楽園の裏側
女の子って大変だ。
俺は女子高生になって初めて、そう思う。
漫画やアニメで見てたような、綺麗で可愛い世界じゃないのはわかっていたがこうも打ち砕かれると少々へこむ。
前の俺が女の子に免疫がなかったせいか、少し夢を見過ぎていたようだった。
それをまどかに言うと、まどかは呆れたような顔で「女だって人間なんだから、当たり前じゃない」と返された。
正論である。
しかし、夢を打ち砕かれながらも胸をときめかせずにいられないのは男の性なのか。
俺は聞こえてくる会話を聞かないようにしながら、視界の端にちらちらうつるカラフルな光景を堪能していた。
「あ、その下着可愛い」
「でしょー。おニュー」
恥ずかしげもなく見せ合うそれは、まぁ、男の憧れのそれで。
母ちゃんの下着を見ただけでいたたまれないような、そわそわするような小心者の俺にはそちらを確認する度胸はなかった。
「てか、体育だるーい」
俯きながら着替える俺の耳には、男心をくすぐる衣摺れの音。
見たい気持ちがなくもないのだが…なんていうか、なんの恥じらいもない女子達にあまりがっかりもしたくないのでぐっと我慢している。
俺は、女の子に夢見たままでいたい。
「莉子ってば、また大っきくなった?」
「ひゃっ」
そそくさと着替えを進める俺の背後から、まどかがひょっこり顔を出す。
幼馴染とは、こんなに距離が近いものなのか。
俺は無防備な姿のまどかが近くにいるという、それだけで動悸がとまらない。
心臓が止まってしまいそうだ。
そんな繊細な俺の心を微塵も察することなく、まどかは俺の服をまくりあげ、下着にダメ出しをする。
「今時白なんて誰も着ないよー…かわいくなーい」
確かにどいつもこいつもカラフルな色ばかり。
俺の夢見たヒロインは下着は白か淡いパステルカラーだったのに。
大人しい顔した女子すら、下着は肉食系だった。
…スポーツ下着の女子も若干名いたがかなりの希少種だとだけは言っておこう。
「ほ、放っておけよ…っ」
こんな、男にとっては夢にまでみた楽園だというのに…。
俺は己の姿が悲しい。
何が楽しくて、夢に見た楽園に出てくる下着を、俺が着用しているんだ。
見た目が美少女のせいで、自分の体を見るのさえ罪悪感を感じた。
「胸って揉まれると大きくなるらしいよ」
どこかの誰かがそういう。
そういえば、昔俺ら男子の中でもそういう噂があった。…真偽を確かめることは出来なかったが。
(女子もこんな話するのか…)
そんな下世話な噂で盛り上がっているのが、男だけじゃないとわかって、俺はちょっと驚く。
女の子って、もっとませた会話をしてるのかと思っていたが、男となんら変わらないんだな。
男がアレのサイズをステータスにするように、女の子は胸のサイズがステータス、みたいなところがある。…らしい。
更衣室の中がたちまちサイズの比べ合いの声であふれた。
「やだー下品ー」
「ねー誰か試してよー」
みんながけらけら笑うのを横目に、まどかが本当かなぁ…と呟いたのは俺の心にしまっておく。
まどかはそのサイズが1番いいと思うぞ、俺は。
「海ー」
どすん、と背中に重みがかかって海は眉根を寄せた。相手がどうとかじゃない、普通に重い。
海にのしかかってきたのは、あんまり仲も良くないクラスの男子だった。
海は愛想が良い方ではないので、この手の絡みは珍しかった。
「可愛いよな」
「は?」
「相沢さん!」
海の幼馴染、相沢 莉子はよくモテる。
放課後の告白もざらで、幼馴染である海を利用してアピールしようと企むやつも少なくなかった。こいつもそのパターンか、とため息をつきかけたがその前に言葉を重ねられたので、思わず動きがとまる。
「何より、胸が大きい!」
別なとこから野郎の声で「わかるー」と同意の声が聞こえてくる。
くだらないことではあるが、男子の間ではどの女子が胸が大きいだとか顔が可愛いだとかそんな話題しかあがらないのだ。
もう何度目かしれないその話題に、海自身は全く興味がなかった。
そもそも、莉子本人は女が好きだと豪語しているのだ。胸の大きさはなんのステータスにもならないだろう。
「でもさ、胸と言えば堂本さんだよな」
「あー、隠れ巨乳!」
堂本、といえばクラスメイトの中でもあまり目立たない方の地味な女子だ。
確か図書委員だったか。
男共は隠れ巨乳、という男心くすぐられるワードに興奮したようで、クラスの女子の胸をあーでもないこーでもないと予想して笑っていた。
…なんというか、男子とは幼稚な生き物だ。
同じ頃、女子更衣室でも似たような話題になっていることも知らず、海はため息をついたのだった。




