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竜の亡骸は始まりの島で翼を広げる  作者: 白布ツグメ
東の国編 竜医の章
13/22

決断と決別

更新、遅くなり申し訳ありません。鬱回はこれで終わりです。次話も少しその傾向はあるかも…… それはともかく、あからさまなのはこの辺りで終わりです。

 "女の子"とどう付き合っていけば良のか。何がいけなかったのか。考えていたら夜になっていた。なぜ、あんなことになったのか、検討がつかない。


 一体、俺が何をしたと言うんだ。


 その気持ちはいつしか女の子への怒りにも似た何かとなっていた。それがどんなに的外れなのかを分かっていても、この気持ちを持って行く先はそこ以外に無かった。俺はこの問題を他人ひとの所為にして、その問題から逃げたのである。


 結果、話すきっかけが更に減った。本当は普通にしていれば良かったのかもしれない。けれど、今、彼女に話しかけたら、喧嘩腰になってしまう、そんな気がした。


 そうして、その日は必要最小限にも満たない——生活にそれなりの支障が出るくらい——の会話しかしなかった。



 翌朝、目が覚めたら、窓の外から柔らかいノイズが聞こえてきた。


 本日は雨らしい。


 風も無い。サー、と雨の音だけがしている。


 時刻を確認しようと起き上がる。その時、部屋の戸がノックされた。


 あまりにも唐突だったから、ビクリとした。この家には俺を除いて一人しか人間がいない。つまり、戸の向こうにいるのは"女の子"である。思考が進むにつれて、遅延性の驚きがやってきた。


 聞き慣れた声がする。

「ミズキ、ちょっと良いかしら? 」

震えがちな声は、いつも高圧的な女の子らしくない。あんなことがあったのだから、当たり前っちゃ当たり前だ。


 どうしたら良いのか、戸惑いつつも俺は答えた。

「あ、うん。」

ここで彼女を拒絶したら、二度とまともに会話をすることは無いのではないか。そんな不安からの答えだったのかもしれない。間抜けと言われれば、否定はできない応答だ。そのくらい動揺しているのである。


 彼女はそれに対して何も返答しなかった。


 こちらから戸を開ける勇気は無くて、その前で立っていた。彼女はどこかへ行ってしまったのではないか。そんなことを考え始めたとき、戸が開いた。


 彼女の表情には不安と緊張が滲み出ていた。それを見て、どういう訳か安心してしまった。

「どうしたの? 」

できるだけ心配しているように言った。


 果たして俺は彼女を心配しているのか。嫌な疑問が残る。いや、本当に心配している対象は自分だろう。人間、自分が一番可愛いのだ。


 そして彼女はそれにも答えず、俺の方に向かってくる。


 ――時が止まったような静けさが漂った。


 ——そのあと、何が起きたのか、暫く分からなかった。

「………………ど、どうした、の? 」

恐る恐る、聞く。


 彼女の細い腕が俺の背中に回されていた。俺の視界は彼女の腹部から胸部で埋め尽くされている。つまり彼女に抱かれていたのだ。


 彼女の方が身長が高い。肩の下辺りに、彼女の上腕が触れた。額の上で、彼女の吐息が聞こえた。「ごめんね。こんなお姉ちゃんで、ごめんね。」と呟く声が聞こえる。


 きっと彼女は泣いている。そんな気がした。


 そっと、彼女に抱き付く。とはいえ、身長は俺の方が低い。彼女の脇腹に腕を回す、という構図になる。


 そしてそのまま彼女の胸に頭を埋めた。鼓動の音と共に、彼女のぬくもりが伝わってくる。


 決して、思い詰めている女の子を見て、守ってあげたいとか慰めたいとか、そういうことを思ったのではない。


 俺は小さく、「お姉ちゃん。」とだけ言った。それは彼女の胸を防音壁にして、彼女の耳には届かなかったのかもしれない。でも、その方が良い、という思いがあった。


 それから、女の子泣き声が聞こえてきた。


 大泣きというやつではない。もしかしたら泣いていないのかもしれない。だが、呼力の入り具合とか呼吸の仕方とかが、その音を泣き声なのだと思わせるのだ。


 どれだけの時間が経ったのか、彼女が口を開いた。今度ははっきりと聞こえる声で言う。独り言でないことは分かった。

「ねえ、私はあなたのお姉ちゃんなのかしら。」

泣きそうな声である。泣いているのかもしれない。

「え……」

俺は言葉を詰まらせた。


 今までは、あくまで姉妹の振りであった。そのはずだ。そして、ここで”はい”と言ったら、俺は彼女を姉と認めることになる。感情の面ではそのことに全くもって異論は無い。けれど理性、いや仕様も無い打算が異論を唱える。


 ”一応姉妹”程度の距離感の方が融通が聞くのではないか。あえて焦らした方が今後彼女に要求を通しやすいのではないか。いざこざに巻き込まれないためにも、今は認めない方が——


