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ラブコメの主人公はお好きですか?  作者: 利苗 誓
第3章 文化祭 後編
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第94話 自主製作映画はお好きですか? 6



 キキー。


 電車が止まり、高い音がその場に響いた。


「よし、じゃあ入るか皆!」


 須田は赤石たちの先頭を行き、一番に電車に乗った。


「よし皆今の内だ、入れ!」

「今の内も何もないだろ。何と戦ってるんだお前は」


 赤石は須田の後ろから電車に乗る。


「クソ、やられたわ! ヤマタケはよ行け! 後ろから組織が追って来とるぞ!」

「それはまずいでござるな」


 三矢と山本も小言を言いながら電車に乗る。


「あなたたちいつもそんなテンションで話してるの? 疲れない?」


 高梨が呆れた顔をして、最後に乗った。


「いやいや、もっと真面目な話もしてるよな、俺らは」

「そうだな」

「せやで!」

「前も俺ら四人ですげぇ高尚な話してたもんな! なあ、悠!」

「何故俺に振る」


 事の次第を委ねた須田の真意を汲み取る。


「あれか、運の総量は決まっているかもしれない、ってやつか?」

「それそれ!」

「あなたたちもうちょっと生産的な話をした方が良いわよ……」


 疲弊した高梨は憮然とした面持ちで須田を見る。


 そんな会話を交わしながら、赤石たちは四人掛けの座席の近くに集まった。行き先の都合もあってか電車の中は人が少なく、多くの座席が空いていた。


「……」

「……」


 赤石たちは無言で顔を見合わせた。


「四人掛けの座席に俺たちは五人……」


 須田が口を開いた。


「今、男たちの熱き席取りのバトルが始まる……!」

「誰か一人が弾かれるな」


 赤石はそう言いながら座った。


「何やっとんねんアカ! ここはじゃんけんやろ!」

「早い者勝ちかと思ったわ」


 三矢は赤石の肩を持ち、再度立たせた。


「じゃあ私は女の子だから座らせてもらうわね」

「いや、高梨も座っちゃダメだろ」


 赤石が高梨の着席を禁じた。


「というかこんな時だけ突然女の子とかいう言葉を使うなよ」

「あら、私だけのけ者にする気かしら? 一人だけのけ者になることが確定していると思うのだけれど、女の子をのけ者にしようとは見下げたものね」

「見下げるな。女の子なら男の中に居づらいという粋な計らいだ」

「いい度胸をしてるじゃない。いいわ、やってあげる」


 怒り半分挑発半分の顔で、高梨は赤石を見る。


「よおし、俺は負けねぇぞ悠!」

「俺も電車の中で一人ぼっちはおもんないからなぁ!」


 須田と三矢は互いに顔を見合った。


「ここは……」

「そうやな……」


 須田と三矢はじゃんけんをし出した。


「おいおいお前ら、まだ始まってないぞ」

「何言うてんねんアカ。運の総量は決まってんねんぞ? ここでじゃんけんいっぱい負けといたら本番のじゃんけんで勝てるやろ」


 何を言うのか、と三矢は反駁し、須田とじゃんけんを続ける。


「でも一回負けても一回勝ったらプラスマイナス〇じゃないか?」

「……」


 ピタ、と三矢の動きが止まった。


「須田、ここらで止めとこか。本番のじゃんけんやるぞ」

「あぁ、てめぇせっけぇ! 俺まだ二回しか負けてねぇのにもうお前五回も負けてるじゃねぇか! 止めろ! 負け逃げするな! 俺の運がああぁぁ!」

「負け逃げという新鮮な言葉が」


 赤石たちは輪になり、不服そうな顔をする須田を黙殺し、じゃんけんを始めた。


「じゃあいくわよ」

「じゃーんけーん」


 グー、グー、チョキ、パー、グー。あいこ。


「ほお、あいこか。面白いやないか」

「何キャラでござるか三矢殿」


 再戦。


「じゃーんけーん」


 赤石、高梨はグー、須田、三矢、山本はチョキ。


「あああああああ! 負けたあああああ!」

「畜生! じゃんけん負けといたのに!」


 赤石と高梨が抜けた。


「いや、これでいいんじゃないのかしら?」

「え?」


 じゃんけんの結果を見た高梨が呟いた。


「五人いるのに最初から一対四で分けるのがおかしかったのよ。二対三で別れれば誰も弾かれないじゃない」

「…………!」

「その手があったか!」


 そう言う須田もそのままに、赤石は負けた三人を見た。


「いや、こういうのは一人が負けるから面白いんだろ。続けろ、貴様ら」

「ふ、ふざけんなアカてめぇ! 勝ったからってなに安全圏から俺らを戦わせようとしとるんや! 止めんかそんな成金趣味! これでええわ!」


 結局、赤石と高梨が二人掛けの座席に座り、前に三矢と須田と山本が座ることになった。


「よろしく、赤石君」


 高梨は赤石の隣に座った。前から須田が、声をかける。


「高梨、悠のことちゃんと見てやってくれよな」

「あら、どういうことかしら」


 高梨は小首をかしげる。


「実は悠、滅茶苦茶乗り物酔いが激しいんだよ。ブランコでも酔うから悠は」

「嘘でしょ……」


 しまった、という顔をして高梨は赤石を見る。


「なんやアカ、お前乗り物酔い激しいんか。どうすんねんこれからの人生、修学旅行とかまだ残っとるぞ? 飛行機とかあったはずやぞ」

「まあ悠ならなんとか出来るんじゃないか?」


 前の席から、三矢と須田の声だけが飛んでくる。


 赤石は酔わないように、ずっと外を見ていた。


「赤石君……」

「……」

「ちょっと赤石君、何か言いなさいよ不安になるでしょうが!」


 高梨は赤石をぶんぶんと揺さぶる。


「止めろ揺さぶるな酔う! 俺はここで安静にさせてもらうぞ」

「なんて外れ席を引いてしまったの、私は……」


 ぷるぷると小刻みに高梨は震える。須田は再び赤石たちに声をかけた。


「悠のことをちゃんと知ってないからこうなっちゃったな、高梨。じゃあ悠が万が一戻しそうになったりしたら高梨、手で受け止めてやってくれよな」

「い、嫌よ! 馬鹿な事言わないで! どうして私が赤石君の吐瀉物を手で受け止めなきゃいけないのよ!」

「冗談だろ、高梨。冗談を真に受けるなよ」


 隣で慌てふためく高梨に赤石が声をかける。


「冗談に見えないのよ、あなたは! さっきから私と目を合わそうともしないじゃない!」

「外の景色以外を見たらじきに吐く」

「やっぱりじゃない!」


 高梨は鞄から袋を取り出した。


「エチケット袋よ、持っておきなさい」

「いや、ある」


 赤石はポケットから袋を取り出した。


「本気じゃない! ポケットから袋取り出すって本気でそのつもりじゃない!」

「吐いたら悪いから席を移ってくれて結構だ」

「はぁ……」


 高梨は深いため息をついた。


「もういいわよ、別に。吐いたら吐いたで何かで恩返してもらうわ。それに、私あなたに訊きたい事があったのよ」

「何を」


 赤石は外の景色を見たまま言葉を返す。

 前の席で須田たちが雑談に興じていることを確認した高梨は、小さな声で赤石に耳打ちした。


「あなた、八谷さんとは最近どうかしら」

「……」


 赤石は、高梨を見た。



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