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混乱と思惑








まどかと口を聞いていない。

いつも一緒だった登下校も、時間をずらしているらしく(うみ)と2人きりの日が続いた。

(うみ)にまどかの様子を聞きたかったが、まどかが(うみ)のことを好きなんだと気付かされてから、気まずくて(うみ)ともあまり話していない。


貴之(たかゆき)だけが、あの日がなかったかのようにいつも通りで、その気遣いが嬉しかった。



「さっさと謝ればいいのに」



いつも通り、なんでもない様子で俺の教室にやってきて、いつも通り机を寄せて昼食をとりながら貴之(たかゆき)が呟く。

いつもは4人で机を寄せ合ってとっていた昼食の時間が、今は貴之(たかゆき)と2人の時間になってしまった。

気まずくて、まどかや(うみ)に声を掛けられないで避けてしまっている俺のせいだ。



(謝る、か…)



そう出来たら、どれだけいいか。

前の俺は色恋沙汰とは縁遠く、こんなトラブルに見舞われたことがない。

どう謝ればいいのか、その後、どう接したらいいのか…さっぱりわからなかった。



「そうはいかないだろ…俺、今までまどかに無神経なことしてた」



俺にとって、まどかも(うみ)も親友と呼べるほど仲のいい友達だった。


まさか、まどかが(うみ)をそういう目で見ていたとは。


俺の中で、過去の様々な思い出がめぐる。

何気ない言葉が、行動が、まどかを傷つけてはいなかっただろうか。


(うみ)を異性として意識したことがなくて、スキンシップだって、言葉だって、気にしたことがなかった。



(でも…そうだ、俺は女の子で…。まどかには、面白くない、よな…)



心が男だって、見た目は女の子だ。

好きな人に仲のいい女の子がいたら、気になるだろう。

…多分。

俺は初めて(うみ)と俺の、まどかと俺の、性別を意識した。


まどかも普通の女の子だ。

恋だって普通にする。



「女の子同士が何考えてんのか知らないけどさぁ」



貴之(たかゆき)はパックのカフェオレをすすりながら頰杖をついた。

顔には呆れが浮かんでいて、言われなくても思っていることは分かる。



「なんか…面倒くさいな」

「…俺も、そう思う」



女の子って面倒くさい。

いや、女の子だけじゃない。

人間って面倒くさいものなのだろう。

前の俺では経験しなかったあれやこれが、俺を混乱させている。

こんな面倒くさい関係を、悩みを、みんなは抱えて生きてきたのだろうか。

リア充も、楽ではないな。



「…まぁ、早めに解決して欲しいけど」



無理はしないように、と優しく笑った貴之(たかゆき)が俺の髪を撫でる。

同じ男だというのに、俺は不覚にもこいつのイケメンな行動にときめいてしまった。



(…っ危ない危ない)



イケメンパワーには、男も女も関係ないのだろうか。

何故か俺は動悸が早くなってしまって、慌てて頭をふる。

俺に、そういう趣味はない。


…でも、甘やかしてくれる貴之(たかゆき)の手が気持ち良くて俺はついついそのまま甘えてしまった。


貴之(たかゆき)が俺に好意を抱いていることを知っていながら、俺はそれに甘んじたのだ。



「…最低だ、俺…」



俺の呟きは、窓から吹き込んだ風にかき消された。















ふんわりと吹き抜ける風。

心地よいその感触に目を細めて、(うみ)は手元の本を閉じた。

もうそろそろお昼が終わる時間だ。

教室に戻らなくては。

1つ、ため息を吐き出して立ち上がれば、閑静な図書室には似つかわしくない姿を見つけた。



「うーみちゃん」

「…ちゃんはやめて下さい」



夜の帝王、羽賀(はが) 貴之(たかゆき)だ。

ここは図書室だが、本を読みに来たわけではないことはその様子で分かった。

(うみ)はそこらへんは鈍くはないつもりである。



「…莉子(りこ)は、大丈夫そうですか?」

「心配なら、自分で確認したらいいんじゃないの?」



唇の端を引き上げながら、意地悪気に笑う貴之(たかゆき)は…恐らく全てを察しているのだろう。

(うみ)が今まで沈黙を貫いてきたことの意味を。


…さすがに好意を抱かれていることに気付かないほど鈍感ではないのだ。


3人でいたいと思っていたのは、莉子(りこ)やまどかだけじゃない。



「まぁ、それほど心配してはいませんよ」



貴之(たかゆき)の責めるような視線に、(うみ)はため息を返した。


心配なんてしていない。

莉子(りこ)やまどかが強いことなんか、幼馴染の自分が1番よく知っているのだから。

あの2人を信頼している。



莉子(りこ)なら、大丈夫です」



自分が手出ししなくてもどうにかなることは分かっている。

だから、あえて自分は手を出さない。

自分が出しゃばってはいけない。



「…(うみ)ちゃんさ、結局誰が好きなの?」



不審そうな顔をした貴之(たかゆき)の問いに、(うみ)は一瞬驚いて、それから笑みを浮かべた。

仮に誰を好きでも、この場で貴之(たかゆき)に伝えることに意味はない。

伝えたところで、何も解決しない。



「…誰も、好きじゃないですよ」

「それはどういう意味?」



貴之(たかゆき)の質問には答えなかった。

これ以上は答える気がないことがわかったのか、貴之(たかゆき)もため息を吐き出して踵を返す。

そのまま立ち去るのかと思いきや、貴之(たかゆき)は振り返ることもせずに、ただ一言呟いた。



「…俺は、本気だから」



その宣戦布告を受けて、また(うみ)はそっと笑みを浮かべる。

それをどう受け取ったのか知らないが、貴之(たかゆき)はもう何も言わなかった。


その背中を見送って、(うみ)も外へと足を向ける。



(うみ)は、ただただ2人が大切だった。


自分の何をおいてでも、守りたいと思っていた。



(…俺の気持ちは重要じゃない)



だから、自分が壊すわけにはいかない。


時間を確認するために見た携帯の画面では、幼い自分達が笑っていた。









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