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ラブコメの主人公はお好きですか?  作者: 利苗 誓
第5章 夏休み 後編
199/593

第176話 船頭ゆかりはお好きですか? 3



「船頭」

「……」

「ゆかり」

「何~?」


 タピオカミルクティーも飲み終えたころ、赤石と船頭は二人で百円均一ショップに来ていた。


「お前はいつもそんななのか?」

「そんな? こんな感じってこと?」


 船頭はスカートの端をつまみ、その場で体を回転させる。


「ああ」

「はあ、まあそうだけど。しゆうこそいつもそんな根暗な感じなわけ?」

「根暗は余計だ」

「へえ、だっさ」


 船頭は、赤石を鼻で笑った。


「お前も俺に騙されてたんだからダサいだろ」

「はあ? 普通ああいう性格だと思うじゃん。そんな変なことしてる人いないから!」

「変じゃない。俺は普通だ」


 その一点については、赤石は譲らなかった。


「俺はただ、偽りの善意に、表層の優しさと打算に気づかずに過ごしている人間が気に食わないだけだ」

「例えば?」

「ボーリングの時もやっただろ。三垣の意思を無視して、故意に三垣を会話から隔離した」

「なんでそんなことするわけ?」

「そりゃあ、俺が……そういうやつが、邪魔者を排除する気質があるからだろ」

「え、わざとだったの……?」

「ああ」

「もしかして私らも普段そういうことを見逃してたりするわけ?」

「だろうな」

「……」

 

 船頭は黙り込み、おとがいに手を当てて考え始めた。


「ほかには?」

「三垣の言う言葉を全て否定した」

「なんで?」

「相手の言う言葉を否定すればそれだけ自分が優位である、と錯覚させることができる。結局言いたことが一緒だとしても、否定する立場の人間は否定される人間よりも優位に立っているかのような、そういう印象を与えることができる。そしてお前らはそれを格好いいと崇め信奉する。だから三垣の言う言葉には全て否定した。普段なら興味すらわかないようなことでもな」

「…………」


 船頭は再び、黙り込む。


「それ、私らが悪いってわけ?」

「悪いとは言っていない。そういうことを好む性格の人間が多い、と言っているだけだ。そういう性格に好意を持つ人間が多いなら、そういう風に振る舞えば良いだけだ。そして俺はそれを実践して、その推察はおおよそ正しかった」

「なんか……」


 船頭は苦い顔をする。


「嫌な感じ……」

「そうだな」


 赤石も、同意した。


「ちょっと、私そんなこと聞きたくなかったんだけど。これから先そういうシーン見るたびにそういうこと考えちゃうじゃん」

「俺たち友達だもんな! 俺昨日もお前ん家泊まったし、また今度泊まりに行くからな!」


 赤石は明るい声で、言った。


「普段会話すらしない男たちは、そう言う」

「ああああああああ、止めて止めて止めて止めて。本当にそんな風に考えちゃうから」


 船頭は声を上げ、両手で両耳をふさいだ。


「そんなに他人のこと疑って人生楽しい? 絶対楽しくないと思うけど。本当ひがんでるよね、あんた」

「まあ知らずに関わって損をするよりも、知っていた方がその後は上手く進む……かもしれないな」

「なんで?」

「お前はさっきからなんでなんでうるさいな。自分で考えろ」

「ん~!」


 船頭は頬を膨らませた。


「は、何!? 私馬鹿だから分かんないから! え、何、私のこと尻軽ビッチギャル女だと思ってるわけ!?」

「よく分かってるじゃないか」

「違うから! ただ楽しい生活を送りたいだけだから! あんたのエッセンスが入ってきたら今後男友達と遊ぶとき変なこと考えそうじゃん!」

「変なこと考えるなんて、そんなことないだろ。お前間違ってるぞ。俺はお前のことを思ってそういう考えを教えてあげようと思っただけだ」

「結論一緒じゃん!? 否定から入るモテる男のフリ止めて! もうヤダ!」


 再び船頭は耳を閉ざした。その後も、赤石は船頭に無理やり自身のエッセンスを聞かせた。




 船頭は百円均一で手鏡を買い、その場を後にした。


「にしても前のしゆうもあれはあれでよかったけど、今のしゆうは素って感じする」

「そうだな」


 船頭は手鏡で自身の顔を見ながら、歩く。


「でもなんであんたそんなにモテるやつが嫌いなわけ? 別に誰がモテてても関係なくない?」

「それは……」


 一瞬、八谷の姿が脳裏を過った。八谷が櫻井を好きだから。そういう考えが、過った。最初は興味だったが、それがだんだん憎しみへと変わった。が、そんなことは口にはしない。


