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ラブコメの主人公はお好きですか?  作者: 利苗 誓
第5章 夏休み 後編
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第187話 プールはお好きですか? 6



「いやあ、楽しかったなあ、プール」

「そうだな」


 須田を先頭にして、赤石たちは高梨の下へと向かっていた。


「お~~~~い、高梨~~~~~~~、ウニ取れたぞ~~~~!」


 須田が片手を振りながら高梨の下へと歩く。


「嘘をつきなさいよ統貴。わかめじゃない、それ」

「どっちでもねぇよ」


 赤石が割り込んだ。


「いやあ、面白かったなあ」

「私も」

「私も面白かった~」


 鳥飼、上麦、暮石が口々に言う。


「赤石君、三千路さんと須田君を連れてきてくれてありがとうね」

「別に俺が連れてきたわけじゃないぞ。勝手についてきたんだ」


 赤石は須田と三千路を見た。


「は!」


 三千路は片手を前に、ポーズを取った。


「いや、悠が連れてきたんだよ。鈴奈も~ん、僕鈴奈がいないとプールにいけないよぉ~、って泣きついてきたのよね、本当」

「いつから俺はそんな弱虫キャラになったんだ」

「え、本当なの!?」


 暮石が驚く。


「本当じゃねぇよ。こいつの言うことは信じるな」


 赤石が三千路を瞥見する。


「しょうがないなあ、悠斗君は。ということで、私がついてきたわけよ」

「あははは、悠人君らしいや」

「嘘つけ」


 続く霧島の言葉を、赤石は否定した。


「あ、悠人、八谷ちゃんが呼んでたよ」

「ああ」


 思い出した赤石は遠くで見ている八谷の下へと赴いた。


「遅いわよ、赤石」

「なんでそんな遠くで見てんだよ」

「怖いのよ」

「怖くないだろ」

「拒絶されるのが、怖いの」

「……」


 八谷にしてはえらく弱気で素直だな、と赤石は目を丸くした。


「それに赤石のいるところ人多すぎよ。私の知らない人もいっぱいいるじゃない」

「そう言われれば確かにそうなのか」


 暮石に上麦に鳥飼、志藤に船頭に須田に三千路。

 八谷とあまり面識がないメンツが、そろっていた。


「正直俺は今でも高梨がこんな大人数で遊びに行くことを提案したことの方が驚きだけどな」

「私もよ」


 八谷はもじもじと体を動かしている。


「じゃあな、八谷。また夏休み明け」


 赤石は手をあげ、八谷と別れの挨拶をした。


「ちょっとあんた馬鹿!? 何よそれ、約束したじゃない!」


 八谷は自分の服の裾を引っ張りながら、顔を赤くして怒った。


「そんなに怒るなよ。冗談だろ」

「あんたが言うと冗談に聞こえないのよ」

「俺はいつでも本気だよ」

「冗談で本気を包まれるとわけがわからなくなるでしょ!」

「そうだな」


 赤石は百面相する八谷を見て、楽しんでいた。


「じゃ、じゃあ赤石、行くわよ」

「ああ」


 八谷は高梨の下へと、ゆっくりと歩き始めた。


「早く行けよ」

「うるさいわね、覚悟が必要なのよ」

「じゃあ止めるか?」

「止めないわよ!」


 赤石にせかされるようにして、八谷は高梨の下へとやってきた。


「あら、八谷さんじゃない。どうしたのよ、またこんなところに」

「え、えと……」


 八谷が須田や暮石たちから、一斉に視線を浴びる。

 八谷は顔を伏せたまま、黙り込んだ。


「八谷が言いたいことがあるらしい」


 赤石は八谷の横に立ち、須田を引っ張り、赤石の横に立たせた。自分と須田は八谷の側にいるんだ、という、そういう立場を取った。


「どうしたのよ、八谷さん。トイレならあっちよ」

「え?」


 高梨がふふ、と嫣然と笑う。


「八谷さん、あなた可愛いのね。本当に。全く」


 高梨は八谷に近づいた。八谷は一歩、二歩、と後ずさる。

 そして同時に、赤石と須田も、後ずさっていた。


「ちょっとあっちで話してくるわね。行くわよ、赤石君、統貴」

「ええ」


 赤石たちは高梨の周りにいた人の囲いから、抜けた。


「さあ、何かしら、八谷さん。あそこじゃあ言いにくかったんでしょ」

「そ、それはそう……うん」


 八谷はうなずいた。


「八谷」

「分かってるわよ!」


 赤石の声に、八谷が苛立ちながら返事する。


「高梨さん、バーベキューするのよね? 私も入れてくれない?」

「……」


 高梨は驚いた顔で、八谷を見ていた。

 そして。


