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ラブコメの主人公はお好きですか?  作者: 利苗 誓
第1章 ラブコメ ヒロイン活動編
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第10話 同盟はお好きですか?



「赤石、あんた協力しなさいよ」

「…………は?」


 学校に通学するや否や赤石は八谷に呼び出され、誰もいない吹き抜けの廊下へと呼び出された。


「私、聡助のことが好きなのよ」

「…………」


 八谷は唐突に、赤石に打ち明けた。

 赤石自体とうの昔にその事実を知っていたが、今八谷がその事実を赤石に打ち明ける真意は何なのか。赤石は胡乱げに八谷を見やる。


「あんた、前『櫻井の所帰れよ』的な事言ってたわよね。あんた、私が聡助の事好きだって知ってるんでしょ?」


 赤石の真似をして、低い声で訥々と語る。

 以前、八谷に嫌気がさして櫻井との関係性を揶揄したことが、今になって仇となって返って来た、と赤石は苦い顔をする。

 思い返してみれば、櫻井が自転車のチェーンを直している際にも、八谷は櫻井への好意を一切隠すことなく自分に打ち明けていたな、と遅ればせながら気付いた。

 どうしてそんなことを言うんだろう、とすら思わなかった自分を少し情けなく思った。


「だから、あんたに私と聡助の恋が上手くいくように手伝って欲しいのよ」

「はぁ…………」


 今更ながら、ラブコメの主人公に巻き込まれそうになっている自分の過ちに、ほとほと呆れる。


 櫻井にまとわりつく他の取り巻きが櫻井に好意を寄せているということを知っての八谷の行動か、はたまた何も知らずに行動しているのか。

 他の女を蹴落とすためか、ただ自分の恋を成就させるためか。


 赤石は、八谷の本心が何なのか少し気になった。


 だが、ここで協力の一途を辿ってしまえば、自分はラブコメの主人公へ好意を寄せる女の、ただの都合のいい人形となってしまう、と懸念した赤石は、


「嫌だ。他の奴に頼め」


 一蹴した。


「なんでよ、ちょっと赤石待ちなさいよ!」


 八谷の返事すら聞かずに赤石は踵を返し、教室へと戻った。






「赤石、恭子と何話してたんだ?」


 教室へ帰って来るなり、八谷と二人でどこかへ行く様子を見ていた櫻井が実態調査を行うため、例によって話しかけてきた。

 櫻井が自分に話しかけてくる時は、決まって女絡みの時だ、と内心櫻井を毒づく。

 だが、口にも表情にも出さない。


 ここで、お前と八谷との恋が上手くいくよう取り計らえと言われた、と言い、全てを台無しにしても良かったが、それは余りにもリスクがありすぎる。

 

 他の取り巻き四人に、先手を越された、と恨まれる可能性、

 校内随一の美少女を五人も抱えている櫻井に恨まれる可能性。

 その権力者の櫻井に立てつくことでいじめの対象に遭う可能性。


 全てを勘案して、赤石は誤魔化すという選択肢を取った。


「いや、昨日俺がペン落としたみたいで、それを返してもらってた」

「じゃあなんでこの教室で返さなかったんだ?」


 櫻井は立て続けに赤石に詰問する。

 取り調べかよ、と赤石は顔をしかめかけるが、取り直して返答する。


「いや、教室で俺と話して俺との関係性を他の人に疑われたくなかったらしい」

「なるほどなぁ~、そうなのか」


 櫻井は俺の説明に納得した様で、自分の席へと戻り、いつものように理想郷ユートピアを形成した。


 実際説明としてはあやふやではあったが、八谷が自分に好意を抱いていない事、それに加え、櫻井に好意を抱いていることをにおわせる理由に、櫻井は十全に満足したようだった。

 

