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ラブコメの主人公はお好きですか?  作者: 利苗 誓
第3章 文化祭 後編
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閑話 ミステリーはお好きですか? 3



「あれ、ここ……」


 赤石は前方のゴミ捨て場に気付いた。


「ゴミ回収の日って明日だよな。なんでもうゴミが捨ててあるんだ……?」


 ゴミ捨て場には既に三つのゴミ袋が置いてあった。


「ああ、明日の朝だったら忘れちゃいそうだし、朝起きれないかもしれないからって理由で前日のうちに出しとく人もいるってわけ」

「なるほど……」


 それにしても昼下がりに出すのはあまりにも早すぎないか、と怪訝に思う。


「なんだか駐輪場もゴミ捨て場も、適当なアパートだなあ」

「まあまあ、そこがこのアパートの可愛い所よ」

「アパートに可愛さを求めるな」


 赤石はゴミ捨て場の横を通り過ぎる。食料品やティッシュ、ビニール袋など、一瞥した限りで怪しい物は見つからなかったが――


「なんかさっきのゴミ袋、凄いインパクトの強いキャラが描かれた包み紙みたいなのあったな」

「俺も見た」

「ちょっと人のゴミ袋見ちゃダメだって二人とも!」


 指でバツを作り、赤石たちに向ける。


「いや、故意に見る気はなかったんだ。たまたま目に入って来た」

「いやあ、なんか悪いことした気分だな」

「統、そう思う必要はない。視界に入るのは仕方がないことだ。そして何より今俺たちが何か不自然な物がないか捜査させられてるんだから、そっちの方が仕方がない」

「うっ……す、すみません」


 赤石たちに観察を余儀なくさせている三千路はしゅんとする。


「あ、悠、自販機あるぜ自販機! ここの自販機の品揃えはいかほどか!」

「はしゃぐなはしゃぐな」


 近くに自動販売機を見つけた須田ははしゃいで近寄った。


「缶コーヒーにお茶、水、ジュースにお、おお栄養ドリンクまで! いやあ、ここの自販機の品揃えはいいですなあ」

「おお、本当だな」


 後からやって来た赤石も品揃えに感心する。


「え、そうなの? 私別にあんまり気にしないから知らなかった」

「全く……これだからすうは」

「え、そんなに失望される所なの?」


 はあ、と嘆息する須田に苦笑しながら、きょとんとした顔を見せる。


「あれ……でも」


 赤石はボタンを指でなぞりながら、あるボタンの前で止まった。


「このジュースだけ売り切れだな」


 『アロエの果肉入り』と書かれているジュースは、売り切れだった。


「ああ、なんかそのジュースよく売り切れてるんだよね~。やっぱり美味しいからかな?」

「確かにこういうアロエの果肉入りって感じのジュースあんまり店で売ってないし見かけたら買っちゃうよな~」


 須田は残念、と言いながらジュースを見る。


「俺も好きだな、こういうジュースは。ジュースに入ってる異物感が良い」

「いや、ちょっと異物感って止めてよ、異物感って。何かヤバそうじゃん」


 須田と同じく残念がる赤石の発言を三千路は引いた顔で見る。

 暫く雑談した三人はまた捜査を再開するため場所を移したが、自動販売機から少し離れた刹那、


 ガシャン。


 自動販売機から音がした。


 赤石たちは咄嗟に振り返る。

 業者の男が自動販売機を開け、飲み物を補充していた。


「随分と間の良い……」

「いや、俺らが去るまで待っててくれたんじゃないのか?」


 須田の感想に、赤石は自身の推察を述べる。


「……」


 飲料水を補充する男の右手の薬指では指輪が光っており、左手の薬指には指輪をしていたであろう痕が付いていた。

 

 赤石は業者の男を見ると、


「モテるみたいだな」


 突然、褒めた。


「え、悠が人を褒めるって珍し……明日雪でも降るんじゃない」

「なんで突然?」


 疑問に首を傾げる須田の頭を業者の方向に向けた。


「左手の薬指に指輪を付けてた痕があるのに今は右手にしてるからな」

「な、なるほど……」


 赤石の説明に、どもりながら理解をする。


「容疑者三だな」

「いや、なんでよ!」


 メモ帳に書き留めた赤石に三千路が突っ込みを入れる。


「冗談だ、あんなことで容疑者を増やしてたらキリがない」

「全く……悠の冗談にも困ったものよ」

「全くだ……」

 

