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ラブコメの主人公はお好きですか?  作者: 利苗 誓
第1章 ラブコメ ヒロイン活動編
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第18話 家宅訪問はお好きですか? 4



「じゃあ、本日の議題を発表するわよ」

「分かった」


 八谷はキッチンへと入り、冷蔵庫に張り付けてあったホワイトボードに、キュッキュッと良い音を響かせながら字を書いた。


「今日の議題は、聡助に美味しいお弁当を作るために私の料理テクニックを向上させよう! よ!」

「…………」

「拍手しなさいよ!」

「あ、ああ…………」


 パチパチパチパチパチ。


「いぇーーーーい!」


 八谷はハイテンションで叫びながら大きな拍手をし、赤石は乾いた拍手を送る。


「男の人は胃袋を掴まれると落ちるらしいわね。どうなのかしら、そこのところ」

「そんなことされたことないから知らん」

「本当あんたって駄目駄目ね」


 八谷はそう言った後、しまった、と言いたげな顔ですぐに両手で口を閉じた。


 八谷なりに昨日の一件のことは自省しているのかもしれないな、と赤石は八谷を見る。


「そうだな」

「…………うん」


 八谷は少し声のトーンを落とした。


「まっ、まぁ取り敢えず一回私が自分で作ってみるからあんたはそこで待っときなさいよ!」


 八谷は故意に自分の声の調子を上げる。


「じゃあ英単語でも覚えとくわ」

「あんた女子の家に来るのにそんなつまらない物持ってきてるのね」

「こうなると思ったからな」


 赤石と八谷は互いに益体もない会話をし、八谷は料理に取り掛かった。







 

 八谷が料理を開始して、三〇分が経過した。


「完成――――!」


 八谷は声を張り上げ、出来上がった料理を赤石の前に持って来た。


「……………………なにこれ」


 目の前の異物を見て、赤石は目を細めた。


「何って、ハム入りスクランブルエッグよ」

「ちょっと待ってくれ」


 赤石は目の前の異物に再度視線を注ぐ。

 紫色をした大量の泡のような何かの下に、ぐちゃぐちゃと吐瀉物のような何かが敷かれている。


「これが?」

「そうよ!」


 八谷は主張を退けない。

 赤石は一息つき、八谷の顔を見た。


「出たよ」

「出たよって何よ!」


 赤石は、八谷の料理に心底絶望した。

 

 ラブコメでよくある、料理が絶望的に下手糞なヒロインということか、と納得する。

 何から何までラブコメのテンプレを外さないな、と思い、目の前の異物に視線を注ぐ。


「ま…………まぁ、味は美味しいから! 食べなさいよ!」

「そんなわけがない」


 赤石はすぐさま反駁する。

 ラブコメのテンプレ的に考えれば、この料理は非人道的な料理兵器だ。

 一口食べるだけで人間が気絶するほどの恐ろしい料理であることが多い。ラブコメのヒロインである八谷が作ったのなら、尚更その可能性が高い。


 恐る恐る、赤石はその異物を口に入れた。


 咀嚼。


「どうよ、やっぱり美味しいわよね⁉」

 

 八谷は赤石に感想を求める。

 赤石は八谷の顔を見て、


「まずい」

「えぇっ⁉」


 一言、きっぱりとそう言った。


「まずい、まずすぎる。まず、料理っていうのは見た目と匂いと味の三点で大体評価されるものだ。味も見た目も匂いも最悪だ。普通の食材を使ってここまでマズいものが作れるなんて逆に尊敬する」

「なっ…………何よ! そこまで言うこと無いでしょ!」

「豚の餌だな」

「豚の餌ぁ⁉」


 赤石の容赦ない言葉に、八谷は気圧される。


「そんなに言うならお前も食べてみろ」


 赤石は八谷と、席を変わった。


「美味しいはずよ…………」


 八谷は自分の料理を、口に入れた。


「うっ…………」


 青い顔をし、口に手をやる。

 口を手で押さえたまま八谷はトイレへと駆け込み、赤石の予想通りの展開を繰り広げた。


 八谷は顔を青くして口を拭き、赤石の下へと戻って来た。


「豚の餌ね…………」

「な」


 八谷の味覚がおかしいということはなくて良かった、と赤石は嘆息する。

 

「ちょっと同じものを作ってくれ」

「分かったわよ」


 謎の料理を作る八谷がどのようにしてこんな異物を作ったのか、赤石は八谷の調理過程を見ることにした。








「まずは、材料を用意します」


 八谷はテーブルの上に、先程の異物に使う材料を置いた。

 テーブルの上には卵、ベーコンが置いてあり、その他赤石の見たこともない材料が用意されていた。

 赤石はその材料に目を通し、


「…………ちょっと待て」

「何よ!」


 再度待て、の合図をかけた。

 赤石は用意された材料の一つを手に取り、八谷に質問した。


「これはなんだ……?」


 見たこともない赤紫色をした、有刺の球体に目をやり、赤石は渋面を作る。


「知らないわ!」

「何で知らない物を使ってるんだお前は!」


 赤石は手に取った謎の食材をキッチンの上に置き、新たな謎の食材を掴んだ。


「そもそも何なんだよこの食材は⁉ これは本当に食い物なのか⁉ 魔界で食う奴だろ、これは!」

「魔界で食べる物なんて入れてないわよ!」


 八谷は即座に反駁する。


「自分の知らない食材を料理に使うな!」

「だっ、だって珍しい食べ物入れたら美味しくなると思うじゃない!」

「ならねぇよ! 素人が妙に応用を利かせようとするな! レシピ通りにやれ、レシピ通りにやればそこそこ美味い物が作れんだよ!」


 ラブコメの展開としてありがちな、謎の食材を作った謎の調理方法を諫め、赤石は心底げんなりする。

 これは、八谷の謎の料理観念を否定する所からはじまるかもしれない。

 このようにしてラブコメのヒロインは料理兵器を作るのか、と納得する。


「まぁいい。卵とベーコンだけ使って調理しろ」

「何よあんた……偉そうね!」


 八谷はブツブツと文句を言いながらも、卵を割り出した。

 卵を片手で持ち、割った。


「素人が片手で卵を割るな! 格好をつけるな、殻が入るだろうが!」

「いっ……良いでしょこれくらい! さっきから素人素人うるさいわよ!」

「実際料理作ったことがないからこんな生ゴミみたいな物が出来てんじゃねぇか! レシピ通りにやれよ!」

「わ……分かったわよ、レシピ通りにしたら美味しいものが出来るわけじゃないからね……!」


 八谷は両手で卵を割り、卵の白身と黄身を分けた。


「……? なんで分けたんだ?」

「……? なんでって、今からこの白身かき混ぜるからよ」

「かき混ぜるぅ⁉」


 八谷は泡だて器を持ち出し、スイッチを入れようとする。


「待て待て待て待て、あの紫の泡の正体はメレンゲか⁉」

「メレンゲって何よ! 専門用語使わないでよ! 分からないでしょ!」

「専門用語じゃねぇよ、一般用語だ! 道理で……」


 赤石は先ほど食べさせられた料理を思い出し、紫色をした泡が盛ってあったことを思い出す。

 赤石はスマホで開いていたレシピを、八谷の顔の前に持って来た。


「これのどこに白身を分けてかき混ぜろなんて書いてあるんだよ! レシピ通りにや・れ・よ!」

「応用を利かせようと……」

「応用はいらねぇって言・っ・て・ん・だ・ろ!」


 赤石は大声でまくしたて、八谷はその迫力に押され、一歩後退した。

 ラブコメのヒロインによくある料理下手を矯正しようと、赤石は躍起になった。




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