第178話 高梨の別荘はお好きですか?
「高梨は今後どうするべきなのか、朝まで徹底討論、生放送~」
「いえ~い」
高梨の別荘で、須田と三千路が盛り上がっていた。
「どこに生放送してんだよ」
「お笑い草だわ」
それに返答する赤石と高梨。
「高梨、大丈夫だったんだな」
「高梨さん、久しぶりに見たわね……」
そして神奈と八谷が、須田と三千路に向かい合う形で座っていた。
「お嬢様にもお友達が出来たのですね」
そして眼鏡をかけたメイド服の女が一人、座っていた。
「はい、じゃあ始まりました! 朝まで徹底討論、高梨は今後どうするべきなのか、司会をやらせていただきます須田と」
「キレイどころの三千路で~す」
「お前はガヤだろ」
場を仕切る須田と三千路に赤石が切り込む。
「というか神奈先生と八谷はなんでここにいるんだ」
「私が教えたのよ。神奈先生と八谷さんは直接私に出演のオファーを出してきたわ」
「なんでお前もテレビ風に言い換えてんだよ」
神奈と八谷はよろしくお願いします、と頭を下げた。
「あとこの人誰だよ」
赤石はポニーテールをした眼鏡の女に水を向けた。
「これは失礼いたしました、おぼっちゃま」
「いや、おぼっちゃまじゃないですけど」
「将来の旦那候補様」
「人を値踏みするの止めてもらえません?」
女は眼鏡をく、とあげ、赤石と須田を見た。
「初めまして、ここに住まわせていただいております、那須真由美と申します。お嬢様の家系で代々使用人をさせていただいております」
「再三言うんだけれど、ごめんなさいね、真由美。勝手に上がり込んじゃって」
「とんでもないです。元々無賃で住まわせてもらっているのにそんな贅沢なことは言えません。何より、私はお嬢様にご学友が出来たことを大変に光栄に思っております」
「それはありがとう」
高梨は嫣然と微笑んだ。
それは赤石にとって、あまり見たことがない高梨の表情だった。
「身内にはそんな顔するんだなあ、高梨は」
「冗談はよしてください、先生」
高梨は斜向かいの先生にも、微笑んだ。
「高梨って中学の頃友達いなかったんですか?」
「そうですね、いらっしゃいませんでした」
「余計なことは聞かなくてもいいのよ、統貴」
「申し訳なさ」
須田は軽く謝った。
「あと、なんで八谷がいるんだ。おい」
「な、なによ赤石! 私がここにいたら駄目ってわけ!? 高梨さんが気になったのよ!」
赤石は高梨を見た。
「ただし八谷さん、あなたは駄目よ。退出なさい」
「え、え~……」
八谷は救いを求めるように赤石を見た。赤石は三千路を、三千路は須田を、須田は神奈を、神奈は那須を見た。
「え、私……ですか」
決定権が突然移ったことに、那須はたじろぐ。
「まあまあお嬢様、ご学友の一人や二人いらっしゃってもいいじゃあありませんか」
「冗談よ。八谷さんみたいな意志薄弱ガヤ系女子がいないと番組も盛り上がらないでしょう」
「な、なんでよ私その扱い!」
八谷が他の人と仲良くしているのを久しぶりに見たな、と赤石は満足そうに八谷を見た。
「高梨さん、でも、ごめんなさい。あの時見つけられなくて」
八谷は申し訳なさそうに、高梨に頭を下げた。
「いいのよ。赤石君が見つけてくれたもの」
「そうだな」
「赤石君はそのまま流れるように私を家に連れ込んで、押し倒して、手錠をして、めくるめく夜を教えてくれたわ」
「フェイクニュースは止めろ」
赤石は高梨をにらむ。
「赤石と高梨さんって仲良いわよね」
「そうね」
八谷の質問に、高梨は間髪を入れず答えた。
「似ているからでしょうね」
「……」
そしてその場は、沈黙した。
「ところでお嬢様」
「ところで高梨」
那須と神奈が話しかける。
「お二人とも、何かしら」
「両親と何があったんだ? これからどうするんだ?」
先に話したのは、神奈だった。
「そもそも先生はなんでここにいるんですか」
「そりゃあここら名家の友人として忠告と、先生としての心配だろぉ」
神奈は胸を張って、言う。
「そうですね。親とは特に何もないですよ。ただ、そりが合わなくなった、というだけです。このことはあまり触れてほしくない話題ね」
「じゃあいい。学校は?」
「学校……」
高梨は頤に手を置き、しばし考えた。
「ここから学校まで結構遠いぞ。お前大丈夫か? なぁ、須田」
「そっすね」
夏休みに学校に行く必要はないが、夏休みが終われば嫌でも学校に行かなければならなくなる。高梨の今後で最も懸念するべき事項が、それだった。
「いつもより早く家を出ればいいだけよ」
「毎日か? 困るぞ」
「仕方ないじゃないですか」
高梨はつっけんどんに、言った。
「じゃあどうしろって言うんですか、私に。あなたは両親の奴隷として好きでもない男と結婚しなさい、って言うんですか? 嫌ですよ、私はそんなの! そんな私の意思の介在しない結婚なんてしたくない!」
高梨が机を叩き、立ち上がった。
赤石たちは呆然と高梨を見る。
「わ、悪かった高梨、一旦落ち着けな?」
「す、すみません……」
取り乱したことを察した高梨が、ゆっくりと座った。
「おい統、盛り上げろ」
赤石は須田を見た。
「そういえばこの前プール言ってさ、やっぱ水泳部だから滅茶苦茶泳げるわけよ。そこで俺のこと見てた人がこう言ったんだよな。マーメイドだ、って。俺も今日ここにきて思ったよ。まあ、メイドだって……」
「……」
「……」
「……」
「……」
神奈は那須を見た。
「でも那須さん、あんたならなんか知ってんじゃ?」
「私ですか?」
また突如水を向けられた那須が驚く。
「実はここだけの話なのですが……」
那須が小声で、話し始める。
「私はお嬢様のお父様にお嬢様を監視するように言われています」
「……」
高梨は無言で、うつむいた。
「監視、といってもお嬢様が自暴自棄になって危ない行動をとったり、危ない人物と接触したりしないか、といったもので、お嬢様の行動を事細かに記録する、ということではありません」
「だから仕事してないのにメイド姿なんすね」
「いえ、これは趣味です」
赤石の質問に、那須は毅然と答えた。
赤石はそうですか、とすごすごと引き下がる。
「でもよ」
須田が口火を切った。
「何かあったら高梨、いつでも相談しろよ? 一人で抱え込むなよ? 多分この中の誰でも、お前の助けになれると思うんだよ」
「……そうね」
高梨は落ち込んだ顔で、返答する。
「あんまり無理するなよ?」
「そうよ、泣きたいときは私に泣きついてきていいわ」
「お前は高梨の体が目当てだろ」
「……はっ!」
三千路はわざとらしく、驚いた顔をする。
「高梨もこんなに色んな仲間がいて幸せものだなあ」
神奈がのんきそうに言った。
「元櫻井シスターズ…………」
「おい赤石、てめぇ何か言ったか殺すぞ」
ドスを利かせた声で、神奈が言う。
「統、このテレビ番組を教育委員会に持っていくぞ」
「驚愕、生徒を脅す美人女教師、のタイトルで持っていくか」
「止めろお前ら結託するな。悪い私が悪かった許してくれ」
神奈は赤石と須田にこびた。




