第151話 櫻井の誕生日会はお好きですか? 1
朝。
「はいはいはーい」
インターホンの鳴る音に気が付いた櫻井は玄関へと向かい、ドアを開けた。
途端、
「聡助、お誕生日おめでとう~!」
玄関口で、クラッカーが鳴らされる。
「え、えぇ!? 由紀!?」
「「「おめでと~!」」」
「お前らまで!?」
新井の後ろから顔を出した水城たちに、櫻井は驚いた顔を隠せない。
「お、お前らどうしたんだよ一体!?」
「嫌だなあ、聡助……まったく、突然押しかけたのにこの反応だよ」
やれやれ、と言わんばかりに、霧島が言った。
「今日は聡助の誕生日じゃないか! だから僕が聡助にバレないようにこっそり、皆と誕生日会をする算段を立てていたのさ!」
「尚斗、お前ええぇぇ!」
櫻井は霧島を捕まえ、小突く。
「お誕生日おめでと、櫻井君」
「お、おう……ありがとな、水城」
ふふ、と楽しげに笑う水城に、櫻井も頬を染める。
「おいおい聡助~。こんな美女の大所帯に囲まれて、お前は本当に羨ましい奴だなあ!」
「う、うるせぇよ!」
「まあまあ皆、こんな所で話してるのもなんだし、部屋に入るかい?」
「なんでお前が言うんだよ!」
先んじて櫻井の家へと霧島が入って行く。
「お邪魔しま~す」
「お邪魔します」
「お邪魔します……」
「お邪魔し、ます」
新井、八谷、水城、葉月の四人も霧島に連れられる形で櫻井の家へと入って行った。
「わ、悪ぃお前ら! まさかこんな風に誕生日祝われるとか思ってなかったから」
大急ぎで家の中を掃除する櫻井を尻目に、霧島たちは机を囲む形で座った。
「おにぃ、何これ!?」
「お、菜摘ちゃんじゃないかあ」
「あ、菜摘ちゃんおは~」
「おはよう、菜摘ちゃん」
眼前の光景に愕然とする菜摘に、霧島たちは笑顔で手を振る。
「ちょっとおにぃコレ何!?」
菜摘は霧島たちを指さし、腕をぶんぶんと振る。
「いや、水城たちが突然やって来てさ――」
「今日はおにぃの誕生日じゃん! 誕生日くらい菜摘と二人で過ごすって言ったのに、すぐおにぃは約束破る!」
もお! と、頬を膨らませながら、ぽかぽかと櫻井を叩く。
「悪い悪い菜摘、だって突然やって来るとか思わなかったし、それに来てくれたのに帰すわけには行かねぇだろ?」
「そんなこと言ってまたこいつらを置いとくんでしょ! 去年もそうだったじゃん!」
「ちょっとちょっと、こいつら呼ばわりは止めてよ、菜摘ちゃ~ん」
霧島は立ち上がり、菜摘を制した。
「おにぃの馬鹿! おたんこなす! 馬鹿! 人でなし! のろけばなし! すけこまし!」
「なんでだよ!」
霧島に押さえられた菜摘は不承不承と言ったかたちで、着席した。
「改めまして皆、聡助を祝おうかい!」
「「「聡助、お誕生日おめでと~!」」」
わあ、と皆で一斉にクラッカーを鳴らし、櫻井はいやあ、なんか悪いなあ、と頭をかく。
「今日は聡助が主役だからなんでも言うことを聞く、と由紀ちゃんは言っているよ」
「なんで私だし! 突然話振ってくんなし!」
新井の憤懣を受けつつも、あははは、と霧島は受け流す。
「ま、まあ聡助の言うことなら別に聞いてあげても良いけど……」
「ん、なんか言ったか、由紀?」
「別に言ってないし! 早く皆も荷物おろす!」
櫻井を大喝した新井は、隣の水城の荷物をまずははぎ取った。
「ちょ、ちょっと由紀ちゃん、あ、ま、待ってって、自分でおろすから!」
「駄目だし! しおりっちはこしょこしょの刑!」
「な、なんで、あ、あははははは! 止めて、ごめん止めて! あはははは、ちょっと! くすぐったいって! あはははは!」
「ここがええんか? ここがええんか?」
「あははははははは!」
霧島と櫻井は、涙を流しながら笑う水城を見る。
「聡助、これはこれでなんだか背徳的な気分に……ぎゃあ!」
「霧島は見んなし!」
新井につねられた霧島は、これはこれでいいかも……と呟いた。
「ちょ、ちょっと~! 皆だけずるいよ~!」
「お、と、冬華!?」
新井たちの輪に入れなかった葉月は、櫻井と机の間を通るようにして、割って入る。
「ちょ、と、冬華そこは駄目だって! 狭いし! 別に無理して入らなくてもいいだろ!」
「だ、だって皆楽しそうだもん……!」
しゅん、とうなだれる冬華の頭を、まあそう落ち込むなよ、と櫻井は撫でる。
「じゃあお昼時だし皆、持ち寄ったご飯を出してくれないかい?」
「あ、はーい!」
「私も出すわ」
パン、と手を叩いた霧島に言われ、八谷は鞄から大きな弁当箱を三つ出した。
「おぉ、恭子ちゃん、これはまた随分と豪華で大きいお弁当箱を出したもんだねえ。さてさてお味は……」
「ちょっと! 聡助が食べてないのに先に食べようとしないでよ!」
八谷はつまみ食いをしようとした霧島の手を叩いた。
「うぅ……おにぃに寄ってたかる女がいっぱい……」
菜摘は互いに櫻井を狙う取り巻きたちに、敵愾心を抱く。
「ほ、ほら菜摘ちゃん、菜摘ちゃんも食べてね」
「うるさい! おにぃに寄ってたかる女は信用できない!」
「えぇ~……」
菜摘を手なずけようとした八谷は牙をむかれる。
「まあまあ菜摘、そんなに怒らなくても」
「おにぃは警戒心がないからダメなの! こんなの狼なんだから! みんな狼!」
「あ、あははは……」
がるるる、と喉を鳴らす菜摘に苦笑いしながら、水城もお弁当箱を出した。新井、葉月も後を追う形でそれぞれ手料理を出す。
「僕はこれで」
唯一、霧島だけが出来合いのお弁当を出した。
「あんたこれお店で売ってるやつじゃない」
「まあまあ、プロの腕が一番信用出来るじゃないか。ねえ、恭子ちゃん」
「なんで私の名前出したのよ!」
八谷の睨みも黙殺し、霧島は聡助の肩を叩いた。
「聡助、お前は……」
目頭を拭い、
「お前はうらやましい奴だなあ!」
「なんで泣いてんだよ……」
「僕以外皆手料理じゃないか!」
櫻井をひがんだ。
それぞれ取り巻きが手料理を出す間に、菜摘が渋々飲み物を出し、場に料理と飲み物が揃った。
「やあやあ菜摘ちゃん、気がきくね」
「早く帰って欲しいから」
「またまた菜摘ちゃんは、ツンデレだねぇ」
「お前は死ね!」
「あははははは、今日も菜摘ちゃんは厳しいなあ」
からからと笑い、霧島は立ち上がった。
「じゃあこれで大体準備は整ったかな? これから聡助の誕生日を始めます! それでは皆、お手を拝借!」
霧島に視線が注がれる。
「では聡助の誕生日を祝いまして! かんぱーーい!」
「「「かんぱーーい!」」」
櫻井の誕生日会が、始まった。




