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ラブコメの主人公はお好きですか?  作者: 利苗 誓
第5章 夏休み 後編
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第167話 高梨の別荘はお好きですか? 3



「こんな所で何してる」


 赤石は不意に、話しかけた。考えるよりも先に、言葉が口をついて出てきていた。

 高梨の別荘の近く。これは偶然なのか、必然なのか。


「え、な、なに、こ、怖いよぉ……ふえぇ」


 葉月は涙目で手をぶんぶんと振り、顔を隠した。


「こんな所で、何してる?」


 復唱。


「も、もっと優しく言って欲しいのにぃ」

「こんな所で君は何をしている?」

「むぅ……」


 若干の不服さを残したまま葉月は頬を膨らまし、赤石に相対した。


「えっと~、お散歩?」

「そうか」


 不自然なくらいに語尾が疑問形だと、思った。偶然では、ない。


「嘘だな」

「ふぇっ!? 赤石君凄い! なんでわかったの!?」


 葉月は両手の先をわずかに合わせ、ぱちぱちと拍手をした。


「語尾が疑問形だからだ。なんでこんな所にいる。何をしに来た」

「えっと……」


 葉月はスマホを出した。誰かと連絡を取っているのか、スマホに視線を落とした。


「実はある人から、ここに来れば面白い物が見れるって聞いて」

「そうか」


 具体的な名前は出さないものの、誰かからの差し金。スマホに視線を落としたことから考えて、共通の知り合いである可能性が高い。葉月の出歯亀精神に、好奇心に訴えかけたらしい。

 

 霧島だろうな。

 悩むのに、時間はかからなかった。何故霧島はこんな面倒なことをしてまで葉月にそう伝えたのか。

 徒労になるとは思ったものの、赤石は深く追求する。


「誰から聞いた?」

「そ、それは絶対言えないの!」

「誰からだ?」

「駄目なの!」

「誰からだ?」

「だから駄目なの! 絶対言えないの!」


 葉月自体に情報提供者、霧島への恩義があるのかあるいは自分に対して敵愾心を持っているのか。どちらにせよこれ以上の追及で得られるものはない、と察した赤石は口を閉ざした。


 やはり霧島は、信頼ならない。正体が胡乱で、飄々としている。あまり距離を縮めない方が良いのかもしれない。

 霧島だけが櫻井の取り巻きから蛇蝎のごとく嫌われているのもなんらかの理由がある気がしてきた。或いは、あれは嫌悪ではなく畏怖の可能性すら、あるかもしれない。

 赤石は霧島との距離を再確認する。


 だが、どうして霧島は自分の居場所が、高梨の状況が分かったのか。


 赤石は辺りを見回すが、特に霧島の陰は見当たらない。望遠鏡か或いはGPSかドローンか、察しはつかないが手段なら有り余るほどにあった。


「ここに面白いことは何もない。帰った方が無難だ」

「そ、そう? 赤石君と出会えたし面白いことがありそう! それともこれが面白いこと? あ、あとそういえば高梨さんはどうなったの?」


 葉月はきょとん、とした顔で訊いた。


「高梨は何か事情があったらしい。高梨が迷惑をかけたようで悪かった、もう大丈夫だ。後から高梨が直々に伝えるらしい」

「う、ううん! 高梨さんが無事で本当に良かった……」


 葉月はほっと、胸をなでおろした。


「じゃあ赤石君にも会えたし、本当に、ちょっと買い物のついでに寄っただけだったし私帰る! ばいばい!」

「ああ」


 葉月は赤石に手を振り、人目を引く淫らで洒脱な服装のままヒールを鳴らし、大手を振って歩いて行った。


「なんなんだ一体」


 どうにも得心のいかない事態が多く、心が休まらない。

 赤石は先ほど来ていた水城からの連絡を見た。


『大変だよ赤石君!( ゜Д゜)櫻井君から付き合わないかって言われちゃった!(*ノωノ)でも買い物に付き合わないかって意味だったみたい。(笑)”(-“”-)”

 本当に私ってそそっかしい。(´;ω;`)櫻井君と付き合えるようになりたいなあ……とか。。。』


 余りにもくだらなすぎる連絡だった。

 櫻井からの好意を喜びながらも、友達に言うことが出来ない。だがその櫻井からの好意を誰かに自慢したい、喜びを分かち合いたいからこその連絡だった。

 それが自分であったことは、自分に対して一切の恋愛感情を持っていないからだった。友達に言えば友情に亀裂が入るからこそ、全く関係のない第三者にその喜びを伝える。恋愛相談とは形だけの、ただ自分の恋が上手くいっていることを報告したいだけの連絡だった。


「表面上の関係」


 そう思った。水城が自分と関わるのは櫻井が誰かと付き合うまでだと、理解した。水城は恋愛を手伝って欲しい訳ではない。ただ自慢する相手が欲しかっただけだ。

 そしてあわよくば櫻井に好意を持っていることを伝えて欲しいという願望も入っている。他人に害は与えないものの、害意はある。


「……」


 嫌な気持ちだった。

 付き合って、などと言う櫻井にも腹が立った。


『水城……俺と付き合ってくれないか!?』

『え、えぇ!? つ、付き合う!?』

『あ、つ、付き合うってそっちの意味じゃねぇからな! 買い物に付き合ってくれってことだからな!』

『あ、そ……そうだよね! わ、私もそう思ってたもん!』


 考えるまでもなく、そんな情景が浮かんできた。

 水城が付き合うという言葉を誤解したんじゃないだろ。お前が誤解させたんだろ。わざと誤解するような言葉遣いをしたんだろうが。


 赤石は心中で櫻井に毒を吐く。スマホをしまい、またぐるぐると思考を巡らせた。


「赤石……?」

「……」


 またか、と思った。

 遠くで新井の姿を、視認した。






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