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ラブコメの主人公はお好きですか?  作者: 利苗 誓
第1章 ラブコメ ヒロイン活動編
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第1話 新井由紀はお好きですか?

9月7日(木)赤石が高梨と同じ中学校という設定を追加しました。

18年11月11日(日)高梨の名前を高梨八宵にしました。



 中学も卒業して高校に入学し、新しい風に吹かれる。

 心機一転周囲の人間関係も大きく変化し、自由度も格段に上がる進学。


 そんな折に、世間一般には高校デビューというものもあるが、これといった高校デビューを果たすわけでもなく、他の皆が上がるようにして同様に何も考えず、皆と同じように生きるために高校へと進学した男。


 中学の頃も大して目立たず何の問題も起こさず、ほどほどの友達とほどほどに遊び、ほどほどに暮らしきた。


 そんな赤石が高校二年に上がったころ、教室内で異様なものを目にした。


 一人の男、櫻井にまとわりつく五人の女である。


 その時から赤石は、この男がモテる理由が何なのか常に気にかかり、原因を知りたいと、そう希求していた。

 それは酷くどす黒い感情に起因しているのかもしれない。自分も櫻井のように女子たちにモテたい、という僻みがこのような感情をもたらしたのかもしれない。だが、櫻井がモテる理由を知ることは純然たる興味でもあった。


 赤石も一介の男子生徒であるからして、それなりの性欲を持て余してはいたが、他の大勢の男たちと同じく、女子たちと仲睦まじく話すような気概はなかった。


 世間一般に生きている社会人も、同様にして何の疑義も抱かず、これといってモテ期があるわけでもなく、大した問題を起こさず生きていく。




 櫻井は一体、自分たちと何が違うのだろうか。




 キーンコーンカーンコーン。


 学校に、いつもと何一つ変わらない軽快なベルの音が響いていた。


 今日も、いつもと何一つ代わり映えしない授業が終わり、放課後になった。

 部活にいそしむ学徒が殆どであり、少数の学生は部活動に所属せず帰宅部として、帰宅する。

 赤石は帰宅部ではあったが、今日は日直であったので少し校内で日直の仕事をしなければいけなかった。


「ほら、由紀。今日のノート取っといてやったぞ。全くお前は……いつも俺にノート取らせないでくれよ」

「あっ、聡助ぇ! サンキュー、愛してるよ」

「はいはい、分かった分かった」


 放課後に教室で日直の仕事をしていると、隣で櫻井とその取り巻きの一人、新井がむつみ合っていた。


 髪は赤茶色で肩まで伸びており、その容姿から性根の溌剌さや活発さがうかがえる、人より少し小さめの女。

 目は大きく、興味を持つものには大きく目を見開き、得物を捕らえる猫のような顔をしており、スポーツ女子然としている、と、校内の男子からの人気も高い。現に、校内で開かれる運動大会でも驚異的な数字を残している。

 

 櫻井は授業中にとっていたというノートを新井の頭にポン、と乗せ新井は振り向いた後、笑顔でそれを受け取る。


 こんな所ラブコメでよく見たな……と、赤石は謎の感慨にふける。


 ノートを受け取った新井はカバンにしまった後にてこてこと赤石の下へ歩いて行った。


「マジごっめーん! 赤石、日直任せちゃって。今から私も手伝うからさっさと終わらせよ?」

「ああ」


 今日、赤石は日直である。そして、出席番号が赤石の次に当たる新井もまた、日直の一人であった。


 業務連絡を交わした後は赤石と新井とは一言も会話せず、日直の仕事をてきぱきと片付ける。

 黒板を綺麗にしたり、ごみを捨てに行ったり、今日の授業の詳細を書いたり、日直の仕事をこなす。


 赤石と新井とが日直に励んでいる頃、櫻井は少し大人びた女と喋っていた。


 透き通るような美しい金の髪は腰まで伸び、その体躯から発育の良さを伺える、お嬢様然とした女。目は切れ長で、こちらも同様にそのお嬢様然とした予想を裏切らず品格を備えた女ではあるが、何分、口が悪かった。

