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ラブコメの主人公はお好きですか?  作者: 利苗 誓
第1章 ラブコメ ヒロイン活動編
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第14話 ラブコメはお好きですか? 4



「聡助君、今日は一緒に帰らないのかしら?」

「聡助、帰らないの?」

「帰るわよ聡助!」


 校内で、新井と高梨、八谷が櫻井の帰りを待っていた。


「いや、悪いな皆。今日はちょっと学校で用事があって帰れねぇんだよ」

「えぇ~、私の聡助と一緒に帰れないの超面白くないよ~」

「何を言っているのかしら、新井さん。聡助君は私の夫よ」

「おいおいお前ら馬鹿な事言ってんなよ!」


 いつものように新井と高梨とが言い争い、櫻井はそれを宥めすかす。


「じゃあ仕方ないわね……高梨さん、新井さん、一緒に帰らない?」


 校内で用事があるということを理解し、八谷は高梨と新井を誘う。


「悪いわね八谷さん……私今からちょっと寄るところあるの」

「ごっめ~ん、恭子っち。私ちょっとやっときたいことあるんだ」

「そう…………じゃあ仕方ないわね!」


 先ほどまで櫻井と共に帰ることを主張していた高梨と新井は掌を返し用事があることを伝えるが、八谷は納得する。

 

 自分と帰りたくがないために適当な理由をでっちあげているとは、八谷は微塵も想像しなかった。


「じゃあ皆私帰るわ!」

「ばいばい恭子っち~」

「さようなら」

「じゃあな、恭子~」


 八谷が帰宅するのと同時に新井と高梨も別々に帰り、櫻井は一人きりとなった。


「さて…………」


 そう呟き自分の荷物を肩にかけ、図書館へと歩き出した。





 櫻井は図書館へと入り、自分を呼んだ水城の姿を視認し、声をかけた。


「み……水城、来たぜ」

「あ! 櫻井君、こっちこっち!」


 櫻井の声を聞いた水城はすぐさま立ち上がり、駆け寄った。

 水城が駆け寄ってきたことで櫻井は羞恥し、紅い顔をする。

 


 自分が好意を抱いている水城と二人きりになることに、羞恥を抱いていた。



「こっちだよ、こっち」

「お…………おう」


 櫻井は水城に手を引かれ、図書館の奥に進んだ。

 

 高校の図書館は常に人が少なく、放課後でも図書館にいる人間はまばらで、点在していた。


「櫻井君、今日はありがとう!」

「なっ!」


 水城は感謝の意を示すとともに櫻井の手を強く握り、櫻井は驚いて大きな声を出す。

 

 図書館にいる人間は少なかったが、『大声をあげない事』が図書館内の規律であるため、周りの人間は櫻井たちを半眼で睥睨した。


「す…………すみませ~ん」


 櫻井は頭をかき、軽く謝罪した。


「何やってんだよ水城! いきなりビックリしたじゃねぇか!」

「ご……ごめん、そんなに驚くとは思ってなくて……」


 大声を出してしまったことを反省し、櫻井と水城は小声で会話する。

 図書館に来ている人間は友達を連れず銘々が一人きりで、喋ることはない。

 そのため、小声でも図書館内に櫻井と水城の声はよく響いた。


 カリカリとシャープペンシルを動かす音の中に、人の声が小声で混成する。

 図書館に来ていた人間の何人かは櫻井と水城を見て、ばつが悪そうに図書館を出て行った。


「……で、何が分からないんだ、水城は?」

「あ…………うん、そのね、ここなんだけど」


 勉強を教えて欲しいという理由で呼んだため、水城は櫻井に勉強を教えて貰う。

 実際には分からない所があったわけではなく、櫻井を呼び出す口実として勉強を教えて貰う様催促する。


「あぁ、ここ分かりにくいよなぁ。俺も理解するのに時間がかかったよ。ここは、これとこれで括ればいいんだけどな」


 親身になって自分の疑問を解決してくれているな、と水城は頬を染め櫻井を見上げる。


 上目遣いで水城が自分を見ていることに気付いた櫻井は、口を閉じた。


「な……どうしたんだ、水城」

「え…………な……なんでもないよなんでもないよ! 大丈夫、大丈夫! ちょっとあれしてただけだから!」

「あれってなんだよ!」


 櫻井と水城は共に頬を染め、先程よりぎこちなくなりながら櫻井は再度説明を再開した。


 そのまま櫻井は水城の勉強に付き合い、数時間が経過した。


「ここは…………そうそう、この定理が使えるから」

「櫻井君、教えるの上手だね」


 水城は櫻井の目をじっと見つめ、熱のこもった口ぶりで喋った。


「お…………おう、あ、ありがとな水城!」


 櫻井もまた顔を上気させ、言葉に詰まりながらも返答する。

 水城の口元に、櫻井の視線が吸い寄せられる。


 ふっくらとした血色の良い唇に、うっすらとした桃色が乗ってあり、熱がこもっていることが原因で、更に櫻井はその唇に見入る。

 

