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竜の亡骸は始まりの島で翼を広げる  作者: 白布ツグメ
東の国編 竜医の章
9/22

林苑に聞こゆ(壱)

遅くなりましたが、何とか更新できました。この話も④くらいまで行きそうです。

 イヴァンに連れられて1軒の店に入った。綺麗な門を構えた静かな雰囲気がある、ちょっと高級なレストラン? もっと庶民的な、騒がしくて小汚い、例えるならカウンターがぬるっとしているラーメン屋みたいな店に行くかと思っていたから、少々驚いた。


 だって、イヴァンが着ている服、初めて会ったときと同じ、あの外套だぞ。麻袋じゃないかってくらいボロボロだからな。


 そして更に、店内に入って、その”少々の驚き”は”驚愕”となった。


 品の良い、整った装飾は、素人の俺が見ても良い物を使っているのだと察せる。一見いちげん様お断りでもおかしくないだろう。そんな空気があった。


 こんな所、(少なくとも見た目は)小学生の俺を連れて来て良いのかよ…… こういう所って、子供が来て良いのか? イヴァン、そんな服装で大丈夫なの?


 見れば、イヴァンは店員と思わしき男と話をしていた。


 どうやら、店側としては、俺を中に入れたくないようだった。良かった、帰れそうだ。こんな店、安心して飯が食えない。


 なんて、少し安心し始めた。


 ところが、その男より立場が上と思われる女が出てきて、話は変わった。その女はイヴァンのことを知っているようだった。なんと! イヴァンはここのお得意様らしい。男は新人だったようで、目を離したらこうなってしまった、と女が謝っている。


 ――そして、すぐに話は付いた。


 おいおい、この店、大丈夫か? こんな男、入れちまって良いのかよ…… ついでに、俺も、恐らく、普段着だからな…… めっちゃ庶民だぞ。多分。


 どうやら、”いつもの場所”とやらが空いているから、そこで食べるということだ。料理、完全に店み任せてるけど、大丈夫なの? 後でとんでもない請求されたりしないの?


 そんな疑問が浮かぶが、イヴァンは気にしている様子が全然無い。


 本当に入っちまったよ…… イヴァン、こいつ何者だ? 人は見かけによらずって言うけど、こりゃそういうレベルじゃないだろ。


 あの子、知り合いって言ってたよな…… まさか、借金取りの類を隠喩したのか? ミスったかな。付いてこない方が良かったか?


 もはや疑心暗鬼である。


 そのくらい高級そうな所なのだ。


 ――あれ? 外に出るの?


 事を理解する間もなく、俺は庭園の中にある屋根だけの建物に連れて来られていた。


 正八角形をした建物。僅かに漂う香の香り。それはもしかしたら庭園に植えたれた花の香りなのかもしれない、とまで思わせる。いや、そうだと思っていた。イヴァンが”良い香を使っている”って言ったから分かったのだ。


 その庭園には種々の草花が生え、一見、人の手が入っていないかのように見える。しかし、よく見れば、それらには無秩序な広がりが全く無い。しっかりと人の手が入っているようだった。


 思いっ切り、VIP対応じゃねぇか…… こりゃもう、如何いかがわしいとかそういうレベルじゃねぇぞ。マジで、こいつ、何者だ?


 疑いはどんどん深くなった。


 イヴァンが煙管きせるを出す。煙草を入れて、火を付けて2,3服した。

「座ったら、どうだ? 」

近くの席を促された。

「え、あ、はい。」

慌てて近くにあった席に座った。


 イヴァンの前で何かやらかすのはマズい。大丈夫かな? まだ変なことはしてないよね?


 未だかつて無い不安に襲われた。


 それからイヴァンが席に着く。気まずい沈黙が続いた。


 その沈黙をイヴァンが唐突に破る。

「ああ、そうだ、ミズキは酒、飲むか? 」

とんでもない質問を投げかけてきた。おい、未成年者飲酒禁止法…… さすがに法律は守るからな!

「飲・み・ま・せ・ん。」

こんな状況とはいえ、ちょっとイラッとした。分かりきったことを聞くなよ。

「ああ、そうか。じゃあ、今晩は俺も飲まなくて良いかな。」

イヴァンがまた煙草を吸う。そして気まずい沈黙に戻った。


 幸運なことに今度の沈黙はそれほど長くは続かなかった。料理が運ばれて来たからだ。


 美味い…… こんなの食べたことが無いぞ。


 一体、何十万円……いや何百万払えば、ここで食事ができるんだよ。


 後でとんでもない請求をされるんじゃないかと、料理が喉を通らない。イヴァンの奢りだよね? そうだよね?