 だが、怪我の功名というべきか、その容姿と相反した口の悪さに加え、理詰めで言葉に寸鉄を持っていることから、校内における罵られたい人気も高い。


 名を高梨八宵たかなしやよいと言い、一挙手一投足にいたるまで年上のような厳かなふるまいではあるが、クラスも学年も同じ同級生である。


 赤石は高梨と同じ中学校ではあったが、直接的な関わりはなかった。

 が、間接的に赤石は高梨に助けてもらった経緯があり、並々ならぬ敬意を宿した瞳で高梨を見ていた。


「あら聡助君、これは何かしら?」

「何かって……由紀に貰ったガムだけど」

「私以外の女から物を貰うなんていい度胸じゃない。こらしめてあげるわ」

「なんでだよ!」


 その高梨も、取りも直さず櫻井の取り巻きの一人であることを嘲笑している自分に、赤石自身気づかなかった。

 高梨は赤石を意識することなく、櫻井と話し続ける。


「私はそろそろ部活動に行くのだけれど……聡助君、あなたはどうするのかしら?」

「あぁ、そうだった。じゃあ早く部室行かなきゃな」


 そう言うと高梨と櫻井はスクールバッグを肩にかけ立ち上がり、赤石たちの下へとやって来た。


「俺たちもう部室行くけど、何か飲み物適当に二本くらい買って来てやろうか?」


 そこで、赤石たち・・・・に差し入れを提案した。二本買ってくる……つまり、赤石もその差し入れの範疇に入っていると考えて差し支えない。


「え……え~っと……もうちょっとだからちょっと待っててよ! 超お願い!」

 

 新井は手をすり合わせ、櫻井に拝む。

 こんな所で櫻井と高梨に待たれるのも迷惑だと思い、赤石は助け舟を出した。

 何より、高梨のこんな姿をこれ以上見たくなかった。


「いや……俺は帰宅部だし、残りは俺がやっとく。先生に報告するのに二人もいらないしな」

「あ……マジでー!」


 全く何の躊躇もなく、新井はその助け舟に乗りかかった。

 

「ああ」

「じゃあごめんね、赤石。後はよろしくお願い!」


 軽く赤石にも手をすり合わせると、高梨、新井、櫻井の三人は教室を出て行った。


「聡助、今日も格好いいじゃーーーん! 大好き!」

「またお前はこんな所でそんなことを……」

「ふ~ん……今日もいい度胸ね、新井さん。あなた、私が櫻井君の正妻と分かっての行動かしら」

「いや、正妻とかじゃないだろ!」


 三人は姦しく、廊下を歩く。


 櫻井と、その取り巻きの五人は全員同じ部活動に入っている。


 赤石自身実態はよく知らないが、放送部か何かに所属しているらしい。

 放送部が何をしているのかは知らないが、同じ部活動に所属している、という理由もあって櫻井も取り巻きの仲が良いのは当然のことだと言える……のだろうか。


 益体もないことを考える。


 赤石は日直の仕事を1つずつ片付け、最後の仕事を終えた。


 だが、ここで赤石はふとした違和感に気付いた。

 櫻井は、新井がいるときは赤石と新井との二人分の差し入れを提案したのにも関わらず、新井が部室に行くと分かった途端、自分に・・・差し入れをすることは完全に考えていなかった。


 確かに、赤石と櫻井は蜜月とは言い難い関係だ。

 今まで一度も喋ったことはなく、それに加え櫻井たちは部活動が今後控えている。

 

 新井と赤石とに差し入れを提案をしたが、赤石一人に差し入れをしないのは極めてまっとうな事なのかもしれない。

 

 しかし、女である新井がいるときには二人分の差し入れを提案したのにもかかわらず、男である赤石一人の時には差し入れを提案しなかった。


 その事実だけが赤石に深く、黒く、澱んだ、澱のようなものを沈殿させる。


 どうして二人の時と赤石一人の時に対応が違うのか。

 

 親密度にも関係してくることは十全に理解している。親しくない人間に差し入れをすることがおかしなことだということも理解している。


 しかし、事実としてその行為が赤石に不信感を募らせた。


 

 新井がいるときは新井に気があることを証明するために差し入れを提案したんじゃないか、新井が自分の下から離れないように、差し入れすることを提案したんじゃないだろうか、女だから、優しくしていれば自分のことを気にかけてくれるとそう思ったんじゃないだろうか。

 邪推する。

 黒く、深く、澱んだ、邪な推測を、赤石は行う。


 結局のところ、新井に良く思われたかっただけなのではないか。

 新井が自分に取られることを危惧して、自分と新井との関係性の変化を見ることも予て差し入れを提案した。


 そう思っていないと本人は感じていても、その深層心理にはそんなどす黒い独占欲のようなものが渦巻いているんではないだろうか、と、そう邪推せずにはいられなかった。



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[良い点] ラブコメをこの視点からみるのは新鮮でおもしろい
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