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竜の亡骸は始まりの島で翼を広げる  作者: 白布ツグメ
東の国編 竜医の章
8/22

薬屋と汚れ役(下)

初めてファンタジーらしいことを書いた気がする……

6/1

うわぁ…… 5回以上査読してるのにミスった。訂正しました。

 ミズキと分かれて、山の方に行く。ガス灯の明かりがどんどん少なくなっていく。


 一刻ほど歩き、町の明かりが殆どなくなった頃、遠くに町の明かりのようなものが見え始めた。ぼんやりとした、橙黄色とうこうしょくの光がキラキラとしている。


 更に近づくと、幅の広い巨大な堀が現れる。堀の外側には盛土がされていて、腰程度の高さがある。堀の内側には4階、5階建てくらいの高さがある塀が重々しく腰を据えていた。


 堀の手前にある受付で名前と住所を伝える。前に来たときと同じ人が担当をしていたから、スムーズに進んだ。


 帳簿を閉じると、その人が言う。

「ああ、じゃあ、俺はここにいるから、中佐のとこまでよろしく頼む。」

「は、はい! 」

隣にいた若い男が、驚いたように、ビシッと敬礼をした。ああ、自分が行かされるなんて思ってなかったのね。


 その男に連れられて橋を渡った。壁を潜った先には町がある。


 そこにいるのは、ほぼ全員が軍服を来た男である。女——それも軍服を着ていない——は珍しいらしい。私しかいないんじゃないかしら、とも思えてしまう程だ。


 その所為せいで、無駄に視線を集めた。もう何10回と経験して慣れたことではある。民間人とはいっても、軍の関係者何だから、軍服かそれに準ずる物くらいよこしないさいよ……


 そしてほぼ必ず”一緒に歩く男の愛人じゃないのか? ”というヒソヒソ話が聞こえてくる。それなりに年齢が上の人間がいれば「ちげぇ、ありゃ竜医だ。」と言ってくれて、すぐに静かになる。それから興味を無くしたように、私から目を離すのだ。そうじゃないと、数日、その噂が流れるみたい——受付の担当が言っていた——だが、これも直ぐに収まるらしい。


 こんなの私にとってはいつものことなのだが、前を歩く男は慣れていないようだった。時々赤面している。


 私にもこんな時期があったのかしら。子供を見守るような気持ちで、年齢が私よりも上の男を見た。


 厩舎の隣にある、それの10倍近い大きさの平屋に入った。男は手に持っていたランプを目線まで掲げて歩く。私はそれについて行った。


 実を言うと、もう何度も来ているから男の案内などなくても行ける。だが、軍——つまり国の施設ということもあり、建前上、人は付けておくのだそうだ。お役人は面倒くさいわね。こうも見栄を張らなきゃいけないものなのかしら?


 いつもと同じ部屋の前で男は止まった。


 男が戸を叩く。

「何だ? 」

奥からしゃがれた声がした。

「竜医を連れてまいりました。」

「入れ。」

「はっ。」

男が戸を開ける。私に、先に入るように促した。


 部屋には、軍服を着た、ぱっと見ただけでは退役軍人と間違えそうな、お爺さんいた。そいつは執務机を背に、窓の外を向いて立っていた。

「来たわよ。」

私のその話し方に驚いたのか、私を連れてきた男が目を丸くした。


 そりゃそうね。はたから見たら、一般人の私が、国内最強の戦術家とまで言われた中佐にタメ口を聞いているのだもの。

「人前で、その話し方はやめてくれないかな? 私にも立場というものがあってな。」

振り返った爺さん——中佐——は恥ずかしげに微笑んだ。


 男はまだ驚いた顔をしている。

「ああ、君。もう良いぞ。」

爺さんは面倒くさいものを追い払うかのように言った。

「は! 」

逃げるように男は部屋から出て行く。まるで見てはいけないものを見たかのように。

「あら、誤解させちゃったかしら。」

「そのようじゃな。やれやれ、後で訂正せねばな。変な噂が立たぬと良いが……」

「そうね。だけど、私としては、中佐の娘とか孫とかにされた方がいちいち手続きをしなくて楽なのだけど。」

「君というやつは……」

爺さんがやれやれと頭を振る。

「それで、また、竜のこと? 」

「うむ。」

「何頭かしら? 」

「4頭じゃな。400ロッドでどうじゃ? 」

「そうね…… 状態によるけど、とりあえずそれで良いわ。いつも通り、諸経費は後で請求するわね。今日は急だったから、応急処置だけにするわ。重篤なのがいたら、それは後日来るわね。だからそうね…… 200ロッドにしておくわね。」

