第148話 合コンはお好きですか? 2
「やあやあ皆さん、今回はよく集まって頂いたね!」
「「「いえぇーーーい!」」」
霧島の音頭に合わせ、ボウリング場にいた男女数人が声を上げた。
「いやあ、こうして色んな高校からわざわざボウリングをしに来ていただいたところだけど、皆準備はいいかなぁ!?」
「「もちろん!」」
「じゃあそれぞれ違う高校同士が集まるように適当に分けさせてもらうよ!」
そう言うと、霧島はその場にいたメンバーがそれぞれ同じ高校同士でチームを組まないよう、先導した。
随分と手慣れたものだな、と感慨もなく思う。その場の雰囲気に飲まれないよう、適度に自身のテンションを偽り、赤石もその場に馴染んでいた。
「じゃあこんな感じでいいかな!」
霧島はそれぞれ男女二人ずつのチームを三つ作った。
「じゃあこれで皆あとは適当にボウリングを楽しんでくれたまえ!」
「オッケー!」
「尚斗さっすが!」
三つに分けられたチームはそれぞれ自身のレーンへと歩き出した。
赤石も遅れないよう、ついて行く。
「うぃっす~」
「おっす!」
隣を歩いていた女子に声をかけられた赤石は、精一杯取り繕いながら返答した。
「いやあ、君尚斗と同高っしょ? 今日はよろしく~」
「うぃ~」
赤石は女の真似をし、握りこぶしをこつん、と合わせた。
「君名前は?」
「俺? 俺工藤雄介、二一歳独身」
「ちょ、独身とかいらないし! てか尚斗と同高しょ? 二一なわけないじゃん!」
あはははは、と女は豪快に笑う。
「うそうそ、本当は赤石悠人、赤石のし、と悠人のゆう、を取ってしゆうって呼んでくれよ!」
「何それ、そこで区切るんだ」
あははは、と何度も女は笑う。
「私は船頭ゆかり、呼び方は自由でいいよん」
「へぇ~、船頭ゆかりちゃんかあ。良い名前じゃん。じゃあゆかな、お前」
「ちょ、距離の詰め方早すぎ! 超ウケるんだけど」
ぱしぱしと、船頭は赤石の肩を叩いた。
レーンについた赤石と船頭、そして男女二人はそれぞれボウリングの球を持って来た。
「ゆかゆか、この靴何? これどうやんの?」
ボウリングをやったことがない赤石は船頭に尋ねた。
「えぇ~、しゆうボウリング来たことないわけ!? 嘘でしょ!?」
「いや、ボウリングとかあんま来ねぇんだよ! いいからこの靴何かさっさと教えてくれよ! なんだよこれ! バイキングかよ!」
「いや、違うって! 本当面白い」
船頭は笑いながら赤石にボウリングのルールを教えた。
船頭の力を借りながら赤石はなんとかボウリングを始めるまでの状態に仕上げ、まだ話していないもう二人の男女の下へと向かった。
「うぃっす! 俺三垣拓真! よろしく!」
「私は天音志乃、よろしく~!」
残る二人とも適当に会話を交わした赤石たちは、早速ボウリングを始めた。
「で、ゆか、ボウリングの経験は?」
天音が投球をしている間、赤石はしつこく船頭の情報を聞き出していた。三垣に一切構うことなく、ただただ船頭だけに話しかけていた。
「え、いや、もちろんあるっしょ。しゆうはないんでしょ?」
「いやいや、俺の実力を見くびってもらっては困るよ」
天音が投球を終え、赤石はゆっくりとボウリングボールへと歩んだ。
「まあまあ船頭君、俺の実力を見たまえよ」
赤石はボールを持ち、投げた。
ガター、ガター。
「ま、俺の実力じゃこんなもんだ」
「駄目じゃん!」
あははは、と赤石を指さしながら船頭が天音と三垣にも言った。
「なになに赤石君、ボウリングとかやったことない感じ?」
「まあね」
三垣の言葉を適当に切り返し、赤石は男との会話を出来るだけ避けた。櫻井がするそれを見よう見まねで、やっていた。
「じゃあ次は私の出番じゃん」
