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ラブコメの主人公はお好きですか?  作者: 利苗 誓
第4章 夏休み 前編
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第153話 恋愛相談はお好きですか? 1


 夏休みに入り、数日が経った。


「暇だな……」


 勉強に飽きた赤石は一人、呟いていた。自室にある本を手当たり次第に取ってみるが、気分が乗らない。


「外に出るか」


 赤石はリュックサックに財布と、その他、常備しているいくつかの小物を入れ、外に出た。

 特にどこに行くのかも決めていなかったため、向かう先が定まらない。


「……」


 ふと、図書館が脳裏を過った。


「行くか」


 赤石は図書館へと足を向けた。





 図書館へ着いた赤石は、真っ先に書棚へと向かった。一目見て気になった本をいくつか手に取り、机へと向かった。


「……」

 

 ぺらぺらと、本の中身を高速でめくっていく。一度本の大体の概要を掴み、読む本と読まない本とを決めるのが赤石の読書スタイルだった。

 

 数冊の本の中身に一通り目を通し、赤石は読む本を一冊に絞った。読まない本を片付けようとしたその時、


「赤石君……?」


 透き通るような玉音が、赤石の耳に飛び込んだ。

 聞いたことのあるような声に、視線を向けると、赤石の眼前に、水城がいた。


「……!?」

「あ、やっぱり赤石君だ! えぇ~、こんな所で会うなんて久しぶり~! 元気にしてた?」


 赤石の顔を覗き込むようにして屈んでいた水城が花のような笑顔を咲かせ、とてとてと赤石の隣に駆け寄って来た。

 相も変わらず他人と壁を作らない、にこにことした笑顔を張り付けたままの水城に心を奪われる。コミュニケーションを積極的に取り、嫌な顔一つしない水城は、大勢の人たちを虜にしてきた。


「やっほ~、赤石君」

「……」

 

 こくりと、首を縦に振る。


「図書館なんかで会うなんて奇遇だよね! ちょっと私赤石君に言いたいことがあるんだけ――」

「……」


 赤石は無言で、視線を落とした。リュックサックからスマホを取り出し、水城の眼前に持って来た。


『図書館ではお静かに』


 赤石は人差し指を立て、口を噤むよう促した。

 水城は咄嗟に顔を赤くし、両手で口を押さえた。一挙手一投足が艶やかであり、いちいちその美麗さを強調するような動きに、半分照れ、半分嫌気がさした。

 水城もまた、胸の間を交差するようにしてかけていたウエストポーチからスマホを取り出し、赤石に見せた。


『赤石君、真面目なんだね。私図書館でもついつい喋っちゃった……。ごめんなさいっ!』

『騒いで他人の恨みを買ってトラブルに巻き込まれたくないだけだ』


 超近距離での、スマホの会話が成立する。

 ふふふ、と水城が笑った。


『なんかおかしいね、こんなに近くにいるのにスマホなんかで会話してるって』

『そうだな』


 赤石もそう返した。


『ところで赤石君、ちょっと相談があるんだけどいいかな?』

『何』

『その前にだけど、ちょっと図書館でこういう話するのもあれだし、スマホでするのも大変だから、公園で話聞いてくれる?』


 にこにことしながら視線を向けて来た水城を、胡乱に思う。


 一体何の相談だ。大してプライベートで話したこともないような水城が、一体何を相談するというのか。

 水城は他人に対して自分の事情を一方的に押し付ける。そのために、誰に対しても人の良いように振る舞っている。また面倒なことに巻き込まれるのではないか。

 赤石は水城にノーを突きつけようとした。が、入力する手を止めた。思い直し、もう一度入力する。


『何の相談か簡潔に教えてくれ』


 相談によっては話に乗る。そう言外に伝えた。水城はおぉ、とくぐもった声を漏らし、目を細め、口をとがらしながら赤石を見た。水城からの親し気なやり取りに、気勢が削がれる。


