閑話 ミステリーはお好きですか? 6
「うわ~、相変わらずぐっちゃぐちゃだな~」
「そうだな」
赤石と須田は三千路のアパートの駐輪場に着いた。
体を横にして、すり抜けるようにして二人は中へ中へと入っていく。
「この前全部奥に入ってたの何だったんだろうなぁ、一体」
「いや、本当に何だったのか気になるな。何者かの手が加えられたとしか考えられないんだけどな……」
考えるが、答えは出ない。
「まあすうの部屋に入ってから情報を整理してみるか」
「そうするしかないかぁ~」
赤石と須田は三千路の家に辿り着き、招き入れられた。
防寒着を脱ぎ、適当に部屋に置く。
「すう、この一週間で物音は?」
早速、赤石が三千路に質問をした。
「いや、特にはなかったわ。というか、大体週に一、二回くらいの頻度かも……」
「なるほど」
赤石はメモ帳に新たに情報を書き込む。
「よし全員集まれ」
メモ帳を広げ、三千路と須田が赤石に集まる。
赤石は今までに得られた情報と私見を書き込んだメモ帳に指を差した。
「統、すう、何か意見ないか」
「……いや、さっぱり」
「私もさっぱりだわ」
「役立たずどもめ」
ふう、と一息つき、三千路の部屋にストックされているミカンを取った。
「あ、悠私にも取って」
「ん」
「あ、俺にも」
「ん」
赤石は三個のミカンを取り、須田と三千路に渡した。
「……」
もう一度手元のミカンを眺めてみた。
「はっ……もしかして犯人はこのミカンを使って……そっ、そうか! 分かったぞ! そういうことか!」
「いや、何も分かってないわ」
赤石の心中を表すかのようにして代弁した須田に苦笑する。一瞬の考えごとで足を止めただけだった。
「そいや俺と悠さっき公園行ったんだけどさぁ」
須田が三千路に向き直り、話し始めた。
「なんかよく分からねぇ民族楽器……? みたいなの吹いてる人がいてさぁ」
「へえ、そうなんだ」
三千路はミカンを食べながら話を聞く。
「すげぇ気まずかった」
「何その話」
え~、と半眼で見る。
「いや、なんか最近公園で遊ぶ子供たち減ってるしさ、もはや個人で利用するレベルじゃね? だからさ、逆に誰かいるとちょっと気まずくてまたあとにしよう、みたいな思考になってくるわけよ」
「まあ子供が公園で遊んでるって光景もあんまり見なくなったわね~」
須田は続けて、話す。
「それに公園で演奏してる人の近くで遊ぶとなんか邪魔になりそうじゃね?」
「もうちょっと公園が大きかったらあんまり気にしなくて良かったかもね」
「そうだな~。やっぱ楽器とかって家で弾くとお隣さんとかに怒られるし、公園とか公共の場所でやるしかねえのかなぁ~」
「まあ騒音問題は結構色んな所で問題になってるわよね~」
三千路は特に何の感慨もなく、口にミカンを放り込む。
「騒音問題……?」
赤石が神妙な面持ちで三千路と須田を見た。
「お、ついに出たのか名探偵悠人!? 推察能力のない一般人の何気ない言葉で確信に至る道筋を見つけたパターンのやつか!?」
「ちょ、うるさい統静かにして」
三千路が須田をぽかりと叩く。
赤石は、頭の中の情報を整理していく。
点と点だった情報は線で繋がり――
「…………駄目だ」
だが、答えは導かれなかった。
「え~、なんだよ」
「ぶーぶー!」
須田と三千路が赤石に抗議する。
「いや、公園とかで楽器演奏してる人って結構有意なくらいにいるだろ? でも昼に演奏すると人目があるし憚られるからな。だから夜に演奏してんのかなって思ったんだけど」
「? 何か破綻してるの?」
三千路が小首をかしげる。
「破綻しまくりだろ。騒音問題気にする奴が夜に楽器演奏しないだろ。余計騒音問題出てくるわ。それにドンドン、って音鳴ってたのも短い時間だろ。あんな短い時間で演奏出来たことになるか? 練習のうちに入らないだろうし」
「なるほど……」
「あの短時間でそれほどまでの情報を……こいつ、出来る!」
「いや、普通だろ」
須田の悪ノリを一蹴する。
「いやぁ~、結構近いとこまで行ったかと思ったんだけどなぁ~……」
赤石は頭をかく。
「やっぱりまた現場検証しにいくべ?」
「そうだな、行くしかないかもなぁ……」
立ち上がる須田につられて、赤石も立ち上がった。
「あ、ちょっと待って二人とも。今日両親いないからちょっと鍵とか確認したい」
「すうにしては珍しくまともな」
「いや、私いっつもまともだから」
赤石をぺしと叩き、階下へと降りた。
「こたつは消したし鍵もかかってないし、火元も水もおっけー! よし、行くか二人とも」
三千路は指さしで確認すると、踵を返したが――
「いや、何してんだよすう。火元オッケーじゃないだろ。IHの火力弱めろよ」
「火力弱める……? 何言ってんの? 火ついてないんだし、火力は関係なくない? 悠は神経質だな~」
理解できない、といった顔で赤石に尋ねる。
「いや、神経質とかじゃなくて。火がついてるとかついてないとか関係ないだろ。もし何か故障して勝手に火ついても火力が弱かったら最悪ちょっとあったかくなるだけかもしれねぇだろ? 対策が一重しかないって怖くないか? それにお前火だ…………ぞ……」
途端に、赤石はどもり出した。
「え……どしたの、悠?」
「……」
赤石の顔をのぞき込む三千路を手で押しとどめる。
「火力……対策……一重……神経質……」
「ついに出た、素人の意見で解決に導かれるパターン!」
須田が興奮しながら、小声で三千路に耳打ちした。
「……ふふ」
赤石が、小さく笑った。
「あははははははははははははははははは! そうか、そういうことか。なるほどな。小難しく考えすぎたな」
「「出たーーーーーーーーーーーーーーーー!」」
三千路と須田は声を合わせ、叫んだ。
「おい統、すう、多分解決したぞ。もう現場検証は必要ない。俺と統で今日犯人を見つけてやるよ」
「カッコいいーーーーーーーー!」
「ひゅーーーーーー!」
三千路と須田が拍手し、口笛を鳴らす。
「すう、今回の犯人はストーカーじゃないぞ。今日の夜、俺と統で解決してやるよ」
赤石は二人に言うと、再び三千路の部屋に戻った。




