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ラブコメの主人公はお好きですか?  作者: 利苗 誓
第3章 文化祭 後編
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第97話 自主製作映画はお好きですか? 9



 高梨と暮石が二言ほど話したのち、暮石は三矢と須田の下へと向かった。


「あ、あの、暮石三葉と言います。よろしくお願いします!」

「おぉ、よろしく~」

「暮石、今回雑用やってくれんねんな。じゃあ今日は任したで!」

「よろしくでござる」


 暮石は須田の隣に座り、三矢たちにまざってトランプゲームに興じた。


「あいつら楽しそうだな」

「そうね。でももうすぐ到着よ。赤石君、準備なさい」

「分かった」


 赤石と高梨は電車を出る準備をした。


「統貴、三矢君たち、もうそろそろ出るわよ」

「ちょっと待ってくれ! この勝負、この勝負が終わってからにしてくれ!」

「電車にこの勝負が終わってからは通じないわ」


 必死の形相でトランプカードを持つ三矢を尻目に、須田たちは準備をしだした。


「三矢こいつすげぇトランプ弱かったわ」

「頭の悪さが敗因ね」

「誰が頭の悪さや! 運が悪かっただけや!」

「お前じゃんけんの時からずっと負けてるんだな」

「たまたまや! たまたまなんや!」


 三矢はわなわなと震えた。

 三矢が騒いでいるうちに電車は停まり、駅に着いた。


 真っ先に赤石が電車を降り、外で大きく深呼吸をする。


「ふ~…………」

「赤石君、急ぎすぎよ」


 深呼吸をしている赤石の後方から、高梨たちがゆっくりと降りて来た。


「外の空気は気持ちがいい。空気を吸うと吐き気がおさまる」

「あらそう」


 須田や暮石も後方から、続々と降りてくる。


「おぉ~、ここが今回の撮影場所かぁ! いやぁ、自然が豊かで綺麗な木々が沢山あるなぁ!」

「珍しくまともな感想が統から出た」

「おいおい、悠。俺は須田だぜ? 須田統貴がまともな感想を言わなくてどうするよ?」

「まぁお前四組だから実質今回とは全く関係ないけどな」

「そこは目をつぶろうぜ」


 須田はあはは、と笑い、赤石の肩を叩いた。


「よし、じゃあ調子の悪い悠の為に、俺が悠をおぶってやろう」

「止めろ統、こんな所でおぶろうとするな。恥ずかしい」


 背を貸そうとする須田の提案を、赤石は一蹴する。


「赤石君、統貴の厚意を無駄にするものじゃないわよ」

「じゃあお前がおぶられろよ」

「私は大丈夫よ、健脚だから。あなた、リュックだけでも持ってもらった方がいいんじゃないかしら」

「まあ、そうなのかもしれないな」


 赤石は須田に持ち前のリュックだけ背負ってもらい、歩き出した。


「いやぁ、いいでござるなぁ、こういうのもたまには」

「遠足みたいやなぁ」

「私もちょっとわくわくしてるかも」


 三矢たちは木々を眺め、ちよちよと鳴く鳥のさえずりを聞きながら、目的の公園へと向かう。目的の公園には多くのシロツメクサが生えていると話題であり、今回の撮影にシロツメクサが多く生えている公園が必要だった。


