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ラブコメの主人公はお好きですか?  作者: 利苗 誓
第3章 文化祭 後編
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第102話 花送りはお好きですか? 4




 赤石と三矢が高梨に頼まれた課題を進め、暫くの時間が経過した。


「ただいま~! ごめん、待たせちゃった?」


 ガラララ、と扉を開ける音がし、高梨が入って来た。


「あ、あれ? 洋一もいるじゃん。なんで洋一も?」

「おいおいお前、夏木だけに課題押し付けていくなよ~。夏木が可哀想だろ、なあ、夏木?」

「そ、そうだぞ緑! 洋一が来てくれてよかったよ!」


 赤石と三矢は立ち上がり、高梨の下へと歩む。


「ごっめーん! じゃあこれ先生に出したら終わりだから一緒に帰ろ?」

「おう、そうだな!」


 三矢は二つ返事をする。


(え……それだけ? それだけのために待ってって言ったのか?)


 赤石は高梨に疑問を呈する。


(いや……嬉しいことか、これは。一緒に帰りたいがために俺に待たせたのか……。そうか、それは嬉しいなぁ……)


 赤石は高梨と三矢の後ろにつきながら、共に帰った。








 翌日、赤石と三矢、高梨は放課後の教室で談笑していた。


「ねぇ洋一、夏木、お手紙交換しない?」

「手紙の交換?」

 

 赤石と三矢は不審な顔で高梨を見る。


「そ! 手紙の交換! 皆が皆に渡すの!」

「いやいや、面倒くさいよな、夏木」


 三矢が赤石を見た。


「えぇー、やろうよやろうよー! 洋一、夏木、やろ!?」

「はぁ……ったく、仕方ねぇなぁ。やってやるか、夏木?」

「そうだなぁ」


 赤石は夏木から手紙がもらえること、夏木から手紙が貰えることを心底嬉しく思った。


「じゃあ、今から書き始めよ!」

「今ここで書くのかよ! 意味ないだろ!」

「いいの! 形に残る事が大事なんだから!」


 夏木は手紙を書き始め、赤石と三矢もまた手紙を書き始めた。


(何を書こうかな……今までの感謝とか書くのがやっぱり一番いいかな)


 赤石はうきうきしながら、手紙を書いた。

 三人は静かに手紙を書き続け、


「出来たぁ!」


 一時間後、最後の高梨が書き終えたところで、三人は手紙を交換した。


「皆帰るまで見ちゃだめだからね! こんなところで見られたら皆絶対恥ずかしいでしょ?」

「そうだな、帰ってから見よう」


 その日はそうして、三人で帰った。


 赤石は自室で、高梨から貰った手紙を何度も何度も読み返していた。

 高梨の手紙には、今までの赤石への感謝を届ける言葉が、隅々にあった。


(あぁ……)


 赤石は机にうつぶす。


(嬉しい……)


 赤石は何度も何度も、高梨から貰った手紙を読み返していた。


(嬉しい嬉しい嬉しい……)


 何度も、何度も読み返し、喜んでいた。






『今度一緒に遊園地行かない?』


 ある日、高梨から赤石に、『カオフ』で連絡が来た。

 普段学校でいつ遊ぶかを三人で決めていたため、突然の連絡に、赤石は天にも昇る気持ちになった。


(やった……! 一緒に遊ぼうと誘われた!)


 二人で遊ぼうと誘われたのだと、思った。三矢を除いた二人で遊ぼうと言われたんだと、そう思った。だが、実際デートの当日――


「もう~、遅いよ夏木~」

「い、いや、ごめんごめん、ちょっと手間取っちゃっ……え……」


 そこには、洋一もいた。


「おい、おっせぇよ夏木お前! 全く……俺と緑がどれだけ待ったことか……」

「い、いやぁごめんごめん」


 あはは、と苦笑しながら、赤石は二人の中に入った。


(まあ、二人きりで、なんて言ってなかったもんな)


 そう自分に言い聞かせ、赤石は三人で楽しく遊んだ。


 それからも、高梨は赤石を誘い続けた。


『夏木、今度は一緒にラ・トルシェ行かない?』


『夏木、アイス食べたい!』


『夏木、夏祭り行こうよ!』


『夏木、誕生日会しよ?』


『夏木、鍋パやろ!』


『夏木、今度はタコパしようよ!』


 高梨からの連絡が来るたびに赤石は高揚し、舞い上がり、その日が来ることを楽しみに待った。

 だが、実際赤石と高梨が二人きりでどこかに行くことはなかった。


 それでも。

 それでも、赤石は嬉しかった。高梨と一緒にいれる時間が、高梨と遊べることが、高梨が関わっていることが、心底嬉しかった。

 赤石たちはそれからも、何度も三人で遊びに行った。


 海に行き、プールに行き、バーベキューをし、映画を見に行き、忘年会をし、新年会をし、バレンタインは緑にチョコレートを貰い、満ち足りた生活を送った。

   

   




『緑、今度スケートとか行かない?』


 そんなある日のことだった。

 赤石は珍しく、自分から高梨に遊びの打診をした。


(そういえば最近全然遊んでなかったな……)


 突如として遊びの連絡が来なくなり、高梨と遊びたいと思った赤石が勇気を振り絞り、打診した。


 だが、


『ごめん、夏木! ちょっと行けそうにないかも……』


 帰って来たのは、そんな返事だった。


(あれ、おかしいな……今まで遊びの誘いを断られたことはないのに……何か予定を変えてでも遊んでたはずなのに……)


 このとき、赤石の心中に、漠然とした靄がかかった。

 何か良くないことが起こる前兆のような、霧の中を歩いているその先に、悪意を持った何かがいるかのような、そんな漠然とした思いになった。


(何か……何か嫌な予感がする……)


 赤石は理由も分からないまま、焦燥した。

 心臓が早鐘のように打ち、額から大量の脂汗がしたたり落ちる。


 何か、何かが起きてる……。


 赤石は次に学校であった時に訊こうと、心に決めた。




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