お悩み相談室
俺は頭を抱えていた。
(…恋の応援って…なにするんだ…?)
まどかに喜んで欲しくて、ついつい応援するなんて口にしたものの…何度も言うが、俺は恋愛経験ゼロだ。
美少女になってしまった今も、恋というものはイマイチわからないし、ましてや海に対する恋愛の手助けなんて出来るわけがなかった。
俺が考える世間一般の男への対処と海への対処は、扱いがもう別ジャンルなのである。
俺がされて嬉しいことはいくつもアドバイス出来るが、海がされて嬉しいことは何も思いつかなかった。
(…アピールって言っても今更だしな…)
俺たちは、好きなものも嫌いなものもお互いに知っている。
まどかが料理上手なことだって、習い事やお洒落や…色んなことに一生懸命だってことも、とっくに知ってる。
だから、今更良いところをアピールするのもなんか違う気がして、俺はやっぱり頭を抱えた。
そもそも、俺はどうしたいのか。
正直まどかを応援したい気持ちは山々だったが、海とまどかが付き合ってしまったらどうしよう、という気持ちの方が大きかった。
今までと同じように3人で楽しく過ごしたいのに、2人が付き合うなら、
(どう考えても俺邪魔だよなぁ…)
傷つくまどかは見たくない。
でも、2人の邪魔者になるのも嫌だ。
3人でいたい。
…俺は、何度目かしれないため息を吐き出した。
「…あの、」
「…はあ…」
「あのー」
俺がため息を吐き出すと、どこからともなく声が聞こえた。
頭を抱えた格好のままだった俺は、そこでようやく顔を上げる。
「ボール、返して欲しいんすけど」
顔を上げれば…そこにはイケメンが困った顔で佇んでいた。
海や貴之とはまた違う、新しいジャンルのイケメンだ。
スポーツマンらしく短く切り揃えられた黒髪。
柔和な雰囲気が滲む顔は全てのパーツがバランスが良く、くっきりとした二重が印象的だった。
何より、貴之を凌ぐほどの高身長。
加えて、しっかりとついた筋肉。
絵に書いたような、スポーツ系爽やかイケメンだった。
(またイケメン…この学校、何人イケメンがいるんだよ…)
部活の途中らしく、白のユニフォームに身を包み俺を見下ろすそいつは額に滲む汗を拭いながら、再び俺に向かってボール、と呟いた。
そうしてようやく、俺は自分がどんな状況だったかを思い出す。
(考え事してて…歩いてたらボールが…)
まどかの恋の応援に頭を悩ませ、気分転換のつもりで歩いていると足元にバスケットボールが転がってきたのだ。
それを拾いあげようと、屈んで…今に至る。
俺の手の中には、バスケットボールが収まっていた。
「…あ、ごめん!ほら返すよ」
ボールを抱えたまま呆けていた俺に、この爽やかイケメンが声をかけたわけだ。
ユニフォームも着てるし、ボールの主であることに間違いはない。
「ありがとうございます!」
「いや…考え事してて…悪かったな」
にこにこと人懐こそうな笑顔を浮かべた爽やかイケメンは、俺が放り投げたボールを危なげなく受け取って頭を下げた。
なんていうか…何の曇りもない笑顔だ。
「…あの。先輩、良かったら相談にのりましょうか?」
「へ?」
爽やかイケメンが、ただでさえ爽やかな見た目だと言うのに更に爽やかな笑顔を浮かべた。
俺がこういうイケメンな人生を歩んでいたら、まどかにも的確なアドバイスが出来たのだろう。
そう思うと、色々と切ない気持ちになった
「あ、すみません!俺、佐々木 智則って言います。1年で、バスケ部で、えっと…」
爽やかイケメン、もとい、佐々木 智則は俺が考えこんでいるのを不審に思っているものだと思ったらしく慌てて自己紹介をしてくれた。
バスケ部なのは見て分かるが…この高身長と体格で1年か…。
続けて、俺が自己紹介しようとすると智則にもう知ってます、と遮られた。
「噂になってますよ。歩くマネキンと夜の帝王を従えた女好きマドンナって」
「うわぁ…」
改めて言われるとすごい字面だ。
というか、俺はマドンナだったのか。
自分さえ知らない噂と、学年が違えど知らないものはいないという俺の知名度の高さに驚いた。
この美少女具合では仕方ないかもしれないが。
自分でいうのも何だが、俺はそれくらい今の自分の容姿に自信があった。
(…莉子が、恋愛経験でもあれば、アドバイスくらい出来たのに)
そう。
その美貌を持ってしても、恋愛経験というものはゼロだった。
俺の記憶の中で、莉子が恋愛をしたことはない。
彼氏はもちろん、彼女もいたことがないのだ。
モテないわけじゃないのに、何故。
…なんだか胸がチクチクしたが、俺は知らないふりをした。
「…なるほど。莉子先輩は、その友達の恋を応援しなきゃいけないわけですね?」
結局、俺1人ではどうしようもなくて智則に相談してしまった。
まぁ、今日初めて会ったような人間だしまどかや海と接点もないだろう。
それどころか、俺ですらもう一度会うかわからないくらいだった。
だからかもしらない。
思ったよりもすんなりと言葉が出てきた。
もちろん、本人達のために名前は伏せているが。
「正直、俺は恋なんてしたことなくて…」
そう言うと、智則は困ったように笑いながら頭をポリポリとかいた。
「…すみません。俺もないです」
「は?そんなにイケメンなのに!?」
俺は思わず智則に詰め寄ったが、智則は恥ずかしそうに頷いた。
こんなイケメンでも恋をしたことがないのだ、俺が恋を知らなくても仕方ない。
「そもそも、その相手の方はどう思ってるんですか?」
「…わからない」
智則の言葉に、俺はそういえば、と思いを巡らす。
海に、そういう恋愛の話が出たことはない。
彼女が欲しい、とか誰々が可愛い、とか普通の男が普通にしてそうな会話すらした覚えがないのだ。
それは俺が女だからなのか、それとも、
(海も、恋したことない…とか?)
爽やかイケメン、智則ですら恋をしたことがないのだ。
海が恋をしたことがなくてもおかしくはない。
「俺も恋愛の手助けなんてしたことないんですけど…相手の方を知るのも大事なんじゃないですかね?」
まどかのことも、海のことも、幼馴染としてよく知っているつもりでいた。
でも、こうなって俺が知らないことはたくさんあったんだって思い知らされた。
情報収集は何においても大事なわけで。
「…そうだな。まずそこからかもな」
俺に何が出来るかはわからない。
でも、まどかの背中を押してあげることは出来るから。
まどかが聞けないこと、まどかじゃわからないこと、それを知るのもきっと恋の応援になる。
男の俺だから、出来ることをするんだ。
「よし!元気出た!ありがとな」
「役に立てたなら良かった」
にこ、とこれまた爽やかに笑う智則に礼を言って、俺は教室へと足を向けた。
これで今後の方針が決まった。
焦りとか不安とか心配とか、全部見ないふりで俺はまどかの応援をすることに決めた。
その先がどうなるかなんて考えなかった。