「どうするよ、高梨。シロツメクサ生えとらんかったら」

「三矢君がシロツメクサになればいいわ」

「なれるかい! 女装の次は草かい!」


 六人は互いに雑談を交わしながら歩き続け、目的の公園へと到達した。


「おお……」

「おお」


 須田と赤石は息をのむ。


「これはなんとも綺麗な……」

「綺麗やな……」


 三矢と山本もまた、息をのんだ。


 赤石たちの眼前には、視界を埋め尽くすほどの綺麗なシロツメクサが、群生していた。


「ここで撮影に決定でござるな」

「せやな! えらいええ場所見つけてもうたわ!」


 三矢と山本は意気軒高に走り出し、撮影の場所を決め始めた。


「あいつら元気だなぁ」

「お前もな」


 須田の呟きを赤石が拾う。


「楽しいね、高梨さん」

「そうね。中々絶景と言ってもいいんじゃないかしら」


 暮石と高梨も須田の後ろから三矢たちを追った。


「おいアカ! 須田! はよ来んかい! ぼやぼやしとんとちゃうぞ! こんな絶景で撮影できんねんぞ! はよせぇ!」

「本当に元気だなぁ、あいつらは」


 須田と赤石は小走りで、三矢たちの下へと向かった。


「じゃあ暮石さん、私たちも向かおうかしら」

「そうだね!」


 高梨と暮石は撮影をする山本の近くへと、向かった。






 六人は脚本を見ながら、撮影を進めていた。


「いやぁ、高梨殿がヒロイン役を立候補したおかげで助かったでござるよ。こんなにサクサク撮影が進むとは思ってもいなかったでござる」

「そうね、私に感謝なさい、あなたたち」

「ははぁーー!」


 須田が高梨を奉る。


「お前は関係ないだろ」

「確かに」


 須田は踵を返し、暮石とシロツメクサで冠を作ることを再開した。赤石と高梨、三矢は山本の下で演技に熱中し、山本はカメラを覗きながら一人で映画監督の役割もこなしていた。


「だから何度言ったら分かるでござるか! 三矢殿、関西弁が混じってるでござるよ!」

「なんやねん、さっきから何回も! 混じっとらんわ、普通の言い方や! なぁ、アカ、高梨?」

「いや、混じってるぞ」

「混じってるわね」

「なんやて!?」


 赤石と三矢たちがそんなやり取りをする中、カメラの端で須田と暮石は公園に遊びに来た一般人を装い、映っていた。


「どうしよう、大丈夫かな? 私なんかが映って」

「大丈夫大丈夫! 四組の俺が映ってんだから二組の暮石が映ってたって何も問題ねぇって!」

「でも私カメラ映りとか悪いし……」

「大丈夫大丈夫! 俺もカメラ映り悪いから」

「い、いや、須田君は悪くないんじゃ……?」

「いやぁ、悪い悪い。悠に前『お前の顔だけ解像度すごい低いな』とか言われたし」

「何それ、面白い」


 須田と暮石は二人で、笑いあった。


 そうして数時間公園での撮影を終え、次の撮影場所へと向かった。


「楽しかったわね、赤石君」

「いや、疲れた。本当に疲れた。お前はあんなに演技してたのに全然疲れた様子を見せないな」

「当り前でしょう。三矢君も疲れてなさそうよ?」

「いや、疲れとるわい! というかアカ、お前演技めちゃ上手いな」

「そうか?」

「常日頃から演技して生きてるから演技が上手くなったんじゃないかしら?」

「演技してねぇよ。素の赤石で生きてるわ」


 赤石は疲れ切った顔で歩く。公園での撮影後その近くを転々とし、すでに体力も精神力も限界に近かった。


「楽しかったね!」


 反面、演技の役割がなく、カメラの端でシロツメクサの冠を作っていた暮石は精神的な疲労は見られなかった。


「暮石さん、体力と精神力凄いな」

「暮石でいいよ。まぁ、よく山登ったり一人でどっか行ったりしてるし、体力は自信あるかな。それに、演技してないから精神的な疲労がないし」

「統貴はすごい疲れた顔してるけど」

「いや、これ腹減った顔。早く帰ろうぜ? もう夕方だろ」


 須田の一言で、赤石も空腹を思い出す。


「確かにお腹が減ったな。早く帰ろう」

「帰りはバスの予定でしょう? 赤石君、乗り物酔い大丈夫なのかしら」

「…………」

「ちょっと黙り込まないで、心配になるわ」


 高梨が赤石から距離を取った。暮石はあはは、と笑う。


「帰りはバスかぁ……もうすぐ文化祭だね」

「そうだなぁ。本当にもうすぐだな。悠、大丈夫か? 色々」

「まぁ、何とか映画製作は間に合いそうだな」


 赤石は三矢と山本を見る。


「間に合いそう……だよな?」

「まぁ、なんとかなるんとちゃうか」

「映像加工は拙者らに任せるといいでござるよ!」


 ドン、と山本は胸を叩いた。


「じゃあ帰るか」

「そうだね!」


 六人は最寄りのバス停に足を止め、数分してやって来たバスに乗り込んだ。




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