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ラブコメの主人公はお好きですか?  作者: 利苗 誓
第4章 夏休み 前編
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閑話 謎解きはお好きですか? 2



「あ、そう言えばパイセン」

「なんだ?」

「私ちょっとすごいミステリーあるんすよ」

「?」


 須田は疑問符を浮かべる。


「開かない踏切」


 安月はとびきりのおどろおどろしい声音で、ゆっくりとそう言った。


「開かない踏切?」

「いや、別に踏切ってわけじゃないんすけど」


 そして、けろっと態度を翻す。


「私どうしても分からないことがあって、毎日毎日毎日毎日、絶対に同じ信号で止まるんすよ」

「なんだそれ?」


 馬鹿馬鹿しいなあ、と須田は呵々大笑する。


「いや、笑い事じゃないっすって。本当に困ってるっていうか、不気味なんすよ」

「いや、まあそういうこともあるだろ。思い込みじゃないか?」

「本当なんですって!」


 だんだん、と安月は地団駄を踏む。


「どう思います、赤石パイセン」

「知らん」

「冷たいすね~」


 冷えた目で、安月は赤石を見る。


「いや、本当に今まで毎日通学して一度たりともその信号に止められなかったことがないんすよ。毎回同じ信号で止められてるんす」

「はぁ……仕方ねぇなあ」


 須田がやれやれ、と首を振ると、


「その謎、この俺赤石悠人が解決してやるぜ!」

「なんでだよ」


 赤石の名を語り、大言壮語した。


「え、赤石パイセンがこのもやもや晴らしてくれるんすか?」

「なんでだよ。一人で考えろ」

「私、気になりますっ!」

「勝手に気になっとけ」


 ぐい、と上体を寄せる安月を邪険にする。


「大丈夫大丈夫。結局最後には手伝ってくれるオチだから」

「オチを予想するな」

「え、でも赤石パイセンとか頼りになるんすか? 私赤石パイセン正直あまり良い噂聞かないんすけど」

「今更過ぎるだろお前」


 赤石は半眼で眉間に皺を寄せる。


「俺は別に良いんだぞ、手伝わなくても」

「あぁ~~~、すいませんすいません! 私が悪かったっす! 教えてください!」


 安月は両手を合わせ、すりすりと揉み手で言う。


「まあ分かるかどうかは分からないけどな」

「赤石パイセン、今滅茶苦茶ダサいすよ」


 安月は光のない目でそう言った。


「ここが例の信号っす!」

「……なるほど」


 赤石と須田、そして安月は問題の信号が学校の近くだということもあり、現場に赴いていた。


「どう思う、悠?」

「いや、どう思うったって、別に……何も」


 取り立てていうことのない、いわばどこにでもある、ごく普通の信号機。何か変わったギミックもなく、信号の赤の時間自体も長すぎず、短すぎない。


「どう思うすか?」

「普通の信号にしか見えん」


 全く事の顛末が見えない赤石は、取り敢えず信号機の周りを散策する。


「須田パイセン、本当に赤石パイセン頼りになるんすか? 私にはどうも主人公に良いようにして使われる脇役感が否めないんすけど」

「いや、まあその通りではあると思うけど」


 言葉を所々濁しながら、須田が言う。


「ただ悠はこう見えて謎解きがそこそこ上手い」

「へえ~。なんですか?」

「さあ? なんかいつも色々考えてるからじゃないか? 悠の唯一の特技だ」

「別に特技でもないし、お前らが考えてなさすぎるだけだと思うぞ」


 赤石は一通り信号機を終え、戻って来る。


「どうすか、赤石パイセン」

「特に何も。後輩、お前はいつもどうやって学校に来てる」

「あの~、その後輩っていう言い方止めてくれません?」


 額に青筋を立て、腕組をしたまま安月が言う。


「ならハイコー」

「なんでパイセンシステム採用されてんすか。そういう問題じゃないすよ」

「じゃあなんて呼べばいいんだよ」

「仕方ないですねえ、今回ばっかりは大サービスすよ。ラナポンでいいですよ」

「呼べるか馬鹿」

「まあ赤石パイセンそんな度胸ないすもんね。安月で」

「ああ」


 赤石は安月に向き直った。


「で、安月。お前はいつもどうやって学校に来てる」

「私は自転車すよ」


 赤石は須田を見る。須田は大きく頷いた。


「え、私の発言の真偽を問うたんすか?」


 赤石は頷いた。


「いや、どんだけ私信用されてないんすか。止めて下さいよ取り調べみたいなの」

「冗談だ」

「須田ジョークだ」

「なんすかパイセンジョークて」

「ところで安月、お前昨日の夜どこで何してた?」

「取り調べに寄せてきてるじゃないすか」


 安月は苦笑する。


「お前いつも何人で学校に来てる?」

「……? 一人すよ」

「家はここから自転車で何分くらいだ?」

「二〇分くらいす」

「いつも学校には何時くらいに来てる」

「いつも時間に余裕持って来てますよ」

「友達と来ることはないのか?」

「ないすね、帰りはともかく朝は」

「お前の通学路、人気ひとけは少ないか?」

「え、何の質問なんすか本当これ!? 怖っ!」


 安月はとてとてと須田の背中に隠れた。


「パイセン、あいつ絶対ヤバいやつっす! 取り調べのフリして私の個人情報ごっそり持って行ったっす!」

「大丈夫だラナ、悠はそんなやつじゃない」

「いや、そんな奴っすよ絶対! 一人で通学してるかとか人気ひとけは少ないかとか、滅茶苦茶犯罪犯すつもりじゃないすか! 赤石パイセン! 私のどこが良かったって言うんすか!? 体すか!? やっぱり体なんすか!?」