「ごめんなさい、遠慮したいわ」

「…………あ」


 八谷はふさいでいたものがこぼれるかのように、言葉が出る。


「う……」


 八谷は体を、赤石の方に向けていた。


「そ、そうよね。じょ、冗談よ、冗談」

「……」


 あはは、と笑い、八谷はその場を後にしようとした。


「冗談なんて言葉で自分を騙すなよ、八谷」


 赤石はその場を後にしようとする八谷に声をかけた。


「分からないことがあるなら聞け。気になるなら訊け。傷つくことを恐れるな。他人に踏み込まないと、結局何も生まれない。もしお前が望むのなら、踏み込め」

「あ……」


 八谷は、また高梨の方に、踵を返す。


「八谷」

「高梨さん、なんで駄目なの?」


 八谷が、訊いた。


「私、もう櫻井君と一緒にいるのは止めたの」

「それは高梨さんが家でしたのと関係あること?」

「そうよ。私は櫻井君とはもう行動を共にできないわ。それはあなたにとっても、迷惑なことでしょう」

「それは……」


 八谷は視線を泳がせる。

 八谷は、自分で何かを決めることが苦手だ。

 決定力が、致命的に、ない。


 自分の決意と努力とで道を切り開いてきた高梨、誰にでも優しくすることで出来るだけ自分の歩く道を舗装してきた水城、自分の思いを口にすることで多少なりとも櫻井に好意を伝えようとする新井、仲たがいをしたがために、高梨との軋轢を見越して高梨をハーレムから排除した葉月。

 その誰とも違い、八谷は、何もしない。

 ただ今までその容姿を売りにして、人から与えられるだけのものを、ただただ享受してきた。


 それが故に、八谷には何かを決める決断力と、強引に何かをしよう、という意思が決定的に欠けている。


「八谷、言いたいことがあるなら言え。何かあったら俺に何とかさせるんだろ」

「……」


 八谷は赤石を見た。


「私は! 誰にも言わずに! 一人で! 行きたいわ!」


 そして八谷は声高に、そう言った。

 赤石は温かい目で、八谷を見る。


「高梨さんが聡助と喧嘩したなんて知らなかったわ。私は一人でも、行きたいの」

「そう」


 高梨は、髪をかき上げた。


「ならいいわよ。でも櫻井君には、もちろん他の人にも言わないで欲しいわ。大変身勝手なお願いだとは思うけど、あまり他人に迷惑も気遣いもさせたくないの。……いえ、それは私のただのわがまま。私はもう櫻井君と、出来るだけ関わりたくないの」

「……分かったわ、約束する」


 ふふ、と高梨は笑った。


「指切りでもするの?」


 そして、小指を立てている八谷を、見る。


「こ、これは……」


 八谷は慌てて小指をしまった。


「いいわよ、指切りでもしましょうか」

「え……」


 高梨は自分の小指を、手を閉じている八谷の小指に強引に絡ませた。


「「ゆびきりげんまん――」」


 高梨と八谷は、二人で約束をした。


「なんかこれちょっとエッチっぽいな」

「滅多なことを言うんじゃない」


 赤石は耳打ちをしてくる須田を小突いた。


「それにしても八谷さん、別に直接言わないでも、カオフで言えば良かったでしょう?」


 高梨は小首をかしげた。


「それは……」


 八谷は赤石を見た。


「文字だけじゃ私の思いは伝わらないからです!」

「就活か」


 赤石、須田、高梨は笑った。


「じゃあいいわよ。夏休みが終わる前にバーベキューでもしましょう。あなたも来るといいわ」

「分かったわ」


 高梨は三千路たちの下へと戻った。

 そしてついで赤石、須田、八谷も戻る。


「高梨ちゃん、何話してた感じ?」


 船頭が高梨に尋ねる。


「八谷さんが宇宙旅行に旅立つから、宇宙食を作って欲しい、って言われたわ」

「八谷ちゃんすげーーー!」


 船頭が拍手する。つられて、周りの暮石たちも拍手する。


「馬鹿ばっかりか、ここは」

「馬鹿ね、あなたたち。そんなわけないじゃない」


 高梨はため息をついた。


「あ、赤石、高梨さんがこんなに冗談ばっかり言ってる……」


 八谷が顔を青くして言う。


「赤石のが移ったんだ……」

「何を言うのよ、私は元からこうよ」

「いやいや、会長はもっとお堅いでしょ、お堅いでしょう!」

 

 三千路が高梨に突っ込む。

 高梨を含む、その場にいる誰もが、静かに微笑んでいた。


「赤石病が移ってる……」

「止めろお前まで」


 赤石が八谷に言う。


 八谷は高梨に自分の意思を打ち明けることに満足したのか、そのまま櫻井の下へと帰った。


 





