第127話 日常はお好きですか? 2
「櫻井君って、人のことよく見てるよね」
「え、そ、そうか……?」
少し照れた表情で、櫻井は頭をかいた。
「うん、本当によく見てるよ」
「そうなのかなぁ……」
櫻井は遠くに目をやりながら、空を見た。
「……櫻井君、やっぱり優しいね」
「ま、水城みたいに困ってる人がいたら放っとけねぇだろ」
にかっ、と櫻井は水城に笑いかけた。水城は目をうるませ、愛しいものを見るような目で櫻井を見ると、頬を緩ませた。
「あはははは、櫻井君、それ誰にでも出来るようなことじゃないんだよ?」
「え、そ、そうか? そんなことねぇだろ」
心底不思議そうな顔で櫻井は水城に視線をやる。
「そんなに優しいから、櫻井君はモテるのかな……?」
水城はそっと足を寄せ、足に顔をうずくめるようにして、はかなげに言った。横目で櫻井を見る。
「え、お、俺がモテてる!?」
水城の言葉を聞いた櫻井は上体を仰け反らせ、素っ頓狂な声を出した。
「も、モテてるよ櫻井君は!」
「俺がモテてるわけねぇだろ! 俺なんか全然モテねぇよ!」
櫻井は顔をぶんぶんと振り、否定する。
「櫻井君はモテてるもん……!」
「モテてねぇって!」
水城は頬を膨らませ、いじいじと土を指でいじる。
「少なくても、一人は櫻井君を好きな人知ってるんだから……」
「え、えぇ!? 嘘だろ!?」
水城は艶っぽい顔で、頬を赤らめ櫻井を見る。
「櫻井君みたいに優しい人そんなにいないんだから」
「そう……なのかぁ」
水城と櫻井は互いに視線を交錯させる。
「だ、誰なんだよ俺を好きな一人って…………」
「……」
どくどくと、互いの心音が聞こえそうなほどに距離を詰める。緊張した面持ちで、仄暗い場所で顔を近づける。
「そ」
水城は口を開き、
「それは言えません!」
「え、えぇ!?」
手でバツを作った。
「櫻井君を好きな人はいるけど言えません!」
「な、なんだよ!」
水城は嬉しそうな顔でえへへ、と笑った。
「じゃあ私もうそろそろ行くね」
「え、水城。何か悩みがあったんじゃなかったのか?」
立ち上がった水城を心配そうな表情で見る。
「うんう、もうなくなっちゃった」
そう言うと水城は翻し、歩いて行った。
「な、なくなったのかよ……」
一人取り残された櫻井はその場で小さく呟いた。
放課後――
「聡助、今日一緒に買い物行こうよー!」
「突然なんだよ、由紀」
放送部もそこそこに、櫻井は新井と二人で帰宅していた。
「ほら、私買い物したいからついてくること決定!」
「勝手に決めるなよ!」
笑い顔で櫻井は新井を叱る。
「それにぃ~今日は私と聡助だけだしぃ~」
すりすりと新井は櫻井に身体を押し付ける。
「お、おま、だから人が見てる前で止めろって由紀!」
「じゃあ人が見てる前じゃなかったらいいわけじゃん?」
「そんなことは言ってねぇだろ!」
櫻井は新井をそっと横にどける。
「そんなこと言っても聡助は私を乱暴に扱ったりはしないよね……」
ぼそ、と新井は俯きながら、言った。
「ん、何か言ったか?」
「別になんでもないし! 早く買い物行こうよ!」
「お前、引っ張るなって」
櫻井は呆れた表情で笑いながら、新井に引っ張られるがままに買い物について行った。
「わぁ~、見てこれ聡助聡助!」
近隣の大型ショッピングモールに着いた新井と櫻井は、大型の洋服店に入った。新井が服を見回しながら、きらきらとして目で感想を呟く。
新井は数点の服を持って、櫻井を見た。
「聡助、私今から試着するけどいい?」
「おぉ、行って来いよ」
「私が試着してる間にどっか行っちゃったりしない?」
「しないしない、するわけねぇだろ」
あはは、と笑いながら櫻井は新井の頭を撫でる。
「じゃあ試着してくるね!」
「おぉ、行ってこい」
新井は試着室へと向かった。
「これどう、聡助!?」
「おぉ、可愛いな」
フリルのついた短いワンピースを着た新井はくるくるとその場で回った。
「えへへ、可愛いんだ」
櫻井に貰った『可愛い』という言葉に反応し、顔がにやける。
「なんつーか、普段のお前と違ってちょっと女っぽいし可愛い……よな」
「えぇ~、何~?」
櫻井の言葉を耳ざとく聞きつけた新井は櫻井に近寄った。
「えぇ~聡助、もう一回言ってぇ?」
「いや、だから女らしいな、って……」
「そ・の・あ・と」
「だから可愛いって……」
ぼそ、と櫻井は顔をそむけて呟いた。
「あぁ~、可愛いんだぁ~、聡助も私のこと可愛いと思ってるんだ~、へぇ~、やらし~!」
「何がやらしいんだよ!」
櫻井を茶化した新井はにひひひ、と笑う。
「じゃあ他のも試着してくるね」
「おぉ、行ってこい」
新井はまた、試着室へと向かった。
それからも新井は様々な服を試着しては櫻井に見せつけ、可愛いと言われるたびに頬を緩めた。
新井と櫻井は二人で和気あいあいと時間を過ごしていた。




