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ラブコメの主人公はお好きですか?  作者: 利苗 誓
第4章 夏休み 前編
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第139話 モテる秘訣はお好きですか? 2



「じゃあ赤石、ご飯行きましょ、ご飯」

「何だよ今日は。気持ち悪いな」

「いいから行きましょって言ってるでしょ。ごーはーん」

「別にいいわ、面倒くさい。食べるなら適当な店で適当な物勝手適当に食うわ。大体ここの近くっていったらあの――」


 赤石は近くのファミリーレストランを見た。


「あーーー! やっぱさっきのなし! じゃああんたが言うように買い食いで良いわよ! 付き合ってあげるわよ!」


 赤石と出会った頃に櫻井を交えて行ったファミリーレストランのことを思い出し、八谷は咄嗟に話を変えた。櫻井の話に移るのが、怖かった。


「なんで俺が要求したみたいになってんだよ」


 ぶつぶつと文句を言いながら赤石と八谷は近くのコンビニに入った。


「あそこの公園で食べるわよ!」

「そうだな」


 適当に食べ物を買った赤石と八谷は公園のベンチへ向かった。


「……」

「……」


 人気の少ない公園のベンチで、赤石と八谷は二人食事をしていた。


「公園、人少ないな」


 ふと、赤石が言った。


「そうね」

「最近は家で出来る遊びが増えたからいちいち公園に来たいと思う子供が少なくなったんだよな。もう公園で子供の遊び声が聞こえるところもそんなにねぇよな」

「なによあんた、おっさんみたいなこと言って」

「まあ、そうか」


 赤石は水を飲んだ。


「そういえば赤石、あんた今日は普通の食べ物なのね」


 八谷は赤石の袋に入っている食べ物を見た。特に何ということもないお菓子が入っていた。


「まあ俺もいつも栄養機能食品ばっか食ってるわけじゃないからな。食べたいときには食べたいものを食べる」

「へぇ、人間ぽい」

「人間だ」


 赤石は水を飲み終えた。


「……」

「……」

 

 夏――


「そろそろ夏休みね」

「そうだな」

「……」

「……」


 木陰のベンチに座る二人は漫然と雑談に興じていた。


「たまにはいいわね、こうやって公園で食べるのも」

「そうだな」


 ぼー、っと赤石は視線の先の木を見る。


「なあ八谷」

「はい!」

「男と女って目線が違ったりするのか?」

「…………はぁ!?」


 顔をしかめ、きな臭いものを見るかのように赤石を見た。


「あ……」


 八谷は自身の胸元を見た。


「ちょっと止めてよ! 変態!」

「いや、そういう目線じゃなくて……」


 胸元を隠す八谷に呆れた顔をする。


「例えば――まあ、本当に例えばでいいけど。例えばあるところに一組のカップルがいたとする」


 赤石は右手と左手の人差し指を上げた。

 それは赤石のこと……? と、八谷は身構える。


「カップルのA君とBちゃんはとても仲良しでした」


 A君は赤石のこと? と、不必要に八谷は警戒する。


「でも、ひょんなことからA君とBちゃんは別れてしまいました。価値観の不一致だったよ、とA君はあはは、と不器用に笑いました」


 こくこく、と八谷は頷く。


「A君は別れたことが原因で憔悴してしまいました。そしてA君は――あ~」


 赤石は言葉につまった。


「どうしようか、なんでもいいけど、じゃあバレー部に入っていました」


 こくこく、と八谷はただ無言で頷く。


「A君は実はバレー部の主将で、とてもバレーが上手でした。ですが別れたショックで最近は憔悴していました」

「可哀想ね」


 八谷が口を挟む。


「憔悴していながらも、A君はバレーがあまり上手くないCちゃんをたまたま見つけました」


 赤石は小指をあげ、Cちゃんとした。


「A君はバレーが上手く出来ないCちゃんのことを不憫に思いました。普段から教え慣れているA君はCちゃんの下に行きました」


 赤石は軽く声を変え、


「Cちゃん、バレーあまり上手じゃないんだね。僕で良かったら出来る限り力になりたい……と言いました」


 そう言った。


「あ、ありがとうA君、で、でもA君に教わるなんて私申し訳なくて……。いや、大丈夫だよCちゃん。僕は困ってる人を放っておけないんだ。Cちゃん、出来る限り僕がバレーを教えてあげるよ。A君は憔悴しているのにも関わらずバレーを教えることにしました」

「なるほど」


 八谷が頷く。


「Cちゃん、そこにトスしちゃブロックされちゃうよ。Cちゃん、サーブはもうちょっと高い打点からの方が良いよ。Cちゃん、体全体をバネにして! A君はCちゃんに教えられる限り教えました。するとCちゃんはめきめきバレーが上達しました」

「うんうん」


 八谷は食いつくように赤石のあげた人差し指と小指を見る。


「ところがそれを良く思わないCちゃんの先輩Dさんがいました」

「おお!」


 赤石はBちゃんだった人差し指をあげた。


「あんた調子乗んないでよ。A君はあんたが下手くそだから教えてくれてんのよ。A君に教えて欲しいからって下手くそなフリしないでよ。本当キモイんだよ、とDさんは言いました」

「嫌な奴ね、Dさん」

「ご、ごめんなさい。Cちゃんはへこみました。その場に、A君がいました。その様子を見たA君はCちゃんの前に出ました」

「A君!」

「違うよDさん。Cちゃんはちゃんとバレーに励んでるよ。僕はCちゃんが頑張って来たことを知ってるんだ」

「A君!」

「だよね、Cちゃん。A君は優しい目でCちゃんを見ました。A君……Cちゃんは目に涙を浮かべました」

「Cちゃん!」

「A……A君が言うなら分かったわよ……。Dさんは去っていきました。A、A君……Cちゃん……。こうしてA君とCちゃんは仲良くくっつきましたとさ、おしまい」


 こうして赤石は両手を降ろした。


「で、どう思った?」

「…………面白かった!」

「いや、じゃなくて……」


 目をキラキラさせて八谷は言う。


「A君とCちゃんの恋、どう思った?」

「A君がすごい良い人ね。あとDさんが好かないわ、私は」

「……そうか」


 赤石は、ははは、と笑った。

 やっぱりだ。そう、思った。やっぱり、違う。間違いなく。


 赤石は八谷を見る。男と女の視点なのか、あるいは個人差なのかは分からない。だが、例に挙げたような話は決して純愛物語なんて代物ではない。赤石は、そう思っていた。

 八谷はA君とCちゃんの純愛物語だと解釈した。だが赤石にはどう見てもA君が櫻井のような人間にしか見えなかった。

 

「これが、いわゆる普通男女に横たわる価値観の相違ってやつなのか……」

 

 赤石は思案顔で俯いた。


 


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