「じゃあ、帰りましょうか」

「高梨ちょっと待つ、私ソフトクリーム食べてる」


 上麦がフードコードで、ソフトクリームを食べていた。


「食べかけでしょう? そこらの人に千円で売ってくるといいわ。買った時の何倍もの価格で売れるわよ、きっと」

「高梨、悪魔の発想」


 上麦がぶるぶると震え、高梨を怖がる。


「ちょっと俺も水着売って来るわ」

「影響されやすい思春期の少年か、お前は」


 自分の水着を探そうとした須田を、赤石は小突く。


 上麦がソフトクリームを食べ終え、高梨たちが帰路についている時、前方には櫻井たちがいた。


「高梨、櫻井」

「うわ~、悠人の言ってた人じゃん」


 上麦の言葉に、船頭が嫌な顔をする。


「お前は本来、櫻井に惚れるべき人間だからな」

「はぁ、何それ! 死ね!」

「うあああぁぁぁぁ!」


 須田が胸を押さえ、苦しむ。


「あ、ちょ、ちょっとマジ!? 私やっちゃった! どうしよ悠人!」

「そんなわけないだろ。起きろ統」

「冗談でした~」


 須田は明るく、言う。


「悠人の言ってた人、ってどういうことかしら、赤石君」

「船頭と外で会ったとき、櫻井と遭遇したんだよ」


 赤石はことのあらましを、簡潔に高梨に伝えた。


「へえ、やるじゃない船頭さん」

「どんなもんだい!」

「いや、全然褒められたことしてないだろ」


 自慢げに胸を張る船頭に、赤石はため息をつく。


「悠人が軽率だったね、あれは」

「そうね」

「赤石、軽率」

「確かに」

「なんでお前らは俺ばかり責めるんだ」


 赤石は周囲からの責め苦に、耐える。


「櫻井、呼んでくる?」


 上麦が、赤石を見た。

 体躯の小さい上麦は自然、赤石を見るとき、上目遣いとなる。


「白波、あざといわよ」

「白波あざとくない。白波は白波」

「餅は餅屋みたいな言い方をするな」 


 上麦は赤石を睨み、頬を膨らませた。


「とにかく、櫻井の下へは行きません」

「え~、面白そうなのに~」

「面白くありません」


 船頭は退屈そうに、頭の後ろで手を組む。

 そんな高梨たちの声が聞こえてか否か、櫻井を筆頭にした集団の最後方にいる八谷が、振り向いた。


「八谷が気付いたな」


 赤石は言う。


「なんで分かんの? この距離で」

「体の使い方だよ」

「達人みたい」


 疑問を持つ船頭に、赤石は言う。


「まあそれに加えて、最後方にいるからだな」

「全部それでしょ」


 船頭はおい、と赤石の肩をはたいた。

 八谷は赤石たちに、手を振った。


「おい悠、八谷さんが手、振って来てるぞ」

「そうだな、応戦するか」


 赤石はスマホを出した。


「ヒト・ナナ・マル・マル・タダ・イマ・キカン・スル」

「モールス信号で通じるわけないでしょ」


 スマホのライトを器用に操作する赤石に、高梨は言う。


「あ」


 八谷がスマホを出して、スマホを持った手を振っていた。


「全然通じてないじゃない」

「赤石、モールス信号なに?」

「俺もモールス信号しよっと」

「え、どこに信号? 赤?」

「なんや、アカ、なんか呼んだか?」

「信号の赤と言っていたでござるよ」

「何してるの、赤石君?」

「おい赤石お前、目ちかちかすんだよ」

「ちょっと私もちかちかする~」

「会話が混線してるねえ」

「悠、キノコ生えてる! これ食えるかも!」

「お~い、お前ら車来たぞ~」


 めいめいが自分の思ったことを話す。


「お前ら、うるさいぞ」


 赤石は、笑っていた。









「いやあ、今日は楽しかったなあ、皆」

「うん、楽しかった!」

「私も楽しかったのぉ~」

「聡助マジ最高だった」

「そ、そうね」


 櫻井は最前で、水城たちに声をかけていた。


「特に水城が波のプールで流されてった時、笑ったよな~」

「も~、言わないでよ」


 水城は恥ずかしげに顔を赤くする。


「聡助だって、面白かった~」


 新井は櫻井の腕にしがみつく。


「ちょっと新井さん」

「え~、聞こえません~」

「外では止めろって、由紀」


 櫻井は苦笑いをする。


「え、櫻井君、中では……?」


 葉月が驚いた顔で櫻井を見る。


「そ、そういう意味じゃねぇよ!」

「櫻井君、私が流された時も私のこと助けに来てくれて、嬉しかったよ」

「何言ってんだよ水城。男なら女を守るのなんて、当たり前だろ?」


 櫻井はきょとん、とした顔でそう言った。

 水城たちは、一様に顔を赤くする。


「ま、まあ今のは聡助にしちゃあ良かったかも」

「うん」

「櫻井君、かっこいい……」

「え、俺何か変なこと言ったのか?」


 櫻井は何も分からない様子だった。


「あ、あはは……」


 八谷は水城たちの会話に割り込むことができず、ただ話を合わせていた。


 



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