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ラブコメの主人公はお好きですか?  作者: 利苗 誓
第3章 文化祭 後編
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第118話 文化祭はお好きですか? 12



 須田を連れた赤石たちはその後も屋台やお化け屋敷、映画鑑賞などを通し、文化祭を満喫していた。

 須田はちら、と腕時計を見た。


「あぁ~、もうそろそろまた俺の出番だから俺帰るわ~」

「そういえば俺もだな」


 赤石も同じく時計を見ると、須田と目を合わせた。


「じゃ、あと一個どっか行こ! あと一個!」


 三千路は両手にクレープを持ち、文化祭で獲得した様々な粗品を身に着けながら言った。


「こいつ今この文化祭に来てる誰よりも満喫してるだろうな」

「いやあ、清々しい」


 赤石と須田は苦笑しながら、文化祭のパンフレットを出した。


「さ、どーこーにーいーこーうーかーなー」


 赤石の出したパンフレットの上に、三千路が指を這わせる。


 キーンコーンカーンコーン。


 どこに行くべきか三千路が悩み抜いている最中、放送を知らせるベルが鳴った。


「え~、放送部からのお知らせです。放送部からのお知らせです」


 校内に、アナウンスが響いた。


「……」


 アナウンスを行っている人物は、櫻井だった。

 放送部のわりに全く仕事をしている所を見たことがないな、と思ったが、こういう形で知ることになったか、と嘆息する。


「え~、一四時から中庭で吹奏楽部のパフォーマンスが行われます。続いて、一五時からはチア部によるパフォーマンスが行われ――」


 その時、


「聡助好きーーー!」

「ちょ、止め、止めろって由紀! 今放送中だぞ!」


 新井の声が、割って入った。新井と櫻井のやり取りが、全校放送という形で流される。


「ちょ、ちょっと駄目だよ由紀ちゃん! 本当に駄目だって、放送中なんだから……!」

「み、水城、なんとかしてくれ!」

「何してるのよ新井さん!」

「だ、だめだよ皆あぁぁぁぁ!」


 水城が、八谷が、葉月が、櫻井の取り巻きという取り巻きが櫻井と新井を止めに入る。が、放送のスイッチがついたままであり、その痴態は余すことなく校内にいる全ての人間に伝えられる。


「あ、櫻井君そんなとこ触っちゃらめ……!」


 んっ、と葉月の官能的な声が漏れる。


「ちょ、ちょっと冬華ちゃんも櫻井君も何してるの!」

「ち、違うって! 新井が押してくるから見えなくて……」

「ちょっと止めなさいよ皆!」


 わあわあきゃあきゃあと櫻井たちのハーレムは騒ぐ。


「あ、ちょ、聡助私のスカート引っ張ってるって!」

「え、ど、どれだよ!」

「あ、だめ、駄目、脱げるって!」

「聡助好きーーーーー!」

「ちょっと由紀、早くどけって!」

「や、止め、スカートが……!」


 八谷が焦った声で矢継ぎ早に話す。


「ちょ、ちょっと、スイッチ切れてない!」


 水城が一喝し、


「す、すいません! 一四時から吹奏楽の演奏が中庭で開催されます! すいません!」


 そう言うと、放送は途切れた。


「……」

「……」

「……」


 赤石たちの間に沈黙が降りる。


「ねえ悠、統……」


 三千路が口を開いた。


「この高校、ヤバくない?」

「同感だよ」

「あっはっはっはっは」


 三千路は顔をしかめ、赤石たちに振り向く。須田は大笑いし、赤石は苦笑した。


「いやあ、櫻井か? 放送中にあんなことするなんてちょっと信じられねぇなぁ~」

「……そうだな」


 須田の言葉に、どもりながら返答する。須田と櫻井は今までまともに会話をしたことがない。須田は一体櫻井に対してどういう感情を抱いているのか。

 少し、心配になった。


「悠、この高校いんこーこーこーだね」

「いや、あれはたまたまだ、たまたま。あんなことばっかり起きたりしないぞ」

「あ、あれ、なんか私のスカート破れてる……!?」

「スカートなんて履いてねぇだろうが!」


 三千路に笑いかけながら、赤石は考えていた。


 どうして櫻井はこんなことをするのか、と。


 新井が引き起こした事件であり、もしかすると櫻井には何の非もないのかもしれない。だが、放送の件を除いたとしても、櫻井は自分がモテているという事実を不自然なほどに周囲に喧伝している。

 一体何の為にそんなことをしているのか。


 もしかすると、自分がモテているということを喧伝することが、ハーレムを築く要因になっているのか。或いは、モテているという事実を余人に知らしめたいだけか、その両方か。


「じゃあ一四時から中庭でやるらしいし、それ行って解散しよっか?」

「了解~」


 三千路と須田が中庭に歩きだす。赤石も追従する。


 赤石は水城の能力だけは高く評価している。校内一の美人であり、尚かつ性格も温和で他者と壁を作らない。その能力だけは目を見張るものがある。

 

 だが、本当にそれは水城の能力なのだろうか。


 校内一の美人だという事実が、水城の魅力を底上げしているんじゃないのだろうか。


 手の届かないような、雲の上の美女というラベル付けが水城の評価につながっているんじゃないだろうか。


 自分には手の届かない美少女だ、誰からも愛されている人当たりのいい人間だ。


 そう思い込むことによって、水城に対する評価が上がっているのだとすれば、辻褄が合う。櫻井は自身がモテる男だということを他者に知らしめることで、自分には手の届かないような魅力的な男であると思わせ、誰に手を出すこともなくハーレムを築き上げているのではないか。


「…………」


 分からない。

 赤石は櫻井のことは何も分からない。

 櫻井の近くにいる人間なら何か櫻井のことを良く知っているのだろうか。


「霧島……?」


 ふと、ある男の名前が出て来た。

 櫻井の唯一にして最大の親友、霧島尚斗。

 

 櫻井の近くにいるのにも関わらず全くハーレムを築かない男。


「……」


 霧島なら何かを知っているんだろうか。


 赤石は櫻井の示威行為にも似た放送部でのやりとりをうんざりと思いながらも、櫻井がハーレムを築くことが出来る要因を考えていた。




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