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ラブコメの主人公はお好きですか?  作者: 利苗 誓
第5章 夏休み 後編
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第166話 高梨の別荘はお好きですか? 2



「メーデー、メーデー!」


 赤石の家で、階段を駆け上がる音が響いた。


「メーデー、悠!」

「あら、三千路さんじゃない」

「あ、会長、おっす」

「お久しぶりね」


 三千路は高梨に軽く挨拶をすると、その場に座った。


「で、悠、事故って何の話よ? 示談金って何? 一応百万円くらい持って来たんだけど……」


 三千路はポーチからままごとに使われるような玩具の紙幣を取り出した。


「そんな話した覚えはないぞ。詐欺に引っ掛かったんじゃないか」

「嘘でしょ、この私が……!?」

「お前すぐさま駆け付けようとしてただろ。もっと疑えよ」

「やっぱり悠じゃん」


 三千路は手中の紙幣を置いた。


「で、会長、なんで悠の部屋で寝たの?」

「そうね、私と赤石君は昵懇じっこんの仲なの」

「嘘吐け」


 高梨は床の木目をつつ、と触る。


「会長、中学時代は生徒会長で色んな斬新なアイデア出して学校改革してたのに家出したの?」

「会長はよしなさい。ちょっと色々嫌になったのよ」

「これからどうするの?」

「そうね……」


 高梨がおとがいに手を当てた時、三千路の後ろから須田がのそのそとやって来た。


「来たぞ~。皆~」

「遅いわよ! じゃあ統はここね」

「はいはい」


 須田を含め、赤石の呼んだ役者がそろった。


「悠、高梨って……」

「ああ、昨日は二人ともありがとう。高梨はここで寝て、今から家に帰るらしい。後は別荘で夏休みを過ごすらしい」


 ほお、と須田が頷く。


「宿題しろよ?」

「まず初めに言う事がそれかよ」

「私も別荘行きたい!」

「あ、俺も俺も!」

「落ち着きなさい、あなたたち」


 侃々諤々かんかんがくがく、高梨は話を取りまとめる。


「二人とも、昨日は悪かったわね。赤石君に助けてもらってなんとか一命をとりとめたわ」

「大袈裟」

「会長、悠の家に泊まって何してたの!? 何か不健全なにおいがする!」

「ふふふ、手錠で拘束されそうになったりしたわ」

「お前は話をややこしくしようとするな。何もない。普通に雑談をして、寝た」

「ツマンネ」


 三千路はそっぽを向いた。


「まあ、そういうことだから一応お前らに高梨の現状を伝えたかった。それだけだ。後のことはお前らに任す。事情は高梨から訊いてくれ。俺は寝る」

「牛になるよ」


 布団に入り始めた赤石に、三千路が声をかけた。


「まだ食べてない」

「豚になるよ」

「半分豚みたいなものだ」

「私が可愛くなるよ」

「なおさら寝る」

「そこは『もう十分可愛いだろ?』だろうが! 馬鹿か!」

「なんでキレてんだよ」


 赤石は布団に入って、寝転んだ。三千路は赤石の周りで自作のダンスを踊り、睡眠を妨害し始めた。


「ところで高梨」

「なにかしら」


 須田は赤石と三千路を背に、高梨に話しかけた。


「これから別荘で暮らすのか?」

「そうね、そのつもりよ。私の家がお金持ちで助かったわね」

「実家には帰らないのか?」

「……」


 高梨は無言で、視線を泳がせた。


「お父様とお母様には暫く会いたくないわ……」

「別荘に一人で泊まって心配されたりしないのか?」

「……本当の心配なんて、ずっとされてないわよ」

「……」


 高梨と須田は、共に目を背けた。


「おし!」


 須田は意気揚々と、立ち上がった。


「じゃあ高梨が悲しくならないよう、高梨の別荘に時々俺たちで行っていいか?」

「え……?」


 高梨は須田の発言に、目を丸くする。


「俺達って、私も入ってる? ねえ悠、私も入ってる?」

「知らねえよ」


 赤石は三千路を背に、目をつむる。


「まあ俺たち夏休み悠ん家で受験対策で一緒に勉強するつもりだったし、高梨の別荘で勉強しても同じようなもんだろ? 高梨はいいか?」

「え……私は別に、構わないけれど。でもあなたたちはいいの?」

「私はいいよ! 勉強したくないけど! 悠もいいって!」

「俺は結構だ。寝て毎日を怠惰に過ごす」

「いいって!」


 三千路は赤石の腕を掴み、持ち上げた。


「ふふ……そう。ならたまに私の家に来ると良いわ」

「おう、ありがとう」

「ならそろそろ私は行くわ」

「じゃあ俺らも送るよ」


 須田は準備を始めた。


「赤石君も準備なさい」