 今にも吸いこまれそうな、自分の目を見つめる深淵な瞳に櫻井は視線を移す。


 血色の良い肌に、頬の部分はうっすらと紅く染まり、その肌の艶は白さを際立たせるかのように、光を反射している。

 もっちりとしたその肌は触ってしまえば二度と離れないかのようで、美しくきめ細やかな肌も、その深淵な瞳も、ふっくらとした唇も、二人の距離が開いていないこともあってか、際立って見えた。


 不意に、そのぷっくりとした肌が愛しくなった。

 触りたくなった。

 

 櫻井は、無意識的に、水城の肌を触っていた。


「え……きゃぁっ!」


 水城は鋭い悲鳴を上げ、図書館に残っていた数人の生徒が水城と櫻井とを睨みつける。


 先ほどから小声で話したり情事を展開したりと、好き放題やっている櫻井と水城に、生徒たちは呆れかえる。

 他者を顧みない二人の恋人はこうも人に迷惑をかけるのか、とその場にいる誰もが感じていた。


「ご…………ごめんなさい」


 水城は謝罪と共に、俯いた。


「さ…………櫻井君、な……何?」

「あ…………えっと」


 無意識的に水城の肌を触ってしまった、と櫻井は放心状態だった。


「い……いやね! 埃がついてから取ったんだよ! 水城の肌に埃がついてたからさ!」

「そ…………そうだよね! 何かないと触ったりしないよね!」


 動揺したことで櫻井と水城は声が大きくなり、残っていた数少ない生徒はバン、と大きな音を立てて本を閉じ、帰った。

 

 だが、櫻井と水城は共に深く動揺し、羞恥し、二人の空間が形成されている今、その音は二人には一切届かなかった。


「…………」

「…………」


 静寂が、場を支配した。

 もとより静謐な空間である図書館は静寂を取り戻し、二人の間に妙な沈黙がおりた。


 水城は、既に常軌を逸していた。


 すぐそばで櫻井から勉強を教わり、生肌も触られ、まともな思考が出来なくなっていた。

 

「ね……ねぇ、櫻井君?」

「な……な、なんだ?」


 気付けば、口から言葉が飛び出していた。  


「さ…………櫻井君、好きです! 付き合って下さい!」

「え…………………………?」


 キーンコーンカーンコーン。


 水城が櫻井に告白したと同時に、軽快なベルの音が図書館に響いた。


「はいはい、図書館閉めるよ、もう時間も過ぎたから生徒は出る、出る」


 時間が来たことで図書館の管理人は櫻井と水城に退出を促し、ぽかんと口を開けたまま水城は素直に退出した。


 今の告白はちゃんと聞こえたのだろうか、そうもやもやとしながら、水城は開いた口が閉じなかった。




 櫻井と水城は図書館を退出し、ゆっくりとした歩調で二人歩いていた。


「あ……あのさ、水城、さっき何か言ったような気がしたんだけど、何て言ったんだ?」

「え…………な……何でもないよ、気にしないで! 何も言ってないから! いや、うん! 本当になんでもないから! 本当になんでもないから! 本当どうでもいいことだから、あ、あはは、本当! 本当に! う、ううん、もうどうでもよすぎて凄いよ! 今日の朝ご飯くらいどうでもいことだから! だから気にしないで! うん、大丈夫!」

「そ…………そうか、まぁならいいんだけど」


 時間が経ったことで水城は冷静になり、先程自分でしたことを深く恥じ入っていた。

 両手を高速で動かし、何もないことをまくしたてることで事なきを得る。


「ビ…………ビックリした…………告白かなんかされたかと思ったぜ」

「あ…………あはは…………」


 水城は滝のように汗を流し、櫻井の言葉を聞き流した。

 正解を言い当てられているがために緊張は極限まで達し、水城はびっしょりと汗を流し、髪がうなじに張り付いた。   



 櫻井は、うなじや肌に張り付く水城の髪を見ながら、二人で帰った。




 その後、先程の雰囲気が戻る訳でもなく、水城と櫻井は帰宅した。


「はぁ…………今日は頑張ったのになぁ…………」


 水城は家に帰り、櫻井の写真を見ながらも呟いていた。

 今日も自分の告白が成功しなかったことを残念に思いながら、櫻井の写真を穴が開く程に見つめていた。




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