「うむ。では請求書と竜舎の立ち入り許可証じゃ。」

爺さんにはがき程度の大きさの紙を一枚、その半分くらいの大きさの金属板を渡された。


 竜舎はこの建物の中にある。今いるのが竜舎管理室で、ちょっと歩けば、竜舎の入り口がある。一つの屋根の下に二つの建物がある、というのが端的な説明かしら。


 金属板には”所属:民間人|名:ナツナシ|番号:無し|部門:竜医|階級:少佐相当”と彫り込まれている。許可証と認識票を兼ねてい物だ。何故それを爺さんが持っているかというと、家に置いておくより、爺さんに預けたほうが安全だからだ。おかげで毎回取りに行くから爺さんとも仲良くなってしまった。


 私は、はがき程度の大きさの紙——請求書にさっさと200.00と書き入れる。それを爺さんに渡した。

「本当に200で良いのじゃな? 」

爺さんが聞いてきた。確かに竜医としては破格かしら。

「良いわ。ただ、そのかわりと言っては何だけど、また、風呂と仮眠室を使わせてちょうだい。」

爺さんにそう残して、部屋から出た。


 金属板を竜舎の入り口に立つ兵に見せて、中に入る。壁に金属板を掛けた。


 その時、後ろに人の気配を感じた。見れば、軍服を着た男という、ここでは何の変哲もない男が立っていた。

「おい、そこの……」

「ナツナシです。」

「そうか、ナツナシか。まずこれを渡しておこう。」

男が台車から、引き出しが沢山付いた木箱を下ろそうとする。

「あ、そのままで良いわ。」

誰がそんな重い箱持ちたいと?

「竜が起きると聞いたが? 」

……ああ、そうだったわね。納得したわ。


 軍用の竜には人が嫌いな種が多い。普段は鞍をつけて大人しくさせている。それに竜騎士だってそれなりに訓練を受けているから、そうそう竜の気を逆撫でするようなことはしない。だけど鞍を外して竜舎に入れているとき、それも一般兵が、台車をガラガラと引いて寝ている竜を起こしたら、その結果は予想がつく。良くて重症、悪くて周りの人間を巻き込んで2,3人死亡ってところだろう。流石にそれ以上にはならないと思う。


 こいつ、新人かしら? 竜医のこと何にも知らないのね。

「大丈夫よ。私がいる限り何もしてこないわ。」

できるだけ、自信があるように聞こえるように言った。

「そうなのか? 」

訝しげに聞いてきた。どれだけ竜医のことを信用していないのよ……

「大丈夫よ。それに、ここにいれば大丈夫でしょ? 」

「それはそうだが……」

「規則では、竜医を監視することになってるんだっけ? 大丈夫よ、そんなの守ってる人いないから。」

「そうなのか! 」

その声は妙に嬉しそうだった。

「という訳で、ここで待ってれば良いから。下手に付いてこられて”死なれても”困るし。」

その言い方に男は恐怖を感じたのか半歩、竜舎から遠ざかった。数歩下がったって、竜の跳躍力の前には無意味なのだけれど。


 私は男から4頭の場所を教えてもらう。一応、他の竜もかなり大雑把にだが、見て回った。


 爺さんが言っていた通り、治療が必要なのはその4頭だけだった。


 竜は、人間ほどの大きさがある鱗で覆われた翼を持ち、巨大なトカゲみたいな生き物だ。足は2本。鷲みたいな見た目をしている。鱗は”見た目の割には”固くない。若干の弾力を持ち、まるで膜のように翼全体を覆ている。


