表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ラブコメの主人公はお好きですか?  作者: 利苗 誓
第1章 ラブコメ ヒロイン活動編
13/585

第12話 ラブコメはお好きですか? 2



「危ない危ない……忘れ物したわ」


 生徒会長立候補演説の為に体育館へと向かっていた神奈は、職員室へと戻りながら独り言ちていた。

 ガチャガチャと職員室のカギを開け、神奈は職員室へと入る。


「失礼しますよ~、っと」


 小声で呟き、神奈は職員室へと足を踏み入れる。

 電気がついていなかったことが原因か、職員室の入り口で神奈はバケツを蹴り飛ばし、ガラゴロ、と職員室内に大きな音を響かせた。


「痛ってぇ~……誰だよこんなところにバケツ置いた奴は!」


 怨嗟の声を出しながら、神奈はバケツを元あった場所に置き直した。


「まぁいいわ……。さて、わっすれっもの~、わっすれっもの~」


 神奈は一人楽し気にステップを踏み、自分の机へと歩を進めた。










「何考えてるのよ聡助!」

「悪い……本当悪い…………」


 神奈が勢いよくバケツを蹴り飛ばした音に驚いた櫻井と八谷は、近くにあったロッカールームの中に、二人身を隠していた。


 櫻井と八谷は身を縮め、ロッカーのドアが開かないよう、密着する。


「ちょっとどこ触ってんのよ聡助こんの馬鹿!」

「し…………仕方ねぇだろこんな狭いんだから!」


 八谷と櫻井とは小声で文句を言い合う。櫻井は収まりの良い場所を探すため、もぞもぞと手を動かす。


「ちょっ…………ひゃっ! 止めなさいよ、動かさないでよ!」

「静かにしろよ! 誰か来てるだろ!」


 お互い息のかかるほどの距離にあり、櫻井と八谷の両者は紅く顔を染め上げる。


「あぁ、あったあった」


 八谷と櫻井は、ロッカールームの中から、神奈の声と姿を捉えた。


「美穂姉…………か……良かった。美穂姉なら見つかっても大丈夫そうだな」

「大丈夫な訳ないでしょ! 今の状況考えなさいよ!」


 櫻井の呑気な態度に、八谷は反駁する。

 

 ロッカールームが神奈の近くにあったことが原因か、神奈はふと動きを止めた。


「嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘⁉」


 神奈に気付かれたと思った八谷は恐怖と羞恥とで頭をパンクさせ、小声で動揺する。


「ちょっ……恭子、声出すなって!」


 櫻井は手をもぞもぞと動かし、八谷の口に手をやった。


「んっ…………んんん!」


 恐怖と羞恥に加え櫻井の手が自身の口元に当てられたことで、更に八谷は動揺し、目をくるくると回す。

 




「何かロッカールームの中から音が聞こえたような気が…………」


 動きを止めていた神奈は、櫻井と八谷が入っているロッカールームに視線をやった。


 ロッカールームに歩を進める。


「もしかして誰かいたり……しないよな?」


 神奈はロッカールームのドアに手をやり、


「…………!」


 ドアを開いた。


「…………んん~、おっかしいなぁ。何か音が聞こえたような気がしたんだけどなぁ」


 不思議に思いながら、神奈はロッカールームのドアを閉めた。

 櫻井と八谷が入っている隣のロッカールームを。


「じゃあこっちか?」


 神奈は櫻井と八谷が入っているロッカールームのドアに手をやる。


「…………!」

「……!」


 神奈が手に力を入れロッカールームのドアを開けたとき、


 プルルルルルルルルルル。

 プルルルルルルルルル。


 職員室の電話が鳴った。


「あぁ、電話だ電話だ」


 神奈はドアを開けたロッカールームの中を見る前に、音のなった方に目をやり、電話を取った。

 

 神奈が気付く前に、櫻井はロッカールームのドアを中からそっと閉めた。


 電話が終わった神奈はガチャリ、と受話器を置き、置時計に目をやった。


「あぁヤベぇ! もう生徒会長立候補の演説始まってんじゃねぇか!」


 遅刻に気付いた神奈は急いでそのまま出口へ駆けだし、職員室の鍵を閉めた。



 数秒、数十秒、数分、静謐な時間が経った。



「ぷはああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」

「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ、はぁ」


 顔を真っ赤にした櫻井と八谷がロッカールームの中から出て、肩で息をした。

 先ほどまで櫻井と密着していたからか、八谷は顔だけでなく、全身真っ赤に茹で上がったかのように湯気を出し、櫻井もまた、顔を赤く染めていた。

 職員室の中は暖房が効いていたことと、ロッカールームという狭い空間で密着していたこともあってか、二人とも上気しきっていた。


「あ……危なかったわね、聡助…………」

「あ…………あぁ、本当危なかった。ドア開けられたときはどうなるかと思ったぜ…………はぁ……はぁ……」

 

 櫻井と八谷はお互いを見やる。

 そして、


「ぷっ…………」

「あはははははははは!」


 二人して、笑いあった。

 極限の緊張状態を乗り切ったことと、ロッカールームで密着していた状況を乗り越えたからか、自然と二人に笑いが生じた。


「面白かったなぁ…………!」

「面白くないわよ全く…………」


 八谷と櫻井は共に涙を拭う。


「よし…………そろそろ行くか、恭子。そろそろ生徒会長立候補演説始まってるだろ」

「そ……そうね」


 櫻井は八谷に手を出し、八谷は少し俯き、櫻井の手を取る。


 疲れ切った二人は距離を縮め、体育館へと歩いて行った。




評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