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ラブコメの主人公はお好きですか?  作者: 利苗 誓
第4章 夏休み 前編
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第136話 体育はお好きですか? 4



 昼食休憩も終わり、次の授業である体育が始まった。


「おーい、皆集まれー」


 教師の呼びかけを契機に、男子生徒がぞろぞろと集まりだす。赤石の属する高校では男子生徒と女子生徒の体育の内容が分かれていた。赤石たちはグラウンドでサッカーをし、水城たちは体育館でバドミントンをすることになっていた。


「あ~、女の子たちと一緒に体育受けたかったよ僕は~」


 霧島が体育館を見上げながら呟いた。


「分かるわそれ」

「めちゃ分かる」

「今から俺たちだけでも行かね?」

「いいね!」


 霧島の周りで男たちが騒ぐ。


「よしお前ら、僕についてくるんだ! ミッション、女子の体育シーンを盗撮せよ! 行くぞ!」

「「「おおおおぉぉぉ!」」」

「行かせるかよ」


 走り出す準備をしていた霧島の頭を、体育教師が掴んだ。


「お前らはグラウンドでサッカーだ、いいな」

「……霧島、諦めよう」

「ふう……仕方ないね。体育の教師は強情だって相場が決まってるからね」

「強情なのはお前らだ、ほらさっさと戻れ」


 霧島たちはやれやれ、と首を振りながら踵を返した。







 体育館の中では、女子生徒たちの嬌声が響いていた。


「わ、高梨さん体柔らかいわね」

「そうね。昔体操をしてたからかしらね」


 八谷が高梨の背を押し、高梨は開脚したまま床にぺたんとくっついた。


「高梨さんってなんでも出来るわね」

「沢山習い事をしてたからそこそこには出来るかもしれないわね……」


 ゆっくりと高梨は体を戻す。


「次はペアと背と背を合わせて背筋を伸ばすストレッチで~す」


 体育の女教師と同時に、八谷と高梨も背と背を合わせる。八谷の視線の先に、グラウンドでサッカーをする赤石の姿があった。


 高梨は櫻井の取り巻きの中には戻れなかった。櫻井のハーレムから弾かれ、異物のようにのけ者にされ、ひっそりと空気のようにクラスに溶け込んでいた。

 だが、八谷は取り巻きの目の届かない所で高梨と話すことに躊躇がなかった。ペアでストレッチをする体育の時間だけは高梨と自由に話をすることが出来る空間であった。或いは、ただ周囲の目を気にして、聞きたいことを自由に聞き出せるだけの時間が欲しかったのか。


 八谷が屈み、高梨が持ち上げられる。数秒その体勢を維持し、元に戻る。


「あ、赤石」


 八谷の視線の先に、サッカーをする赤石の姿があった。平凡的な体力と運動神経しか持たない赤石は平凡的な動きしか出来ていなかった。


「相変わらず動きが普通ね」

「そうね」


 八谷に持ち上げられたタイミングで、高梨がグラウンドを上下逆さに見る。


「そういえば高梨さん、赤石に告白するって話――」


 ぽろ、と唐突に、八谷の口から漏れ出た。あ、と口をふさぐ。櫻井とショッピングに行った時に言えなかった言葉が今、思考の渦から抜け出たようにして口に出た。


「何?」

「え、いや……」


 ここまで言ってしまっては隠した方が逆に疑われるだろう。そんな風に自分に言い聞かせながら、ええいままよ、と八谷は口を開いた。


「高梨さん赤石に告白出来たの?」

「……別に出来ていないわよ」

「じゃあ次は二人で開脚して手を繋いで互いに引っ張り合って下さ~い」


 八谷と高梨が向き合う。教師の言葉が体育館内に響く。そこだけ時間が止まったかのように、八谷と高梨はぴくりとも動かず相対していた。

 教師が例を見せたあと、八谷と高梨はストレッチのポーズに移った。


「まだしないの?」

「別に八谷さんには関係ないと思うわね、私は」

「まあ、そうだけど……」


 高梨が八谷の手を引く。痛い痛いわよ、と八谷は呻く。


「でも知りたいと思うわよそれくらい。赤石はまあ、一応私の友達なわけだし」


 八谷は高梨の手を引く。体の柔らかい高梨はぺたり、と床までくっついた。


「ふふ……」

 

 高梨は嘲笑に近い笑いを湛え、起き上がった。


「ずるい女ね、あなたは」

「え、ずるい……?」


 高梨が八谷を引く。


「私もあなたも、ずるい女よ」

「べ、別にずるくないわよ」

「ずるい女はいつか痛い目を見るわよ」


 高梨が八谷を引っ張る。痛いって言ってるじゃない! と引っ張りすぎた高梨に言う。


「じゃあこれでストレッチは終わりで~す」


 八谷と高梨は立ち上がった。


「私が赤石君と付き合ったとき、あなたは一体どんな顔をするのかしらね……」


 高梨は八谷を見た。

 よくわからない高梨の微笑に、八谷は背筋が冷たくなった。 


「では皆さん集まって下さーーい」


 女教師の呼びかけで高梨と八谷は集合する。取り巻きの目もあってか、それ以上は追及できなかった。




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