「落ち着けよラナ、悠は女のポニーテール引っ張ったりするような奴だけど、さすがに後輩にそんなこと……」

「今赤石パイセンへの信用度滅茶苦茶落ちてますからね、ちなみに!」


 須田の背中で顔も見せずに、安月が言う。


「じゃあ安月、また明日。楽しみだな」

 

 赤石は踵を返す。


「怖! いや、怖! 今このタイミングでそのセリフと行動止めてくださいよ! 本当に怖い!」

「仕方ないな……」


 赤石はすぐさま、戻って来た。


「安月、お前ここでいつもと同じ感じで自転車を漕いでるフリをして歩いてくれ」

「いやいやいやいやいや! 私スカートすよ!? なんでそんなことさせるんすか!?」

「俺の趣味だ」

「こいつ! 言い切りやがった!」


 安月が赤石に指を差す。


「ラナ、先輩に向かって指を差すのは良くないぞ」

「頭おかしいんすか須田パイセン! 見たでしょ! 現行犯すよ!」

「実は悠には奥深い考えがあるかもしれないだろ? ラナ、自転車を漕ぐフリをしてみたらどうだ?」

「う……須田パイセンがそこまで言うなら……」


 安月は渋々ながら、その場で歩きながら、自転車に乗っているふりをした。


「……」

「……」

「……」

 

 赤石と須田は、自転車に乗るフリをしている安月を無言で見る。


「いや、はっず!」


 両手でハンドルを持っているフリをしながら、安月はそう言った。


「いや、はっっっっっっっっっっっっず!」


 復唱。


「高校生にもなって自転車に乗るフリしながら歩くの凄いはずかしいんですけど! ちょっと!」

「……」

「……」

「なんで今更になって他人気取ってるんすか!!」


 安月は大声で怒鳴りながら、赤石と須田に向かった。


「ちょっと! 滅茶苦茶恥ずかしかったっすよ! 公衆の面前で何滅茶苦茶恥ずかしいことさせるんすか!」


 はっ、と安月は気付く。


「まさか赤石パイセンの狙いはそこ……それが目的だったんすか!? 女の子に恥ずかしい思いさせて楽しもうって、そういう寸法だったんすか!?」


 罵るのように、安月は言う。まさか今こうやって罵られてるのも既に赤石パイセンの術中……と小声で呟きながら、わなわなと震える。


「安月」

「はああぁぁぃっ!」


 びくっ、と背筋を跳ねさせながら大声で返事をする。


「お前、本当か?」

「え?」


 本当か、それは何の話。何が本当で何が嘘なのか。何を意図して言ったのか。


「何がっすか!?」

 

 大声で、臨戦態勢で言う。


「信号」

「へ?」


 今更になって信号機の話を忘れていたことに気付く。


「お前本当になんで毎日毎日同じ信号に引っ掛かるか分からないのか?」

「え? え?」


 先程まで女の子に恥ずかしい思いをさせて悦んでいたような赤石が唐突に信号機の話をしだしたことに、どういう話術だ、と混乱する。


「いや、分からないすけど」

「簡単な話だろ」


 赤石は話を切り出した。


「お前は毎日一人で通学している。時間には余裕を持って、特に取り立てて急ぐこともなく今まで通学してきた」

「そうっすけど」

「なら同じ信号に引っ掛かるのも道理だろう」

「?」


 意味が分からなかった。


「お前の家からここまで大体自転車で二〇分くらいなんだろ?」

「はい」

「なら、どこかしらの信号で一度でも引っ掛かったらその後の信号も同じ場所で引っ掛かるだろ」

「何でですか?」

「ある信号が赤になればある信号が青になる。そういう原理でいけば、例えば一つ目の信号で引っ掛かったらその後の信号が赤になるまでの時間も等間隔だろ」

「はい」

「特に急ぐこともなく自転車を漕いでるなら次の信号に辿り着くまでの時間も大体等間隔だろ」

「あ~」


 なるほど、と得心がいく。


「じゃあそれ自転車通学じゃなくても同じ信号で引っ掛からないですか?」

「友達と会って話し込んだりすると自ずと歩く速度も変わるだろう。自転車は外的要因で速度が変わりづらい」

「なるほどお」


 つまり、と安月は切り出した。


「どこかしらの信号が青になった時、次の信号も同時に青になったら、その次の信号に行くまでの時間でちょうどその次の信号も赤になってる、みたいなことっすね」

「そうだろうな」

「確かによくよく考えるまでもなかったっすね」


 先ほどまでの赤石の評価とは打って変わって、警戒心を解く。


「で、安月」

「……はい」


 安月は恐る恐る視線を向ける。


「犯罪を犯すような奴ってどういうことだ?」

「いやぁ~」


 あはははは、と赤石の質問の意味を理解した安月は愛想笑いでその場を乗り切った。


「因みに須田パイセンは分かってたんすか?」

「いや、普通に考えたら分かるだろ」

「自分の想像力の無さを思い知らされましたよ」


 安月はとぼとぼと歩き出した。

 赤石と須田は安月の後を追った。


 その後暫く、毎回同じ信号に引っ掛かる、という話を安月は自慢げに友達に聞かせて回ることになった。




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