第182話 プールはお好きですか? 1
「海だーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!」
「いや、プールだよ」
高梨とのお茶会が終わった後日、赤石たちはプールへとやって来ていた。
「また大所帯ね」
赤石の隣で、高梨が呟く。
「そうだな。過去最高の大所帯だな」
赤石はあたりを見渡した。
「白波、夏にプール来れて嬉しい」
「すごいねえ」
「大きいね」
「熱ぃ! 熱ぃ!」
赤石の後方で暮石を中心として固まっている、暮石、上麦、志藤、鳥飼。
「おいおい悠、やばい! 俺泳げる! 見てろよ俺のこの速さ! 光をも超える!」
「いやいや、嘘つきすぎ……本当だ!」
「下手くそか」
赤石の隣に、三千路と須田。
「いやあ、久々やなあ、アカ! どうやった夏休み? こっちは放送部の機械いじったり写真部と動画編集したりでめっちゃ大変やったわ! まあ充実した夏休みってことにしたろ! ほんまに久々やなあ!」
「いやあ、拙者もあまり外には来たくなかったでござるがねえ」
赤石の斜向かいに、日焼けの一つもしていない、三矢と山本。
「なんで私まで呼ばれたんだ~?」
最前方でやる気なく呟く、神奈。
そして、
「いやあ、僕はこんな良い友達を持って幸せだなあ。こんな僕をプールに呼んでくれるなんて。ねえ、悠人君」
「呼んでねえ」
「死になさいゴミ」
赤石の後方に、霧島と高梨。
「私たちのパーティーも大所帯になったものね」
「誰がパーティーだ」
「ギルド、非モテ同盟も大きくなったものだねえ」
「お前だけだろ」
「おっと、非モテ同盟副リーダーとは思えない発言だねえ」
「あなたたちそんな気持ちの悪いもの作ってたの」
「作ってねえよ」
会話が成立しないほどの大所帯で、赤石たちはプールへと入場した。
それぞれが水着に着替え、集まった。
「じゃあ俺泳いでくる! 泳いで! 来る! やったぜ! ひゃっほう!」
「私も私も! 悠も来い!」
「行かねえよ。お前らで行ってろ」
「ワイも行くで!」
「おう、ミツノリいいな!」
うぃ~、と須田と三矢は拳を合わせる。
「三矢殿が行くなら拙者もいくでござる」
「夏休みを部活でぶち壊された腹いせじゃあ!」
須田、三千路、三矢、山本の四人は競泳用のプールへと向かった。
「プールに来て早々と競泳用のプールに行くとはな」
「本当に泳ぐのが好きね、統貴は」
赤石と高梨は四人を見やる。
「あ、赤石君!」
「?」
暮石が赤石に話しかけた。
「こ、今回は誘ってくれてありがとね!」
「ああ、高梨が誘えって」
「高梨さん、ありがとう」
「いいわよ。また後日私の別荘でバーベキューをするから来な――」
「行く!」
言い終わらないうちに、暮石は返事をした。
「おぉい、赤石。お前も来たのか、ボケがよぉ!」
「…………」
「返事しろや!」
暮石に続き、鳥飼が赤石に話しかける。
「だ、駄目だよあかねちゃん。赤石君が誘ってくれたんだから赤石君がいるのは当たり前だよ」
「いや、そういう話じゃなくて」
天然だな、と赤石は思った。
「赤石、おい赤石、返事しろ」
「うるさい」
「返事したな! 返事したな! おっせぇ!」
「うっせぇ……」
赤石は嫌な顔をする。
「私は! 三葉をいじめるやつは誰も許さねぇ! 赤石! てめぇもだ!」
「はいはい、分かったからあかね。赤石君は別に私のこといじめてないから。ごめんね赤石君、ちょっとあかね黙らしてくる」
「おい、ちょっと、三葉!」
「…………私も行くよ」
鳥飼は暮石に連れていかれ、志藤が後を追った。
「さてさて、あいつは一体どうなってしまうんだろうか」
