第99話 花送りはお好きですか? 1
文化祭前日、既に文化祭の準備もあらかた終わり、各教室も文化祭の出し物用にその形を変えていた。
「いやぁ、中々大変だったでござるなぁ、アカ殿」
「そうだな。ありがとう、ミツ、ヤマ。お前らがいないと今回の映画は完成しなかったと思う」
「何言うてんねんお前! そういうことは言いっこなしや! 俺ら仲間やろ!」
思えば随分と関わってくれる人が増えたな、と三矢と山本を見た。
「そうだな。ありがとう、ミツ、ヤマ」
「そういうこっちゃで! まぁ、俺らに任せたら映像加工なんか簡単やわ! なぁ、ヤマタケ!」
「勿論でござる!」
三人は輪になって、互いを褒め称えていた。
「じゃあ皆集まってくれ!」
文化祭前日、三矢はクラスに映画製作の生徒を集め、集会を開いていた。
「じゃあアカ、お前は今回の脚本係やのに一番頑張ってくれたやろ。お前が話せ」
三矢は映画製作に携わった大勢のクラスメイトを前にして、赤石を前に出した。
突然に注目を浴びることになった赤石は足がすくむ。
「……」
無言で、クラスメイトの前に立つ。
ゆっくりと口を開き、
「えっと、まずは皆さん、お疲れさまでした。皆さんの助力の甲斐あって、無事に映画は制作されました」
パチパチパチ、と暮石が率先して拍手を送る。得心がいっていないものの、周りのクラスメイトも一応の拍手をした。
「今回制作した映画は文化祭の二日目に流され、一日目は演劇班が演劇をすることになってます。そこで、今回は一足早く皆さんに出来上がった作品『花送り』を見てもらおうと思います」
「おお」
クラスメイトがどよめく。
「勿論、見て貰わなくても結構です。今日はここで解散とします。文化祭二日目はこのビデオを流すだけです。今日見たい人はここに残って下さい。じゃあ、解散」
赤石の言葉と共に、数名の生徒が帰った。残りの生徒はクラスの中で雑談に興じ、ビデオを見る意志を示した。
「思ったより残ったわね、赤石君」
「そうだな」
「これから演劇班も帰ってくることになるけれど、演劇班の人たちにも見せるつもりなのかしら」
「ああ、演劇班の人も、見たい人は見てもらう。もうすぐ帰って来るのか?」
「多分そうよ」
高梨と話し合っていると、ほどなくして演劇班も帰って来た。高梨が演劇班に映画の試運転をする旨を伝えた。
「おお、赤石。そっちも終わったのか」
櫻井が率先して、赤石の下へとやって来た。
「高梨がヒロイン役になったみたいだし、じゃあ俺もちょっと見ようかな」
櫻井はそう言うと、高梨の下へと向かった。まるで高梨を引き留めたことを気にもしていないような風体で、話す櫻井に奇妙なものを感じる。
『ツウィーク』で自分のことを扱き下ろした時も高梨の一件で衝突した後も、まるで何もなかったかのように振舞う櫻井が、本当に奇妙だった。何を考えて何を思っているのか、分からなかった。
衝突すれば今後に差しさわりがあるということ自体、赤石は理解していたが、それでも櫻井が臆面もなく話しかけてくることに甚だ違和感と怒りを覚えた。
本当に、自分のことしか考えていないんだな、と、そう思った。
「じゃあ今から映画を流します」
演劇班の中でも事前に見たかったというクラスメイトを含めて、二十名前後で見ることになった。
櫻井が見る意志を示したことで、取り巻きもまた見ることを決めた。
どこまでも櫻井に気に入られようとついてくるな、と呆れ半分で赤石は取り巻きを見る。
赤石と三矢は演劇のビデオを流し、着席した。果たしてちゃんとした映画に仕上がっているのか。自分たちはどういう風に映っているのか。一度全てを通して観たことのなかった赤石と三矢は静かに、ディスプレイに視線を移した。
制作した映画が、始まる。




