第102話 花送りはお好きですか? 4
赤石と三矢が高梨に頼まれた課題を進め、暫くの時間が経過した。
「ただいま~! ごめん、待たせちゃった?」
ガラララ、と扉を開ける音がし、高梨が入って来た。
「あ、あれ? 洋一もいるじゃん。なんで洋一も?」
「おいおいお前、夏木だけに課題押し付けていくなよ~。夏木が可哀想だろ、なあ、夏木?」
「そ、そうだぞ緑! 洋一が来てくれてよかったよ!」
赤石と三矢は立ち上がり、高梨の下へと歩む。
「ごっめーん! じゃあこれ先生に出したら終わりだから一緒に帰ろ?」
「おう、そうだな!」
三矢は二つ返事をする。
(え……それだけ? それだけのために待ってって言ったのか?)
赤石は高梨に疑問を呈する。
(いや……嬉しいことか、これは。一緒に帰りたいがために俺に待たせたのか……。そうか、それは嬉しいなぁ……)
赤石は高梨と三矢の後ろにつきながら、共に帰った。
翌日、赤石と三矢、高梨は放課後の教室で談笑していた。
「ねぇ洋一、夏木、お手紙交換しない?」
「手紙の交換?」
赤石と三矢は不審な顔で高梨を見る。
「そ! 手紙の交換! 皆が皆に渡すの!」
「いやいや、面倒くさいよな、夏木」
三矢が赤石を見た。
「えぇー、やろうよやろうよー! 洋一、夏木、やろ!?」
「はぁ……ったく、仕方ねぇなぁ。やってやるか、夏木?」
「そうだなぁ」
赤石は夏木から手紙がもらえること、夏木から手紙が貰えることを心底嬉しく思った。
「じゃあ、今から書き始めよ!」
「今ここで書くのかよ! 意味ないだろ!」
「いいの! 形に残る事が大事なんだから!」
夏木は手紙を書き始め、赤石と三矢もまた手紙を書き始めた。
(何を書こうかな……今までの感謝とか書くのがやっぱり一番いいかな)
赤石はうきうきしながら、手紙を書いた。
三人は静かに手紙を書き続け、
「出来たぁ!」
一時間後、最後の高梨が書き終えたところで、三人は手紙を交換した。
「皆帰るまで見ちゃだめだからね! こんなところで見られたら皆絶対恥ずかしいでしょ?」
「そうだな、帰ってから見よう」
その日はそうして、三人で帰った。
赤石は自室で、高梨から貰った手紙を何度も何度も読み返していた。
高梨の手紙には、今までの赤石への感謝を届ける言葉が、隅々にあった。
(あぁ……)
赤石は机にうつぶす。
(嬉しい……)
赤石は何度も何度も、高梨から貰った手紙を読み返していた。
(嬉しい嬉しい嬉しい……)
何度も、何度も読み返し、喜んでいた。
『今度一緒に遊園地行かない?』
ある日、高梨から赤石に、『カオフ』で連絡が来た。
普段学校でいつ遊ぶかを三人で決めていたため、突然の連絡に、赤石は天にも昇る気持ちになった。
(やった……! 一緒に遊ぼうと誘われた!)
二人で遊ぼうと誘われたのだと、思った。三矢を除いた二人で遊ぼうと言われたんだと、そう思った。だが、実際デートの当日――
「もう~、遅いよ夏木~」
「い、いや、ごめんごめん、ちょっと手間取っちゃっ……え……」
そこには、洋一もいた。
「おい、おっせぇよ夏木お前! 全く……俺と緑がどれだけ待ったことか……」
「い、いやぁごめんごめん」
あはは、と苦笑しながら、赤石は二人の中に入った。
(まあ、二人きりで、なんて言ってなかったもんな)
そう自分に言い聞かせ、赤石は三人で楽しく遊んだ。
それからも、高梨は赤石を誘い続けた。
『夏木、今度は一緒にラ・トルシェ行かない?』
『夏木、アイス食べたい!』
『夏木、夏祭り行こうよ!』
『夏木、誕生日会しよ?』
『夏木、鍋パやろ!』
『夏木、今度はタコパしようよ!』
高梨からの連絡が来るたびに赤石は高揚し、舞い上がり、その日が来ることを楽しみに待った。
だが、実際赤石と高梨が二人きりでどこかに行くことはなかった。
それでも。
それでも、赤石は嬉しかった。高梨と一緒にいれる時間が、高梨と遊べることが、高梨が関わっていることが、心底嬉しかった。
赤石たちはそれからも、何度も三人で遊びに行った。
海に行き、プールに行き、バーベキューをし、映画を見に行き、忘年会をし、新年会をし、バレンタインは緑にチョコレートを貰い、満ち足りた生活を送った。
『緑、今度スケートとか行かない?』
そんなある日のことだった。
赤石は珍しく、自分から高梨に遊びの打診をした。
(そういえば最近全然遊んでなかったな……)
突如として遊びの連絡が来なくなり、高梨と遊びたいと思った赤石が勇気を振り絞り、打診した。
だが、
『ごめん、夏木! ちょっと行けそうにないかも……』
帰って来たのは、そんな返事だった。
(あれ、おかしいな……今まで遊びの誘いを断られたことはないのに……何か予定を変えてでも遊んでたはずなのに……)
このとき、赤石の心中に、漠然とした靄がかかった。
何か良くないことが起こる前兆のような、霧の中を歩いているその先に、悪意を持った何かがいるかのような、そんな漠然とした思いになった。
(何か……何か嫌な予感がする……)
赤石は理由も分からないまま、焦燥した。
心臓が早鐘のように打ち、額から大量の脂汗がしたたり落ちる。
何か、何かが起きてる……。
赤石は次に学校であった時に訊こうと、心に決めた。