「モノローグみたいなの止めなさい」
赤石と高梨は暮石たちを見送った。
「いやあ、感激だなあ、僕もプールに来れて。僕はちょっと女の子を覗いてくるよ。何かあったら皆で僕のことを守って欲しいなあ。いやあ、ちょっと眼福を感じてくるだけだよ、眼福を」
「……」
「……」
赤石と高梨は視線を逸らした。
「じゃあね! 二人とも僕の命は頼んだよ!」
霧島は赤石たちに手を振りながら、女性密度が高い地域へと向かった。
「あいつは見殺しにしよう」
「そうね」
霧島は見捨てられた。
「いやあ、子供は馬鹿そうでうらやましいなあ」
「先生の方が馬鹿でしょうけどね」
神奈は一人、それぞれの場所へ向かう生徒たちを見送っていた。
「先生も来てくれるのは嬉しいわね」
「お前先生と仲良いのか?」
高梨と神奈との関係性がよくわからない赤石は、小首をかしげた。
「そうね。先生も櫻井ガールだからかしらね」
「おいおい、止めろってそんな言い方。私はクリーンです」
「言い方が尚、不穏なものを感じますよ」
「取り敢えずそこらで私はくつろぐわぁ~」
神奈はフードコートへと向かった。
「私もひとまずそうするわ。赤石君はどうするの?」
「いや、こいつ……」
赤石は一人で腕を組みプールサイドを眺めている上麦の下へと向かった。
「皆の所には行かないのか?」
「話しかけないで。今、潮を感じてるの」
「絶対ないと思う」
赤石は上麦の不思議なキャラクターに、多少たじろいだ。
「私はまだあなたに心許してない。気安に話しかけないで」
「実は俺、どうやって人生を生きればいいか分からなくてな……。毎日毎日、何をしていいかわからない。何をしても楽しくない。俺はこれから先の人生、何を楽しみにして何をして生きていけばいいのか、全く分からない」
「ちょっと、気重すぎるの止めて」
「俺の人生、ひいては俺は他人の人生を預かれるような器なのか、毎日毎日自問自答を繰り返して……」
「分かったの。白波が悪かったの。話聞くの」
赤石に折れた上麦は、赤石とともに高梨の下へと向かった。
「随分と飼いならされたのね、白波」
「うるさいの。別になんでもないの」
高梨の下へとやってきた上麦は、つん、と目を逸らした。
赤石は少し不思議そうな顔で高梨と上麦を見る。
「知り合いか?」
「白波高梨知らない。これ鉄則」
「あら、つれないこと言うのね」
「どういう関係だよ」
赤石は高梨を見た。
「一年目の時に同じクラスだったわ。白波は私が高校に入学してから一番初めにできた女友達よ」
「友達違う。白波高梨嫌い」
「そうかしら。私は好きよ」
うふふ、と高梨は笑う。
「高梨、私にいじわるしてくる。だから白波、高梨嫌い。赤石も嫌い。三葉とあかねしか信用できない」
上麦は顔を伏せがちに、言った。
「信用できる友達がいてよかったな」
「そうね。赤石君の言う通りよ」
「高梨いじわる止めて」
高梨が上麦に何の脈絡もなく揶揄している姿が、赤石にはありありと浮かんだ。やりそうだな、と思った。
「白波は天然なところがあるから可愛いのよ。からかいがいがあるわ」
「知らない」
上麦はぷい、と首をめぐらせる。
「でも、高梨がいじめられてるのはもっと嫌い……白波は何もできなかった。ごめんなさい」
「……」
「……」
赤石と高梨は互いに目を合わせた。
「良かったな、高梨」
「赤石君も良かったわね、あのままだと毎日床にこぼれた牛乳を掃除する係になってたわよ」
「なんで誰かが毎日牛乳こぼすんだよ」
赤石と高梨は笑う。
「赤石と高梨、嫌いだけど最近は落ち着いてて嬉しい」
「ありがとう、白波」
「そうだな」
三人はそのまま着席し、しばらくの間雑談した。