「意識だけ飛ばしとく」

「出来る訳ないでしょ」


 赤石の頭を三千路が引っぱたき、無理矢理に体を起こした。


「よし、高梨一行、出発だぁ!」


 須田を筆頭に、高梨の家へと出発した。







「それにしても、意外ね」

「あ?」


 半ば強制的に起こされた赤石は、不機嫌に返答した。


「あなた本当寝覚め悪いわね。毎朝私がモーニングコールで起こした方がいいんじゃないかしら」

「止めてくれ。なおさら寝覚めが悪くなる」

「お兄ちゃん、朝だよ!」

「おいレア度高いな、おい」


 両の拳を握り口元に持って来る高梨に、赤石は苦笑いで返した。


「冗談よ」

「どこからだよ」

「アダム、私たちは世界にまだ二人しかいないのね、からよ」

「本当にどこからだよ」


 赤石たちの前を、須田と三千路が歩く。


「それにしても、少し意外だったわ」

「ああ、話が戻ったのか」


 赤石は話を途中で切ってしまったことを少し申し訳なく思う。


「統貴があんな提案をしてくるとは思わなかったわ。もっと……悪くいってしまえば唯々諾々としているのかと思ってたわ。私は統貴のことを何も知らなかったのかしら」

「まあ、あいつの家もお前と重なる所があるからだろうな」

「そうなの……」


 須田の家もまた、放任を主義としており、須田もそのあおりを受けていた。


「須田散歩が簡単に開催できたのも、統の両親が放任主義だからだな」

「そうなのね……。大変ね、統貴も。あ、そう言えば夜のお散歩私も連れて行きなさいよ」

「この間お前の人形作って鞄に入れて一緒に散歩してたぞ」

「止めてよ、気持ち悪い」


 高梨はうげ、と赤石から距離を取った。

 雑談で時間を潰しながら歩いているうちに高梨の家につき、高梨は家へと入った。

 暫くの間赤石たちで高梨の今後について相談し、高梨はキャリーバッグを持って出て来た。


「行きましょう、あなたたち」

「おう!」

「おう!」


 三千路と須田は、共に相槌を打った。


「にしても悠、会長と仲良かったんだ」

「普通だな」


 三千路が高梨に、話しかけた。


「悠、良かったね、会長と仲良くなれて」

「中学時代はお世話にはなったからな。今度は俺が恩を返す番なのかもしれないな」

「殊勝だねえ。私に返す恩はないの?」

「お前は俺に返せバカ」

「……へえ、そんなこと言っちゃうんだ。じゃあ仕方ない……」


 三千路はポケットに手を突っ込んだ。


「本当は好きな人に最初に渡そうって決めてたけど……悠、これ!」

「うわ、きも」


 三千路はポケットから溶けかけのチョコレートを取り出した。


「まずそう」

「食べかけだよ?」

「本当にいらない。自分で食え」

「はあ!? 華の女子高生の食べかけチョコレートだよ!? しかるべきところで売ったら万も見えてくるよ!?」


 三千路はぷんすかと怒る。


「食べかけって、折ってそのままポケットに入れて忘れただけだろうが。口づけじゃないだろ。お前本当汚いな」

「ちょっと、女の子に汚い汚いって止めて!」

「お前指とか汚れても服で拭くもんな。マジであの癖やめろよ。お前次カーペットで指拭いてるの見たら容赦しねぇぞ」

「ちょ、ちょっと昔の話でしょ! 今はしてないから!」

「三千路さん、ちょっと指汚れてますぜ」

「え、本当に?」


 三千路は服で指を拭いた。


「……」


 無言で、見る。


「いや、ネタだから! こうするしかなかったじゃん!」


 三千路は慌てて否定する。


「到着したわよ」

「ほ、ほら、到着したって!」


 三千路は話を切り上げ、高梨の下へと駆け寄った。


「少し入って中の様子を確かめて来るからあなたたちは外でのんびりしておいて」

「おいっす~」


 高梨は別荘の中へと入って行った。


「じゃあ俺暇だしちょっとそこら散歩するわ」

「おっけー」


 赤石は高梨を待つ間、近くを散歩し始めた。


 高梨の家の事情。櫻井への復讐。霧島の非モテ同盟。水城との恋愛協力。八谷の憔悴。近い修学旅行。八谷のファンクラブ。夏休み。


 赤石はさんざ溜まった問題を解いていくように、考えながら歩いた。何度か近くを歩き回り、ふと、スマホに目を落とした。


「水城から……」


 水城から連絡が、来ていた。


「あ」


 そして偶然に、スマホに映る人影を見た。後方を振り返る。


「葉月……」


 赤石が振り返ると同時に、葉月も赤石を見た。


「赤石君……?」


 葉月はぴょこんと髪の毛を立てたまま、きょとんと、小首をかしげた。







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