 結局、俺は小心者だった。実に卑怯者だった。

「——私は……」

そこまで言って言葉を止めた。

「そう、そうよね。ごめんなさい。変なこと聞いちゃったわね。私達は形の上での姉妹よね。」

彼女の声がした。


 ——俺は彼女に答えを言わせたのである。彼女に答えを考えさせたのである。


 俺は最低だろうか? ああ、最低だろう。


 これで、俺と彼女は一応姉妹という関係が続けられる。更に俺は一言も姉妹ではない、と言っていない。彼女が言わせたのだ。


 最高に最低な手段である。


 ここまで来ても、俺には成り行きに任せるくらいしか能が無いのだ。色々と可能性を考えても、それを実行する勇気が無いのだ。


 彼女は俺から手を離す。


 彼女の方を見たら、部屋から出て行くところだった。後ろ姿しか見えない。

「今日は午後からにしましょう。」

女の子が戸を閉めながら言った。


 戸が閉まる音ともに沈黙がやってくる。雨音がやけに大きくなったような感じがする。


 ベッドに寝っ転がり、天井を見上げる。顔にかかった前髪を払い除けた。


 大きく溜め息をいた。


 窓から見える空には、雲がずっしりと居座っている。灰色の雲底には凹凸が殆ど無くて、のっぺりとしていた。


 ずるずると重い時間が流れ、体感では1刻が経つ。


 女の子がいたらちゃんと話そう、という決意と、いないで欲しい、という愚かな願いを胸に、廊下に出る。


 愚かな願いの勝利であった。


 薄暗い廊下には人影が無く、時計の駆動音だけがあった。


 隣の部屋——女の子の部屋——の前に立つ。


 ノックしようとして躊躇した。けれど、確認しておきたくて、ノックをすることにした。


 反応は無かった。


 意を決して戸を開ける。


 しーん、というオノマトペが相応しいだろう光景が広がっていた。


 そこには誰もいなかった。


 ああ、やっぱり。


 彼女がいなかったことに若干の安心感を覚えつつ、部屋を出る。


 更にその隣の部屋に行く。多分、そこは倉庫だ。まず、彼女はそこにいないだろう。


 案の定、ノックをしても反応が無かった。戸には鍵がかかっていて開けられない。試しにドアに耳をつけてみたけど人の気配は無かった。


 1階に降りることにした。


 なぜ彼女を探しているのか。


 そんな疑問を、階段を踏みしめながら、感じる。


 それには答えは見いだせないまま1階に来てしまった。”何となく”では説明ができない、使命感にも似た何かがあった。


 ここ1ヶ月の間に、こんなにも彼女に依存していたのか、と実感する。考えてみれば、俺の生活は彼女ありきだった。なのに俺は彼女を裏切ったのだ。


 感情が二転三転していた。怒ったり心配したり悲しんだり、と。


 とにかくあの女の子を探さなければならない。


 その思いだけは確かだった。


 1階の全ての部屋を探して周った。道に面した店側から最奥の土間まで、全てだ。ところが、彼女は見つからなかった。


 ただ一つ探していない所があるとすれば……2回の倉庫である。


 もう一度、あの部屋に行ってみよう。


 そう階段を登ろうとした時、上から足音がした。見れば、女の子がいた。

「あ……」

「あの、ね。」

そう言いながら彼女が階段を下ってくる。

「うん。」

「学校って、興味ある? 」

「ある……かしら。」

何の脈絡も感じられない質問。そんな答えしかできなかった。

「1ヶ月くらい先になるんだけど、行ってみない? ちょっと遠いから寮に入ることになるけど。」

ああ、"厄介払い"ってやつか。ピンときた。

「そうね。行ってみたいわ。」

彼女にこれ以上迷惑をかけたくはない。払われることにした。

「そう、良かった。」

彼女の顔色が少し明るくなる。


 ああ、やっぱり。そうだったのか。


 チクリと胸を刺す物を感じる。ただ、それが間違ったことだとも思えないのである。


 黒い塊が残る。そんな感じだろうか。釈然としない、消化不良な感情を残しつつ、彼女との生活は再開した。


 午前中、彼女は出かけるそうで、昼までは留守番となった。二人でも広いと感じる家に一人というのは、中々寂しいものではある。しかし今日に限っては、一人の方がまだましな気がした。


 昼には彼女がいつもの高圧的な態度を取り戻していて、形骸的ではあるけれど、いつものようなやり取りをする。


 店の営業には特に支障は出ず、とはいえ雲の晴れない1日が過ぎていった。


 そして、彼女との関わり方は、分からず終いなのであった。

実は0時過ぎにアップしようと思っていたのてすが、忘れていました。12時間遅れです。土曜日なので許してください(笑)

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