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ラブコメの主人公はお好きですか?  作者: 利苗 誓
第5章 夏休み 後編
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第170話 高梨の別荘はお好きですか? 6



「お、悠。どこ行ってたんだよ」

「ちょっとな」


 赤石は落ち込んだまま、須田の下へと戻った。


「悠、何かあったか?」

「ああ、まあな」


 憔悴した赤石を見た須田は声をかけたが、赤石はうつろな返事をしただけだった。


「訊いてもいいか?」

「また今度な」

「おっけ」


 赤石は須田に同じ枷を、咎を背負わせることを危惧し、話さなかった。


「あ、やっと帰って来た悠。あんたどこまで行ってんのさ。高梨さんもう家入ったよ」

「そうか」


 須田が隣から顔を出した。


「あ、悠。これ見てみろよ、これ」

「……ん?」


 須田は眼前の機器を指さした。


「なんだこれ」

「バイオマス認証だとかなんとか」

「バイオマスは違うだろ。バイオメトリクス認証だろ。虹彩とか指紋とかを認識するってやつか」

「何かそんな感じ。高梨ここで片手置いて、そしたらすぐに扉開いてたぞ! 凄すぎる! 近代文明だ!」

「今時珍しくもないだろ」

「なんだ悠、その光る板は! 見たことない!」

「原始人か、お前は」


 直後、須田が指さしていた扉が開いた。


「終わったわよ」

「遅かったな!」

「こっちにも用意があるのよ。入りなさい」

「やったぜ!」


 須田はいのいちばんに家へと入って行った。次いで、三千路と赤石が入る。


「赤石君、あなたは体の泥を落としてバターを塗ってから入りなさい」

「注文の多い料理店か」


 高梨の家は、広かった。


「悠、ヤバくない?」

「広いな。これで別荘か」


 木造で出来たその別荘に、牧歌的な空気を感じる。


「悠、すう、探検するぞ!」

「なんでだよ」

「こんな広い家に来たのは久しぶりだ!」


 須田は高梨の家の広さを堪能していた。


「初めて家に入れて貰った犬みたいだな」

「言い得てみょー」

「赤石君、三千路さん、実はここは別荘ではあるけれど、もう一人住んでるのよ」

「?」


 赤石と三千路は辺りを見回したが、誰もいなかった。


「今は誰もいないわよ。元々ここは私の使用人のための福利厚生として使ってもらってるのよ」

「え、勝手に良いのか」

「大丈夫よ。使用人の部屋は鍵がかかってるわ。それにあまりうろちょろさせないわよ」

「もう既に統が歩き回ってるぞ」

「大丈夫よ。使用人のプライベートに係わりそうな部屋には鍵をしてあるわ」

「用意ってそれか」

「統の行動を見通してたみたいね」


 赤石と三千路は高梨に連れられ、二階へと上がった。


「統貴、私の部屋に集まりなさい」

「おっけ」


 そして須田がその後を追う。


「さて」


 高梨の部屋になった空間に、入った。


「わあ、ここが高梨さんの部屋ね! 私高梨さんの部屋に入ったの始めて!」

「部屋というには殺風景がすぎる」

「ようこそ、私の部屋へ」


 赤石たちは車座になって、その場に座った。


「椅子も用意できずに悪いわね。適当な人に座ってちょうだい」

「いきなり人間の優劣を決めようとするな」


 高梨はパン、と手を叩いた。


「さて、ありがとう、あなたたち。まずはお礼から言っておくわ。私は暫くここで暮らすつもりよ。あなたたちも自由に来てもらっても構わないわ。今まで迷惑をかけてしまってごめんなさい。いつかこの埋め合わせはするわ」

「おう」

「大丈夫よ」


 須田と三千路の返事に、高梨は表情を緩める。


「じゃあお勉強でもしましょうかしら。あなたたち、何か持って来たのかしら」

「……え、俺は何も」

「私も持って来てないし、そんなこと言われてない」

「いや、俺も……」

「あなたたち、一体何をしに来たの」


 高梨は呆れた顔で溜め息を吐く。


「いや、統が言い出したんだから統が持って来るべきだろ」

「悠なら何も言わずとも持って来てくれると思った」

「まあ高梨が持ってるだろうし」

「私、勉強道具は後で取りに帰るつもりだったんだけれど……」

「……」

「……」


 静寂。


「仕方ないわね。今日は解散しましょう。この部屋ももう少し私好みにする必要もあるわ。もしよかったら、今後もあなたたちの力を貸してもらえないかしら」

「任せろ!」

「了解会長!」

「ありがとう」


 高梨は礼をした。


「じゃあまた夏休み中に会いましょう。私は取りあえず、今からお風呂に入るわ。赤石君が入れてくれなかったから」

「俺を悪者にするな」

「じゃあ私たちも帰るしかないわね」

「三千路さん、あなたは一緒に入っても良いのよ」

「良いの!?」

「冗談よ。今は疲れてるからまた今度にしてちょうだい」

「今度なら良いの!? 言質取ったから! 悠、ボイスレコーダーもう止めて良いよ!」

「いや、回してねぇよ」


 ポンポンと肩を叩く三千路に、赤石は突っ込む。



 そして高梨は赤石たちを玄関で見送り、浴場へと向かった。


「……」



「それにしても高梨の家凄かったな」

「本当本当。なんかよく分からないけど高梨さん大変そうだから一緒にいてあげようね」

「お前は鈍感がすぎる。もうちょっと周りを見ろばか」

「私もついに勉強しないといけないのか……」


 三千路は無意味に神妙に言う。


「高梨もいれて、今年の夏は勉強に励むのか~。嫌だなぁ~」

「嫌な時期になったもんだな」


 赤石たちは雑談をしながら、家へと戻っていた。


「いや、なんで自然に俺の家戻るみたいな空気になってんだよ」

「高梨の家が大変そうだったから今日は悠の家で勉強するぜ!」

「目指せ国公立!」

「俺ら三人で同じ大学合格するぞ!」

「「おーーーー!」」

「言ってろ」


 赤石はため息をつきながら、歩き出した。





 そして、同時刻。


「高梨! 大丈夫か!」


 櫻井が高梨のインターホンを押していた。

 開かない。


 たまたま開いていたドアから、高梨の家へと入る。


「高梨! 今さっき赤石が!」


 櫻井が高梨の家へと入り込み、部屋を物色しだした。


「高梨! どこだ! 大丈夫か!」


 部屋を開ける。高梨のスーツケースだけがあった。


「高梨!」


 部屋を開ける。洗濯機があった。


「高梨! 大丈夫か!」


 部屋を開ける。がらんどう。


 そして櫻井は、高梨のいる浴場へと向かった。


「まさか……」


 櫻井は独り言ちる。


「高梨! もう大丈夫だ! 俺が来たぞ!」


 櫻井は力いっぱい、高梨のいる浴場を開けた。

 





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