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ラブコメの主人公はお好きですか?  作者: 利苗 誓
第4章 夏休み 前編
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第152話 櫻井の誕生日会はお好きですか? 2



「お、お前ら盛り上がりすぎだぞ! ちょっとは控えろよ!」

「全然盛り上がってないもんっ!」

「そうだよ~」


 にへら、と笑いながら水城と葉月が、櫻井にしなだれかかる。


「やあやあ、盛り上がってるねえ」

「……なに」


 それをはたから見る菜摘に、霧島は声をかけた。


「楽しいかい、菜摘ちゃん」

「どこが。全然楽しくないし。うるさいし、おにぃに付きまとう女はうるさいし、鬱陶しいし! 志緒姉ちゃんも由紀姉もデレデレして腹立つ!」

「そうかそうかぁ~、菜摘ちゃんは聡助が大好きなんだね」

「当り前だし! 本当いっつも人のことばっかり訊いてきてキモイ」

「わあ、それは誉め言葉だねえ」


 からからと笑いながら、手に持ったジュースを飲む。


「じゃあ僕は次は由紀ちゃんのところに行ってくるよ!」

「勝手に行け!」

「はいは~い」


 霧島は櫻井の輪の外にいる新井に声をかけた。


「由紀ちゃん由紀ちゃん、楽しいかい?」

「なんだし、霧島。楽しくないように見える?」


 卓上の料理に手を伸ばす。


「いやいや、僕は皆の楽しさ観測マンだからね」

「なんだし、それ。聡助と一緒にいて楽しくなかったことなんかないし」


 はあ、と、伏し目がちに吐息を漏らす。


「お、僕とはどうだい?」

「死ね! お前なんかといても何も楽しくない!」

「いやあ、光栄だなあ」

「褒めてないし!」


 霧島の横腹を小突く。


「でも今は聡助の近くにはいないんだね?」

「まあ、ずっと聡助の近くにいれるわけじゃないし……」

「へえ……」


 はあ、と何度もため息をつきながら、新井は櫻井を見る。


「いつからこうなっちゃったんだろうなぁ……」

「……」


 それは独り言ちるような、自分に言い聞かせるような、そんなか細い声だった。


「最初は一人だったんだ」

「何がだい?」

「最後まで話聞けし」

「はいはい」


 霧島は両手を上げて目を細める。


「私は聡助の幼馴染」

「知ってるよ」

「でも、いつからか聡助の近くに人がいっぱい寄り付くようになった」

「最初からじゃないのかい?」


 素直な疑問を、霧島が投げかける。


「違うし。私の家はそこ、聡助の隣」

「それも知ってるねえ」


 新井は隣の家を指さした。


「だから私と聡助はいつも二人で遊んでた。一番付き合いの長い幼なじみ」

「そうかあ~」


 何かを咀嚼するように、霧島が相づちを打つ。


「もうずっと聡助と二人で遊べたら良かったんだけどなあ……」

「へえ~」


 新井は天井を見上げた。何かを探し求めるかのように、視線を泳がせる。


「由紀ちゃんは二人で遊ぶのが好きなんだねえ。じゃあどうだい、今度は僕と――」

「そういう話じゃないし! はあ……もう、霧島と話してたら頭おかしくなりそう」


 新井は立ち上がり、霧島から離れるように歩き出した。


「ちょっとちょっと、どこに行くんだい?」

「おーてーあーらーい!」


 霧島の対応に疲れたと言わんばかりの相貌で、新井は言う。


「じゃあ僕もついて行くよ!」

「来んな! 死ね!」

「またまたツンデレだなあ、由紀ちゃんは」


 霧島の最後の一言を聞き流し、新井は櫻井の家を見回りだした。


「ここは私と聡助が初めて遊んだ部屋だったなあ……」

 

 ドアノブを触り、愛おしげに見る。


「ここは私と聡助が初めていい感じになった所」


 壁を触りながら、歩く。


「ここは聡助の初めてドジな所が見れた所」

「ここは聡助が初めて私に料理を作ってくれた所」

「これは聡助の好きなお菓子」


 櫻井との思い出に浸りながら、新井は歩く。


「ここは聡助の……」


 櫻井の部屋の前で止まる。


「聡助の部屋」


 ゆっくりとドアノブに身体を押し付け、微睡むようにして体を預けた。

 