 はあ、と二人はため息を吐いた。


「ところですう、ここら辺の立地状況みたいなのって教えてくれないか?」

「あ、じゃあ近くに公園あるから行こ」

「お、俺も行きてえ!」

「いや、仲間外れにしないだろ」


 須田たちは公園に足を向け、赤石と三千路は備え付けのベンチに座った。

 須田はブランコに乗り、遊んでいた。


「あいつ元気だな……」

「悠は根暗で引きこもりがちだから筋肉付けた方が良いよ、きっと」


 三千路は赤石の腕を軽くつまむ。


「いや、あいつが異常だろ。水泳部で体焼けてるのもあるのかもしれねぇけど、ちょっと体出来すぎだろ」

「まあ、そうかもねぇ~」


 ぼんやりと二人は須田を見る。ブランコに乗りながら、須田が靴を飛ばした。


「おい見たか二人とも! くっとば! くっとば! 靴横向きに着地した! やっぱり明日雪だ!」

「あいつ人生楽しそうだな」

「同感よ」


 片足で靴を取りに行く須田を眺めながら、呟いた。


「ところですう、ここらへんって何があるんだ」

「ああ、うん。えっとね、ここから見て右に暫く行ったら大きいスーパーがあって、その近くに何個かコンビニがあるよ。そこから先にまた一個大きいスーパーがあって、本屋があって、薬局とまたコンビニがあるかな」

「なるほどなるほど」


 赤石は地図をメモ帳に書く。


「で、ここから見てまっすぐ前方向にはガソリンスタンドがあって、自転車屋とあとホームセンターがある」

「おっけー」

「で、左方向にはでかい電気屋と駄菓子屋と大学があって、あと居酒屋周辺だったかなぁ……」

「はいはい」

「で、私らが来た方向は住宅地。大層家が並んでるそうな」

「昔話みたいに言うな」


 再度ブランコに乗りながら靴を飛ばし、また横向きで着地したぞ! と喜ぶ須田と適当に会話しながら、赤石は簡易の地図を完成させていった。


「…………なるほどな」


 メモ帳を見ると、そう呟いた。


「え、何か分かった感じ?」

「まあな」

「うそ、さっすが名探偵悠人!」

「まあまあ」


 手で三千路の盛り上がりを押さえる。


「で、何が分かった訳?」

「ここらの立地」

「……」


 無言で、三千路は赤石を殴った。


「殴ることはないだろ」

「なんかイラっときた」

「こわ」


 赤石は三千路から距離を取る。


「あ、そういえば言い忘れてたけど」

「何」

 

 赤石は再びメモ帳を取る姿勢をとった。


「さっき言ったでっかいスーパー二四時間営業だから私らが大人になったら夜にスーパー行ってお酒とか飲めるよ」

「いや、どうでもいいわ」


 赤石はメモを取らず、はあ、とため息をついた。


「それに俺ら大学進学したらもうここで会わないんじゃね?」

「………………はっ!」


 三千路は目を丸くして、赤石を凝視する。


「ヤバい」

「いや、何がだよ」

「ねぇ悠お願い私を大学に連れてってーー!」

「私を甲子園に連れてって、みたいな言い方するな。出来るか」


 赤石にしがみつく三千路の頭を押さえる。


「勉強しろ勉強を」

「無理! 私勉強できないし、統とか悠みたいに頭良くないもん!」

「俺らもそこまで頭良くねえよ。統は高校推薦だし、俺も推薦だし」

「それでも悠は高校で成績いいじゃん。つれてってよ大学!」

「いや、自分の力しか頼りにならねぇって!」


 赤石は三千路を引きはがす。


「そだ、近くに公立大学あるじゃん? あそこ皆で行こ?」

「俺はあそこに行くつもりだけどお前の学力じゃ多分無理だな」

「そんな……!」


 三千路は再び愕然とする。赤石ははあ、と深くため息をつくと、嫌々ながらも口を開いた。


「じゃあこれから集まる時は勉強するか? 三人で死ぬ気で勉強すれば同じ大学に受かるかもな。受かればまた近くで会えるし」

「……私これから本気で勉強するわ」

「頑張れ」


 三千路は決意を固め、大学進学の契機を掴んだ。




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