第101話 花送りはお好きですか? 3
「わぁ~、出来たぁ~」
高梨は赤石の手ほどきもあり、シロツメクサの冠を作り終えた。
「見てみて夏木、どうかな?」
シロツメクサの冠を両手で持ちながら、上体を右に左に捩る。
「ま、まあいいんじゃないか」
(控えめにいっても超かわいい)
赤石は横目で高梨を見ながら、そう言った。
「へっへーん! 洋一、見てよこれ!」
高梨は上体を屈め、三矢に言った。
「そんなの俺は作れねぇわ」
「ふっふーん! 夏木に感謝してよね!」
「あ、あはは」
赤石は高梨の顔を見て、心底陶酔した。
「じゃあさ、じゃあさ、シロツメクサの指輪作らない?」
「シロツメクサの指輪ぁ?」
三矢が起き上がり、高梨の顔を見た。
「そそ、指輪指輪。冠を作るのは難しいけど、指輪くらいなら洋一でもなんとかなるんじゃない? ねぇ、夏木!」
「え、まあ、なんとかなるかもしれないな」
(別に洋一のためにそこまでしなくたっていいだろ……)
赤石はそんな心中の言葉をかき消すように、指輪作りに取り組みだした。
「緑、こんなんでどう?」
「あ、夏木ぃ! 良い良い! 最高だよ!」
高梨は赤石の手からシロツメクサの指輪を取り上げ、三矢に見せた。
「ねぇ、これでどう、洋一?」
「まぁ……これなら俺でも出来るかも」
「やったー! これで皆で出来るね!」
高梨はぴょんぴょんと小躍りしながら喜ぶ。
(可愛くて優しいな、緑は……)
赤石はぴょんぴょんと跳ねる高梨に見惚れた。
「じゃあ、皆で作りましょー!」
「「おー!」」
赤石と三矢のやる気のなさげな声を皮切りに、三人は指輪を作った。
「出来たーーーー!」
「俺も出来た」
三矢と高梨は指輪を作り、都合三つのシロツメクサの指輪が出来た。
「やった、やった! これ私たちでずっと持ってようよ?」
「いや、なんでだよ!」
三矢が高梨に返答する。
「ほらほら、二人とも指輪出して!」
「はいはい」
「もう~」
赤石と三矢は言われるがままに、出来上がった指輪を出した。
「これが私たちの友情の印、友情の指輪だーーー!」
高梨は赤石と三矢の手を取り、上に掲げ、自分の指輪も上に掲げた。
「天よ、聞きたまえ! 私たちの友情の証なのだ! 私たちの友情はこの指輪がつぶれ、なくなるまで永遠に続くであろう!」
「それ割と簡単に枯れたりするんじゃないか?」
「もう、洋一うるさい! 水差さないでよ!」
赤石と高梨、三矢はそれぞれシロツメクサの指輪を持った。
「じゃあ、これが私たちの友情の証ね? 皆それぞれ大切に持っておくよーに!」
「「はーい」」
赤石はシロツメクサの指輪と冠を持ち、その日はそこで帰った。
(ふふふ…………)
赤石は自室で、シロツメクサの指輪と冠を見ながら微笑んでいた。
「友情の証かぁ……」
実際に赤石の家に行き、撮影していた。
赤石は指輪と冠を天日干ししたのちに箱の中に入れ、大切にしまった。
(これがある限り、緑との絆は消えないんだな……)
赤石はふふふ、と何度も微笑みながら、自室で転がっていた。
「じゃあここの答えはなんだ~、蒼井緑」
「はぁ~い」
神奈が高梨を呼び、高梨が立ち上がった。クラスメイト全員を集めることが出来なかったので、ビデオに映る部分だけに人を配置した。
実際の英語の教師、神奈の登場で、ビデオを見ていた生徒たちが俄かにざわつき、笑う。
「え~っと……」
高梨がうろたえる。
(どうやら答えが分からなかったみたいだなぁ)
赤石は高梨の後方から、hadと紙に書き、丸めて高梨に投げた。
「……ん?」
高梨は自分に当たった紙を開き、