 こんな混乱した状況に巻き込まれたくない、と赤石は必死で関係性を断ち切ろうとしていた。











「赤石、つら貸しなさいっ!」

「はぁ…………?」


 掃除当番の時間に、赤石は再度声を掛けられた。


「例の件か?」

「そうよ、力を貸しなさい!」


 赤石と八谷は階段の掃除をしながら、会話を続ける。

 怪我の功名というべきか、赤石の班が割り当てられた掃除場所は人気ひとけの少ない場所である。


「嫌だ。他の奴に頼めよ。お前女なんだから女に力添えして貰うよう頼めよ」

「あんた、好きな女の子がいる時に男に恋愛相談なんて出来るの?」

「…………」


 確かに、八谷の言っていることは正鵠を射ていた。

 女に恋愛相談をする場合には、恋愛相談をする女が、自身の懸想する男と被らないことがまず第一条件だった。

 それが被ってしまった場合、二人の仲が引き裂かれる可能性も、往々にしてあり得る。

 

 そして、八谷の場合友達に当たる人間は取り巻きの四人であり、尽く櫻井への好意を隠しきれていない。

 故に、今の状況から考えれば男への恋愛相談が適切だとも言えた。


 だが、恋人がいる女がいない訳もなく、今八谷が赤石に相談する理由はひとえに、八谷に放送部以外の女友達がいないということの証左であった。


「お前……友達いないのか?」

「うっ…………うるさいわね! どうでもいいでしょ、そんなこと!」


 八谷は顔を赤くして、憤慨する。


 ここでも、八谷のコンプレックスを揶揄するようなことを言ってしまった自分に、赤石は心底嫌気がさした。

 自分の、他者の傷口に塩を塗るような行為に嫌気がさす。関係性を断ち切りたいがために他者のコンプレックスを抉る。人として最低の行為だと、自覚していた。

 だが、八谷はこれくらいで挫けるような女ではなかった。


「手伝いなさいったら手伝いなさいよ!」

「いや、それにお前が俺と一緒にいると俺のことが好きなんだ、と櫻井に勘違いされるぞ?」

「そ……それもそう…………ね」


 冷静になったのか、八谷は自身のおとがいに、細くしなやかな指を持っていく。


「じゃあこれからはスマホで連絡し合うわよ! あんたは私に全く近づかなくていいわ! だから、私と聡助をくっつけるためにだけ動きなさい! ほら、スマホ出しなさい。連絡先登録するわよ」

「はぁ⁉」


 余りにも自分勝手な要望に、心底呆れた声を出し顔を露骨にしかめる。


「そんなことして俺に何の利益が…………」

「あるわよ」


 当然ともいえる赤石の疑問に、八谷は瞬時に回答した。


「もし今後あんたが困った時に、私の友達と私自身、後聡助との人脈が、作れる」

「な…………」


 八谷は胸を張って、続ける。


「いざとなったら私とのこの関係性を脅し文句にして、私自身に働かせることが出来る」

「お前は…………」


 余りにも予想だにしない報酬の提示に、赤石は硬直する。


 お前は…………。


 お前は、そこまでして櫻井と恋人関係になりたいのか。


 八谷はこの短い期間で、赤石の本質を見抜いていた。

 合理主義であり、効率を重視し、批判的な目を持つ、と。人間らしい感情からは距離を置き、飽くまでも合理的に生きる。

 その赤石に対して、理論的に利益があることを提示すれば、必ず味方に付いてくれると、そう見抜いていた。


 赤石は目を剥き、考える。


 もしここで味方に付けば、八谷の弱みを得ることが出来る。また、校内随一の美少女たちとの人脈を持つことも出来る。それは、今後大学への進学や社会においても必要となるものなのかもしれないと、瞬時に損得勘定を働かせる。

 それに加え、八谷が足早に櫻井と恋人関係になれば、八谷の付きまといも解消される。

 考える必要は、なかった。


「やってやる」

「そう言うと思ってたわよ」


 この日、八谷と赤石との共闘協定がたてられた。




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