いわ」

「櫻井が八谷に助けるのを止められた、ってことを言わないようにも口止めしたのか?」

「してないわよ。でも櫻井君ならしないでしょ。そんな自分の地位が下がりそうなこと」

「助けに行かない方が地位が下がりそうだけどな、俺は」

「私はあの時、櫻井君が事件に首を突っ込むなら縁を切ると言ったわ」

「お前……そんな諸刃の剣……」

「そうね」


 高梨は天井を見た。


「それで縁切られたらどうしてたんだよ」

「それならそこまでよ。櫻井君はそう言われたら手出しはしないわ。でも、そういうような女だから誰にも選ばれなかったのかもしれないわね……」

「それは本当に一理あるぞ。今後控えてくれ」

「分かってるわよ、うるさいわね。それに櫻井君が手出ししてもなんだかんだと理由をつけて縁を切るつもりなんてなかったわよ」

「クズすぎる」


 高梨は眉間にしわを寄せる。


「悪かったわね、クズで」

「今後控えてくれ」

「分かってるって言ってるでしょ」


 高梨は赤石に再び視線を戻した。


「ここまでが、八谷さんがいじめられるまでの事件の全てと、私が考えていたことよ」

「なるほどな……」


 赤石はソファーにくつろいだ。


「ってことは、八谷はお前が何をしたのか知ってるってことか」

「私が何を考えていたかまでは知らないにしても、私が何をしたのかは大体知っているはずよ。でも……」


 高梨は言葉に詰まる。


「私が何を考えていたのか、八谷さんにも言わないと駄目かしら……」


 苦い顔で、赤石を見る。


「正直、私は自分の考えていたことを他人に話したくないの。私がどうしてあんなことをして、何を考えていたのか。私が過去の自分と向き合って、自分の罪と何度も向き合って、それでも私は自分が何を考えていたのか、言わなきゃいけないかしら。正直…………苦痛だわ」


 赤石は頭をかいた。


「まあ、じゃあ言わなくてもいいんじゃないか」

「ごめんなさい。本当に、言いたくないの」

「他人に自分があの時何を考えてて何をしてたかなんて言う必要ないだろ。でもなんで俺には言ったんだ? 俺にも秘密にしておけば永遠に闇に葬れただろ」

「あなたは私を助けてくれたじゃない」

「これからが大変かもしれないぞ」

「だとしても、あなたが私に力を貸してくれたのは事実よ。私はあなたを裏切りたくなかったのよ」

「~~~~~」


 はがゆい気分になった。


「まあ、八谷に実害はないからいいんじゃないか。櫻井を止めたのはお前、くらいは言っといた方が良いかもな」

「じゃあ頼むわね」

「言っとくよ。それで八谷が櫻井のこと嫌いになっても面白くないしな」


 まあ、今でも櫻井が好きな八谷に実害はないとは思うが、と心中で呟く。


「これからは文化祭の話になるわ。ここでもまた私の汚い部分を垣間見ることにはなるけれど、いいかしら」

「頼む」


 高梨は息を整えた。


「文化祭が始まる日、私はここからあなたに近づくことになるわ」

「お前とよくしゃべるようになったのはその時からだな」


 文化祭が、始まる。






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― 新着の感想 ―
[一言] 写真の犯人誰なんだろ? 新井、葉月、霧島?分かんねぇな〜
[一言] ゑ?ゲーセンで盗撮してたの高梨じゃなかったの? あと櫻井が引き止められてたとは意外だった、てっきり、櫻井の思考では女子に対して何か動いたら自分の手を汚すことになる、イジメの主犯は平田って女子…
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