「答えはhadです!」
と、言った。
「こらー、緑。お前投げられた紙広げてんの丸見えだったぞ。夏木も緑を甘やかすな、こいつは甘やかされたらキリがない」
「あ、あはははは、バレてましたか」
高梨は頭に手をやり、ちろ、と舌を出した。
「可愛い子ぶっても駄目だからなぁ、緑」
「ちぇ~」
そこで笑いが起きる。
赤石と三矢、高梨の関係はクラスに知れ渡っていた。
そして高梨が着席した後、高梨もまた紙を赤石に放り投げた。赤石は紙を拾い、広げてみる。
『恥かいちゃったじゃん、馬鹿!』
赤石はふふ、と苦笑し、高梨を見た。
べー、と高梨は舌を出す。
(そういうじゃじゃ馬なところもあるよな、緑は)
赤石はくすくすと笑った。
「こらー、夏木。お前何くすくす笑ってる」
「あいてっ」
赤石の頭に、神奈の本が乗った。
「べ、別に笑ってませんから!」
「嘘つけ~」
そこでもクラスメイトのあははは、という笑いが起きた。
放課後、赤石は高梨に残っておいて、と言われ、教室で高梨を待っていた。
(一体何の用事なんだろう……)
告白か何かその類なのか、と赤石の顔は段々と熱を帯びていく。
「お待たせぇ~」
はぁはぁと肩で息をしながら、高梨が教室に入って来た。
「いやぁ、ごめんごめん。ちょっとまだ用事終わりそうにないかも。夏木、ちょっとこれやっててくれない?」
「え、これって……?」
高梨は春休みの課題を赤石の眼前に置いた。
「いやぁ、ちょっと春休みの課題終わってなくて、先生に呼び出されててさぁ……お願い夏木、ちょっとヒントだけでもいいから書いてくれない?」
お願いっ! と手を合わせて頼む高梨を、赤石は断れなかった。断れるはずがなかった。赤石は学年でもトップクラスの学力を持っており、春休みの課題も春休みに入ると早々に終わらしていた。
三人の中で唯一帰宅部であり、時間にはゆとりがあった。
「はぁ……仕方ないなぁ。じゃあ俺がやっとくよ」
「やったぁ! ありがとう夏木、大好きぃ!」
高梨はぴょんぴょんと跳ね、赤石の手を取った。
「じゃあ、先生からの呼び出し終わったら帰って来るねぇ~」
「お、おう。行ってらっしゃ~い」
教室を出る高梨を見送った。
「はぁ……」
赤石は両手で顔を覆い、息を漏らした。
(可愛い……)
高梨への想いが溢れて、止まらなかった。
(これを俺に託したってことは、洋一よりも俺の方が仲が良いからだよな……あぁ……嬉しい)
赤石は、はあ、と何度も息を漏らしながら、上を向く。
そして暫くして、ガラララと扉が開いた。高梨か、早かったな、と赤石が音のした方向に視線をやると、そこにいたのは三矢だった。
「あ……あれ、洋一、今日は一体何を……?」
「え……あ、あぁ、部活終わったからもしかしたら教室に誰かいたりすんのかなぁ、って。そしたらお前がいたってわけだ」
「あははは、なるほど」
「で、何してんだよ夏木ぃ」
三矢は赤石の前に座り、話しかけた。
(止めろよ、今ここに居座らないでくれよ。俺は緑と約束してんだよ)
そう言えるわけもなく、赤石は三矢と話す。
「あれ、お前春休みの宿題終わってなかったのか? え~、ちょっと意外」
「え……あの、これは……その、緑がやっとけってうるさくてさぁ」
「…………へえ」
赤石は苦笑いをし、三矢に話す。
「じゃあ俺も一緒にやってやるかぁ! どうせ緑も帰ってくんだろ?」
「え……あ、ああ、うん」
(なんでお前も残るんだよ、お前は帰れよ。俺は緑と二人でいたいんだよ)
そんなことを言えるはずもなく、赤石は三矢と共に高梨の課題を解き始めた。