 傷口しっかり見ようと、竜の下に潜り込む。そしたら竜が唸って、もそりと動き、私を外に出す。

「ごめんなさい。起こしちゃったわね。」

胴を撫でる。ほんの少しザラリとした触感がある。手を添えると、鼓動が伝わってきた。


 大体、半刻くらいだろう。竜の胴を撫でていた。やっと、竜は私に敵意が無いことを認識したようで、自ら横になってくれた。


 私がどう処置するか試したい。そういうところかしら。確かに、この子の相手をするのは初めてだったかもしれないわね。


 見れば右足に深いキズがあった。帝国の対空機銃によるものだろう。

「また、随分酷いわね。」

私が呟いたら、竜が申し訳なさそうに唸った。

「あなたが悪いわけじゃないんだから良いのよ。……それに、もう治ってきてるじゃない。弾は出したの? 」

竜は頷いた。


 実は、あまり知られていないのだけど、竜とは会話ができる。


 竜は賢いのだ。


 そんじゃそこらの犬っころなんかよりよっぽど賢い。人間とどっちが賢いかって言われると難しいけど、逆にその二択で悩む程度には賢いのだ。


 ランプを掲げて傷をしっかりと見る。炎症は起こしてないわね。とりあえず傷も塞がってきてる。なら、包帯だけ巻いておけば良いかしら。竜の治癒能力に任せてみましょう。


 さっきの箱から包帯を出す。それは人間に使うやつの3倍近い幅がある。それを巻きつけた。


 巻きつけるだけと言えばそれまでなのだが、これが中々の重労働なのだ。竜医は医者のくせに力仕事が多い。


 結局、二刻近くかかった。ミズキ的には1時間っていうやつなのだろう。


 竜はその間ずっと大人しくしていてくれた。

「終わったわ。」

私が言うと、竜が頭を優しく擦り付けてくる。どうやら認めてくれたようだ。こうなると、次回から治療がしやすい。

「もう…… くすぐったいからやめなさいよ。」

久しぶりにちゃんと笑った気がした。そんな感謝も込めて、その子の頭をポンポンと叩いた。


 それから、また1頭、また1頭、と診ていく。傷は、深い物が多かっだけれど、炎症していた竜はいなかった。炎症していると、場合によっては1週間近く付きっきりになる。場合によってはミズキに薬を持ってきてもらわないとな、と思っていただけに、何事も無くて良かった。


 しかし、今回は早く終わったとはいえ、女一人での重労働は時間がかかることに変わりは無い。戻って来たときには、見張りの兵も交代していて、来た時からは10刻近く経っていた。


 その後、竜舎を出て、兵舎にある風呂場に向かった。男湯だ。でもこんな夜中に使う人もいない。というか、本来は清掃時間なのだ。


 入り口に"竜医は使用中"と札をかけた。女が入っている、と書くと覗くやからがいるのだが、こう書くと激減するのだ。


 何故か? まず、竜医に会いたいという人間は少ない。汚れ仕事という認識があるからだろう。


 ついでに竜医同士も会いたがらない。竜医の中には流派があるが、それらの仲は良いとは言い難い。むしろ、凄く悪い。となれば、どこの流派か分からない竜医には会いたくないという訳である。


 髪を軽く流した。


 せっかく、さっき洗ったのに、もう汚れちゃってるわ。…………あら?


 抜けた髪が手に絡まり付いていた。それはだけなら良くあることだ。しかし、今回は毛根付近が白っぽくなっていた。

「あらら、染め直さないといけないわね。」

浴室に響かないくらいの声で、ポツリと言った。


 風呂を出た。まだ外は暗い。夜の馬鹿騒ぎもとっくに終わり、ほぼ意味の無いガス灯が光っている。これが有り難いのは、私みたいな本当に一部の人間に過ぎない。


 貸し切ってもらっていた仮眠室に行った。布団をかぶったら、ミズキのことが頭をよぎる。


 あ、あの子に着換え渡すの忘れてたわね…… まあ、寝間着ぐらいなら見つけられるでしょう。それに、今更、気が付いたってね。


 やっちゃったな、と思って一つため息を吐く。


 横になって丸まって、目を閉じた。


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