第190話 バーベキューはお好きですか? 3
「いや~食べた食べた」
バーベキューも終わった午後三時、一同は同様にくつろいでいた。
「ありがとう高梨、今回こんな会を開いてくれて」
須田が高梨に言う。
「いいのよ、統貴。夏休みももう終わるんだからこのくらいの贅沢はゆるされてもいいんじゃないかしら」
「なるほど。もうあと五日後には学校か~」
赤石たちは二学期を目前に控えていた。
「皆さま、バドミントンなどございますが、軽く遊ばれますか?」
赤石たちがのんびりとした時間を過ごしている中、那須が声を上げた。
「バドミントン!」
三千路が目を輝かせる。
「バドミントンやります!」
はいはい、と三千路が手を上げ、那須に駆け寄る。
「三千路さんってバドミントン得意なの?」
「バド部だからなあ」
暮石の疑問に、赤石が答える。
「じゃあ私も混ぜて~」
暮石は三千路の下へと歩き出した。
そしてつられるように、何人かがバドミントンに加わった。
「私のスマッシュを食らえ!」
「三千路さんつよ~い」
三千路たちは、はしゃいでいた。
「楽しそうだねえ」
「そうだな」
霧島と赤石は自席でバドミントンを見ていた。
「ところで八宵ちゃん、これからのスケジュールは決めてるのかい?」
「特には決めてないわね。バーベキューも終わったんだから帰ってもいいわよ。残りたい人はここに泊まって合宿のようなものを開こうと思っているわ」
「わあ、それはすごいね。この家の中を隅から隅まで探索できるなんて楽しみだあ」
「そんなことは言ってないわよ。ちゃんと部屋を割り当てるつもり」
高梨は水を飲み、一服した。
「やあやあやあ、僕も混ぜてくれないかい」
霧島は立ち上がり、バドミントンの輪に加わった。
「そういえばさっき高梨さんが今日家に泊まらないか、って言ってたようだけど、皆はどうするんだい?」
「え、いいの!? でも私服とか持ってないから持ってこなくちゃ……」
「あ、じゃあ私も泊まりたい! 服はそこらへんで買う!」
「豪快だなあ」
バドミントンをしながら、夕方から開催される高梨の合宿に心を躍らせていた。
ピコン、と赤石のスマホが鳴る。
『赤石君、私二学期始まってからの修学旅行で、また櫻井君に告白したいと思うんだけど、どうしたらいいと思う?』
水城からカオフが届いていた。
『また次会った時にでも考えよう』
『考えてくれるんだ! ありがとう!』
赤石はあたりさわりのない内容を返信した。
三千路たちは、めいめいに思い思いの時間を過ごした。
「あら赤石君、そんなところで何をしてるの?」
バドミントンが終わり、近くの森の探索やカードゲームにそれぞれがいそしむ中、赤石はお茶会の開かれたテーブルで那須と二人、話していた。
「いや、那須さんと話してただけだ」
「そんなもの、見れば分かるわよ。何を話していたの?」
「勉強法について聞いていた。那須さん、かなり良い大学を出てるんだな」
「あら、そうなの。真由美、懇切丁寧に教えてあげなさい」
「ぎょ、御意に」
那須は少々たじろぎながら、返事をした。
普段着に着替えた高梨は赤石と那須のテーブルに着席する。
「赤石君、楽しんでもらえたかしら」
「ああ。楽しかったよ、ありがとう」
高梨は紅茶に口をつける。
「皆楽しそうね」
「そうだな」
カードゲームを楽しむ須田、三矢、山本、三千路たち。
フリスビーをする船頭、暮石、鳥飼、志藤たち。
マッサージ器で体を癒す安月、上麦。
服を取りに帰った八谷たち。
「私はこの家にこんなに人がいることに感激しています」
「へえ」
那須は目をキラキラと輝かせる。
「そういえば赤石君、今日はこの家に泊まるの?」
「ああ、泊まらせてもらってもいいか?」
「いいわよ。統貴たちも泊まるらしいわよ」
「知ってる」
赤石は言う。
「楽しい夏休みだったわね……」
「……そうだな」
思い返すが、夏休み後半、夏祭りにプールにバーベキューと、予定が目白押しだった
「俺らしからぬ夏休みだったよ」
「勉強はしたのかしら」
「ああ、ちゃんと」
赤石は古文の単語帳を取り出した。
「そんなものを持ってくるんじゃないわよ、あなた」
「隙間時間を有効に使ったよ」
「遊びの場で勉強することほど身につかないことはないわよ」
「そりゃそうだ」
赤石は笑う。
「では、そろそろ皆さまに家に集合するようにお伝えしますか?」
那須が立ち上がった。
「そうね。皆を集めましょう」
高梨はその場の全員を集め始めた。
高梨の別荘での一日は、大盛況にして、終わることとなった。
「昨日今日とありがとう、高梨さん!」
「楽しかったぜ!」
「私も楽しかった!」
皆が口々にお礼の言葉を言う。
「じゃあ皆、気を付けて帰るのよ」
「「はーーい!」」
赤石たちは、帰路についた。
「……」
「……」
高梨と那須は、赤石たちの姿が見えなくなるまで、手を振っていた。
「……」
「……」
「帰ったわね」
「そうですね」
那須と高梨は、憂いのある目で見送った。
「じゃあ……行きましょうか」
「はい、お嬢様」
「重ね重ね、付き合わせて本当に悪いわね、真由美」
「いえ、これはお嬢様の進退にかかわることですから」
高梨の那須は着々と準備を始める。
「じゃあ行こうかしら、お父様の会社に」
「はい」
高梨と那須はスーツを着ると、別荘を出発した。
「待ってなさい、お父様」
「お嬢様のご健闘を祈っております」
今後の未来に関わる道を、二人は歩きだした。