『ちょっと、恋愛のことなんだけど……』


 来た。そう、思った。

 半分は、直感していた。周りの男に頼めばなんでもやってもらえそうな水城がいちいち相談がある、と前口上を使ってでもしたかった話。なんとなく、想像はついていた。

 ここぞとばかりに、赤石は入力した。


『聞こう。図書館はまた今度来る』

『やったね!』


 スマホでの対談を終えた赤石と水城は共に荷物を持ち、図書館を出た。


 ぶっ潰してやる。


 そんな昏い感情と共に、赤石は微笑んだ。




「はぁ~、息が詰まったね~」

「確かにな」


 ようやく公園に辿り着いた赤石は、公園の四阿あずまやに座り、対面で話していた。


「いやあ、赤石君とこんな所で出会えるなんてラッキーだったな~」

「それは重畳」


 心にも思ってないことを、と腹の底で馬鹿にしながら、話を聞く。


「いや~、でも赤石君図書館でも静かにって言われて、赤石君っぽかった~」

「そう……か?」


 疑問形で聞き返す。


「ところで恋愛系の話なんですけども……」

「なんだ」


 本題に入る前にもじもじと上体をよじらせながら、ちらちらと上目遣いで、水城が赤石を見た。頬を赤く染め、少し口を開けては閉じ、開けては閉じ、言葉が出て来ない。


「実は……」


 水城はそう切り出した、


「実は私、櫻井君のことが好きなんです!」


 机にバン、と手をつきながら、そう叫んだ。


「そ、そうなのか……知らなかった……」


 水城の勢いに半分気圧されながら、赤石はあえて何も知らなかったという体を装った。

 そういえば、と、前も今みたいなことがあったな、と赤石はそう思った。


「……」


 あぁ、と嘆息しながら思い出す。

 八谷と職員室の前でいた時も、こんなことがあった。水城が、好きな人に告白したけど聞こえなかったみたい、と八谷に言ったことがあった。 

 

 だが。

 追想する。


 あの時、あれは八谷が櫻井に告白しないようにする牽制だと、赤石は推測していた。だが、本当にそれだけだったのか。自分が八谷と同じ立場に立ったことで、新たな事実が見えてきた気がした。


 水城は校内一の美女だ。そんな校内一の美貌を持つ水城が、異性が自分に全く興味がないと思うものなのか。今の場合、赤石は自分には女として全く興味がないと、そう思うのか。そう断言することが出来るのか。

 否。

 出来るはずがない。或いは赤石が水城に告白してもおかしくはない状況でもある。

 水城は、その可能性を潰しておきたかったのではないか。


 あなたには仲良くしてあげるけど、恋人としては何の価値もないし、そういう風に期待されても迷惑だし、告白とかしてこないでよね。そう、言外に伝えたかったのではないか。赤石の前で好きな人に告白した、ということで、それは赤石への牽制にもなっていたのではないか。


「……」


 よく出来てる。


 そう言わざるを得なかった。 

 他人に自分の出来る限りの愛想を尽くしながらも、告白されて関係が悪化することを防ぐために牽制し、かといってそれでも全く脈無しだとも思わせない、見事な手腕だった。

 

 一体どこまで考えてやっていることなのか。赤石はまるで底の見えない、水城の暗い暗い心の中を覗き込んでいるような気分になった。


「でね、私櫻井君がす……なんだけど、でも何回告白しても櫻井君に伝わらないんだ」

「ほう」

 

 言葉が継がれたことで、水城の言葉に集中する。


「なんでこんなことになるんだー! って私も思うんだけど……」


 両手を上げて、うがー、とまるで威嚇にもならない可愛らしい声を出す。


「でも私にもわからなくて……」

 

 次に、しゅんとする。

 ころころと感情を使い分けるのが上手だな、と心中で褒める。


「でね! でね!」


 水城は机に身を乗り出した。


「赤石君に恋のお悩み相談役兼! 櫻井君に告白するためのサポーターになって欲しいんだ!」

「は、はは……」


 水城は目をきらめかせながら、赤石を見た。





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