「由紀、どうしたんだ?」

「ぴゃいっ!」


 唐突に背後から声をかけられたことで、新井は肩をびくつかせる。

 背後を振り返ってみると、紙コップを手にした櫻井が、そこにいた。


「い、いやあ、ちょっと聡助のお家探索なのだ!」

「何言ってんだよお前、何回も来たことあるだろ」


 仕方ねえなあ、と苦笑しながら櫻井は新井に近づく。

 櫻井が一歩近づくごとに、緊張と恋慕の汗が流れる。


「由紀、楽しんでるか?」

「た、楽しんでるし!」

「俺は由紀が楽しんでくれないと悲しいぞ?」

「だ、だから楽しんでるって!」


 ばかばかばか、とぽかぽかと櫻井を叩く。


「由紀」

「……?」


 新井の目を見つめるように、櫻井は中腰になる。


「何か困ったことがあったら俺にすぐ言えよな」

「……え」

「だって俺ら、幼馴染だろ」

「聡助……」


 笑みを湛えながら櫻井は、新井の頭にポン、と手を乗せた。

 

「お前の苦しみは俺の苦しみでもあるんだからな。あんまり一人で抱え込むなよ?」

「うん……」


 緊張で頬を染めながら、新井は撫でられる頭にしか意識が行かなかった。





「さあ皆、ここでビンゴゲームをしようか~!」

「あれ、櫻井君はどこに……?」

「櫻井君~~~っ!」


 リビングで霧島がビンゴゲームを始めようとしたそのころ、櫻井がドアノブを開けた。


「あ、櫻井君、今からビンゴゲームするらしいよ……って、由紀ちゃんも?」


 櫻井の後ろからついてくる新井に、水城が気付いた。


「お、おっす!」

「あ、あはは、何それ由紀ちゃん、どこ行ってたの?」

「ちょっとお手洗いに……ね、聡助?」

「お、俺は別についていったわけじゃねぇよ!」


 突然に話を振られ、櫻井はあたふたする。


「あ、あははは」


 水城は櫻井たちに笑みを向ける。


 本当に櫻井君は、可愛いんだから。

 そんな気持ちを声には出さず、櫻井にビンゴカードを手渡した。


「じゃあ今からルールを説明しようか!」

「ビンゴゲームにルールなんかないでしょ! 早くしろー!」

「はい菜摘ちゃん、文句言ったから真ん中のやつあけちゃ駄目ね」

「横暴だー! 権力を正しく行使しろー!」


 相変わらずだな、と櫻井は水城たちに笑いかける。卓上に戻り、料理に手をつけた。


「お、この料理……ふ、普通に美味い! これ作ったの誰だ?」

「あ、私だけど……」


 霧島のビンゴゲームのルールを聞いていた八谷が、おずおずと手を上げた。


「お、お前こんなに美味い料理作れたのか! 嘘だろ! 前はあんなに……」

「な、何よ! 言いたいことがあるならちゃんといいなさいよ!」


 八谷はがるるる、と櫻井に牙をむく。


「い、いや、お前……」


 櫻井は八谷の目を見た。


「頑張ったんだな」

「な、何よ……」


 八谷は頬を染め、目を逸らす。


「お前ならきっといいお嫁さんになれるよ」

「は、はぁ!? 何言ってるわけ!? 本当意味分かんない!」


 顔を真っ赤に染め、八谷はそっぽを向いた。


「櫻井君、私のもた、食べてっ!」

「お、おお、ありがとう冬華」


 櫻井は葉月の箸で掴んだ料理を、葉月に食べさせられた。


「か、間接きしゅう……」


 ぷしゅう、と音がしそうな動きで葉月は虚脱した。


「ちょ、ちょっと、聡助、私のも食べるし!」

「さ、櫻井君、私の作ったのも食べない……?」

「ちょ、ちょっと待てって! そんな一気に食えねぇよ!」


 押しかける新井と水城に少し待ったをかける。


「さあ、皆ビンゴゲームのルールは理解できたかなぁ!?」

「誰も聞いてないよ」

「ふう……」


 霧島は菜摘にやれやれ、と肩をすくめた。


 櫻井の誕生日会は大盛り上がりのうちに終わった。



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