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エピローグ
「……」
雨が、降り始めた。
しとしとと降り始めたそれは次第に勢いを強め、やがて車軸を流したようなものへと変貌した。
高梨は滑り台の下で、雨を凌いでいた。
裸足で夢中で駆けて来た高梨に行くところなどあるはずもなく。出来ることもあるはずもなく。ただ夜の公園で、ひっっそりと膝を抱いていた。
滑り台の下でも雨を全て防ぐことも出来ず、服が湿る。
幸いにも高梨のいるそこは小さな空間のように仕切られており、快適でこそないが、不便さや窮屈さは感じなかった。
「……」
高梨はそっと膝を抱きしめた。
どうすることが出来ようか。これからどうすればいいのか。どこに行けばいいのか。そもそも頼ること自体お門違いではないのか。
今まで自分がしてきたことが全て自分に跳ねっかえている気がした。
「はあ……」
ため息とともに吐き出した呼気は雨に溶け、高梨と言う存在を一層はかなくさせる。
「……」
高梨はただ、誰かが自分を迎えに来てくれるのを、待っていた。
空腹と体中の小さな痛みに耐えながら、待っていた。