 イヴァンに目配せをするも、こちらを見ていない。諦めて食べるか。そう思い始めたときに、イヴァンが不思議そうに俺を見つめてきた。

「ミズキ、食べないのか? 」

その言葉に裏は無いようだった。

「いえ…… その、後で、請求とか……」

こんな美味いもの本当に食べて大丈夫か? 毒とか入ってないよな? 言葉にはそういった不安もこもった。

「なんだそんなことか。俺の奢りだ。食え。」

納得したように、さらりと言った。

「は、はい。では、いただきます。」

ここまで来たら食べない方が失礼か。


 一口だけ食べて止まっていた手を、再び動かし始めた。


 とは言え、食事が来たのは救いだった。話さなくても食べていれば何とかなる。もう、食べることに専念しよう。そう心に決めた。


 だけど、黙々と食べていたらイヴァンが話しかけてきた。あの気まずい沈黙のときに話しかけて欲しかったよ。でも、今なんですよね……

「君は…… あいつのこと、どこまで知っているんだ? 」

今度は何か裏がありそうだな。わざとなのか? 普通、こんなに分かりやすく裏がありそうな話し方はしないぞ。

「どこまで? 」

下手に話さない方が良いのか? とにかく質問を具体的にしないとだ。できれば”はい・いいえ”で答えられるレベルまで。

「聞き方が悪かったな。……あいつの仕事は何だと思っている? ミズキの認識している範囲で良い。」

何だ。そんなことか。それくらいなら…… いや危ないか? それは裏を読み過ぎか? 待てよ。このことはイヴァンも知っているはず…… なら大丈夫か?

「薬屋? 」

それでも疑問形で答えた。断定は避けることにしよう。

「…………そうか、それなら良い。」

イヴァンは数秒の間、考えるようにしてから言った。


 え、もしかして、あの子の仕事って薬屋じゃないの? じゃあ何なの?


 その微妙な間は、そんな疑問が湧き上がらせた。しかし俺が質問しようと口を開けようとした途端、聞くことは聞いたと言わんばかりに、黙々と食べ始めた。


 聞くなってこと……だよな?


 結局、その後、食事は会話無く終わった。


 外に出る。もう真っ暗だった。そっか、4刻(2時間)近く食事してたんだもんな。


 イヴァンは俺を家まで送った。監視されているみたいで、気持ちが悪い。しかし断る理由も見つからず、家まで付いてきてもらった。


 イヴァンとは家の前で別れた。それからランプに火を点けて、戸締まりを確認する。あの子には言われなかったけど、一応だ。


 歯を磨いたら、特にすることも無いし、寝ることにした。


 もう、イヴァンと食事に行くのはやめよう。あの2時間で、3日分は疲れた気がする。




 翌朝、目が覚める。


 重い……


 横を見たら、なぜか女の子が寝ていた。


 え……? 部屋、間違えた?


 だけど、その部屋には俺の学ランが置いてある。良かった、間違いえたわけじゃないようだ。


 所謂いわゆるラッキースケベってやつ?


 いや、違う。例えそうだとしても、残念ながら、全く興奮しない。やはり体が未熟だと、心まで……


 にしても、起こした方が良い? それともこのままにしておく?


 考えていたら、女の子が「んん……」と寝言と思わしきことを発して、俺に抱きついてきた。

「え……」

それはその状況に対する驚きでもあり、自分の中に沸き起こった感情に対する戸惑いでもあった。


 母性、というやつだろうか? いや、むしろ、お姉ちゃんに甘えたい妹の感情、とした方が正しいかもしれない。決して、恋愛感情とかいやらしい思いとかは無い。そういった性的な感情ではないのだ。


 俺はその子の腰に手を回して抱いた。とん、とん、と背中を叩いた。

「ミズキ……」

俺の胸に顔を埋めたまま呟いた。その姿に思わず微笑んだ。


 起こしちゃったかな?


 確認したけど寝ていた。


 良かった。暫く寝かしておこう。


 俺はそっと彼女を寝台に寝かせて、立ち上がる。廊下の時計を見れば、そろそろ開業準備をしないといけない時刻だった。


 後ろで「行かないで……」と小さな声がした。振り返れば、やはり寝言だった。


 店の鍵がどこにあるかは分からなかったから、店の中だけ掃いておいた。それから、釣り銭を確認しておく。


 始業1刻(30分)前になって、2階の方から彼女の声が聞こえた。

「え、ちょっと、ここ、あの子の部屋じゃない! あ、後、1刻しかない。え…… ミズキ、ミズキー!」

とまあ、叫んでいた。

「店にいるー!」

俺も叫び返す。

「え、あ、分かったわ。今行くからちょっと待って。」

その後すぐに、ドンドンドンドン、と階段を下りる音が聞こえた。


 ――バン!


 女の子が戸を開ける。

「ごめん、大丈夫だった? 」

はあはあ、と肩で息をする女の子。

「あ……うん、一応、店の中は掃いておいたわ。店の鍵が見つからないのだけど。」

その気迫に押されて反応に時間がかかった。

「良かった…… お釣りは確認した? 」

「ええ、大丈夫だと思うけど、一応見ておく? 」

「良いわ。あなた、それより着換えられてないでしょ? 私、着替えてきちゃうから、その後、着替えて来て。店の方は私でやっておくから。」

と言って女の子は奥へ戻って行った。


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