「ゆか、ガターすんなよ!」
「いや、分かってるし! プロの実力見とけよ!」
赤石は船頭を応援した。
「いやあ、ゆかりちゃんの実力は果たしてどれくらいかな?」
「えぇ~、どうだろう」
船頭が投球している間、三垣と天音が二人で会話をしだした。
「志乃りんはあんまりボウリング上手くないよな」
「ちょっとぉ! ひどいぃ!」
三垣は天音を小馬鹿にし、天音がくすくすと笑う。赤石はその瞬間を、見逃さなかった。
「あははははは、ちょ、なになに志乃りんって、二人とももうそんなに仲良くなったのか!?」
「えぇ~、何言ってるの赤石君、まだ出会いたてだよぉ~」
「なんだよ出会いたてって~! ほかほかご飯じゃん!」
「何それ面白い」
三垣と天音の会話を見事中断させた赤石は天音にかかりきりになった。三垣は赤石との会話にシフトした天音に、入り込むことが出来なかった。
櫻井は、他の男が女と喋ることをよしとしなかった。
「てか、俺はしゆうって呼んでいいよ。じゃあ俺も志乃りんって呼ぶわ」
「えぇ~、どうしよっかなぁ~」
「いや、渋るところじゃないでしょ! 渋りんじゃん!」
「待って、めっちゃ面白いね、赤石君!」
「いや、しゆうだって!」
あははは、と赤石と天音は笑い合った。
「お待たせ~! いやあ、どうよしゆう、私の実力見た?」
「ごめん、新聞読んでた」
「いや、そんなのないじゃん!」
「ふふっ」
赤石の合いの手に、天音もくすくすと笑う。
「あ、じゃあ次俺だわ~」
三垣は赤石を剣呑な目で見ながら、投球を始めた。その視線に気が付いているのは、赤石だけだった。
「じゃあ次私~」
三垣の出番が終わり、天音がてこてことレーンに向かった。
ストライク。
「やった~! 皆見てたぁ~!?」
「うぇ~い! 志乃りん、うぇい!」
赤石が両手を上げた。
「いぇ~い!」
天音は赤石とハイタッチし、船頭と三垣も倣うようにして天音とハイタッチした。
「じゃあ次は俺か~」
赤石は先の失敗を活かし、六本のピンを倒した。
「いぇ~い! ゆか、うぇい!」
赤石は船頭に向かって両手を上げた。
「なにそれ、六本って全然すごくないから!」
あははは、と笑いながらも、船頭は赤石とハイタッチした。
船頭は赤石と代わるように、ボウリングボールを取りに行った。
「っていうか三垣君ボウリング上手いね!」
「でしょ? いやあ、俺ボウリング結構来るからな~」
天音に褒められた三垣は鼻高く言った。
「さっすが拓真~!」
「うぇ~い!」
赤石はまるで旧知の友であるかのように、三垣を褒め称えた。三垣も赤石の言葉に怒ることも出来ず、話を合わせた。
「なになに二人とも~、仲良くなるの早い~!」
「まあ、気合うしな!」
「あはははは」
赤石は三垣の肩に腕を回し、肩を組む。俺たちは仲が良いんだぜ、とアピールした。三垣は苦笑いで適当にやり過ごす。
天音は嬉しそうに、二人の様子を見ていた。
お前らが好きなのはこういうのだろ。こういう、見かけ上は仲が良さそうな関係だろ。
赤石は冷めた目で見る。
櫻井は女の前でだけ、周りの男とまるで旧友かのように振舞っていた。
「あ、じゃあ次俺だわ」
三垣は赤石から逃げるように、レーンへと向かった。
「なになに、しゆうもう三垣君と仲良くなった感じ?」
「まあね」
「しゆうって本当人と距離詰めるの上手いよね。なんか尊敬するかも」
「あははは、照れるなあ!」
「私もそう思う!」
「あっはっは、苦しゅうないぞ! あ、違うか。苦しゆうないぞ!」
「「あははははは!」」
船頭と天音の二人に囲まれた赤石は大仰に振舞った。
三垣はストライクを取った。
だが、船頭も天音も赤石の話に傾聴し、誰も三垣とハイタッチをしようとはしなかった。