「不条理が、不道徳がまかり通っているこの世を嫌悪して、だな」

「あっはっはっはっは! ウケる! 根暗の発想じゃん!」


 船頭は手を叩いて笑った。


「黙ってろ」

「いやいやいや、全然怖くないから。あっはっはっはっは」

 

 赤石は苦い顔で頭をかいた。


「え?」


 その時、赤石の耳朶に聞きなれた声が届いた。


「赤石君……?」

「…………水城」


 赤石と船頭の視線の先に、水城がいた。





「え、しゆう、誰こいつ?」


 船頭は眼前の水城を指さした。


「おい、人を指さすな。同じクラスの同級生、水城だ」


 赤石は船頭の指を下ろさせながら、水城の説明をした。


「初めまして! 水城志緒です。赤石君、この人は?」

「船頭ゆかり。ギャル」

「何その雑な扱い、ひどくなーい?」


 いかにもギャルという紹介通りの対応を取るな、と赤石は船頭を瞥見した。


「そうなんだ~」

「え~、私しゆうの知り合いの交友関係広げるの嫌なんだけど。まあ、船頭ゆかりだけど」

「なんでだよ」


 船頭は渋々ながら、自己紹介をした。そして連続して、水城に繰り出す。


「ところで、水城ちゃんってしゆうの彼女?」

「おい」

「え……?」


 水城は顔を赤くして、二歩後ずさった。


「ち、違う違う違う、違うよ! 私なんかが赤石君の彼女にはなれないよ~! 船頭ちゃん面白い!」

「はは」


 船頭は、馬鹿にしたように笑った。

 そして赤石もまた、水城の反応に察しがついていた。彼女にはなれない、と自分を不当に貶めることでカップルになってしまうという可能性を排除する返答。絶対に付き合いたくないからこそ、そう言う。

 直接付き合えないと言うことによる人間関係の不和軋轢を見越し、あえて自分が泥をかぶることで付き合う可能性と不和軋轢の線を打ち消す。自分に絶対に火の粉がかからないように、自分が絶対に悪くないように立ち回る。

 それを好意的にとらえる人もいれば、その逆もまた、いる。船頭は水城のそういった行動に、嫌悪感を示したようだった。


「そ、それこそ船頭ちゃんも赤石君の彼女なんじゃないの?」


 そして水城は赤石と付き合うという話を長引かせないために、船頭に同様の返しをした。船頭は、軽くせせら笑った後、


「え~、バレた~!? 実は私ら付き合ってんだ~!」


 赤石の腕を取り、腕組みとピースをした。


「おい止めろ馬鹿」


 赤石はすぐさま船頭をはがす。


「え~、ケチ~。人前だからって恥ずかしがらなくったっていいじゃん~」


 船頭はもじもじと赤石の体を指でなぞる。赤石は青い顔で、押し黙った。


「いや、彼女じゃない。彼女じゃないぞ、水城」

「あ、あははははは、赤石君照れ屋だな~。お似合いだね!」


 水城は額に玉のような汗をにじませながら、笑顔でそう返した。

 これ以上は何を言っても無駄だ、と判断した赤石は虚脱し、船頭をはがした。


「あ、二人は今日何しに来たの?」

「ああ、映画でぇ~す」


 船頭は映画館のある上階を指さし、赤石と腕を組む。


「へぇ~、そうなんだ! 実はね、私も人と来てて~」

「へぇ~、そうなんだ水城ちゃん。誰?」

「うん、あそこの、赤石君は知ってるよね?」


 水城が指さした先には、一人の男がいた。


「水城――!」


 こっちに向かって、歩いてくる。


「……ああ」


 赤石は、小さな声で同意した。

 こちらに向かって歩いてくる櫻井を見ながら。




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― 新着の感想 ―
[気になる点] 水城と船頭が出会った時の自己紹介で水城が2度も初めましては違和感有りますね。2回目は改めましてのが妥当かと
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