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不穏




「あの子、面白いな」



いつもの昼休み。

俺とまどかとすっかり常連になってしまった貴之(たかゆき)が3人で机を寄せて昼食の準備をしていた。

(うみ)はジャンケンで負けたので4人分の飲み物を買いに行っていて不在。彼が戻るまではお昼はお預けである。



堂本(どうもと)さん?」



最近の貴之(たかゆき)は、綾乃(あやの)がお気に入りのようだった。

ノートの一件以来、綾乃(あやの)は特に貴之(たかゆき)を見ると逃げ出してしまうのだが貴之(たかゆき)はそれをからかうのが面白いようだった。

結局、ノートの中身はわからなかったが、あの様子からすると相当恥ずかしいことが書かれていたんだろうと思う。

中身を聞くことをしなかったのは俺の優しさだった。



「今度、お昼に誘ってみるか?」

「…嫌」



貴之(たかゆき)がそんなに気に入っているのなら、今度お昼の時間に誘ってみようかと俺が提案するとまどかが拗ねたような顔をした。

そういえば、綾乃(あやの)の話をするときはいつもこんな顔をしている。

前まではこんなことなかったはずなのだが、まどかは綾乃(あやの)と仲が悪かっただろうか。



「この前からずっと機嫌悪いな?」



珍しく思って俺が声をかけると、まどかは居心地の悪そうな顔をした。

まどかは理由もなく人を嫌ったりしない。

きっと何か理由があるんだろうと思う。


しかし、まどかと綾乃(あやの)では接点がなさすぎて俺には何も思いつかなかった。



「まぁ、なんか理由があるんだろうけど…堂本(どうもと)さん、嫌な奴じゃないぞ?」



俺の言葉に、まどかはぎゅっと唇をひき結んだ。綺麗に赤く色付いたまどかの唇に目がいってしまって、心臓が跳ねる。

意識してしまった自分を切り替えるために、咳払いをしたが、なんだか上手くいかなかった。



「…わかってるけど、」

「?」



まどかには珍しく言葉を濁す。

話したくない、そんな様子が見て取れた。

3人に微妙な空気が流れ始めたとき、ガラリと教室の扉が開いて(うみ)が戻ってくる。



「おかえり、」

「おー」



(うみ)は微妙な雰囲気に多少首を傾げたが、あんまり気にした様子もなく席についた。

それぞれがリクエストをした飲み物を、オーダーの通り買ってきてくれたのだが、余分に一本、普段は誰も購入しない飲み物があった。



「あれ、いちごみるくなんて誰か頼んでたっけ?」



薄いピンクの可愛いパッケージ。

いちごみるくなんて、甘い飲み物はオーダーした記憶はない。

俺だけじゃなく、貴之(たかゆき)やまどかも首をふったが、(うみ)は平然とした顔でいちごみるくをまどかへ放り投げた。



「やるよ」

「え?」



まどかは戸惑った顔をしていたが、(うみ)は気にした様子もなく自分のお昼に持ってきた惣菜パンを開封する。



「好きだろ、それ」

「好きだけど…」

「機嫌直せよ」



呆れたように笑う(うみ)に、俺は感心してしまった。

忘れていたが、こいつはイケメンだった。

こんな、ドラマみたいなイケメン行動が出来るのはイケメンだけだ。

さすがと言わざるを得ない。

貴之(たかゆき)も俺と似たような事を思ったのか、にやにやしながらさすがイケメンと揶揄ったが、俺からすれば貴之(たかゆき)もイケメンだ。

おまえが言うなよ、とツッコミたくなってしまう。

肝心のまどかはというと、一瞬惚けたような顔をして、すぐに首まで真っ赤に染めた。

こんな反応が、やっぱり女の子だなと思う。



「こ、こんなに飲めるわけないでしょ!」

「いらないなら俺もらうけど」

「っ、いらなくないしっ」



やっぱり、(うみ)はまどかの扱いがうまい。

あんなにふて腐れた顔をしていたのに、まどかはもういつものまどかに戻っていた。

幼馴染といっても、この2人のこういう関係に俺は入れなかった。



(…俺は、2人にとってどういう存在なんだろ)



笑い合う2人の姿に、もやもやした。




「…(うみ)、誰か女の子と付き合ってみたら」




…だから、これは俺が悪かった。

もやもやした気持ちが、いい感情じゃないのはわかっていた。

ほぼ、八つ当たりのような気持ちで、口をついて出てしまったのである。

例えばそれが綾乃(あやの)であるとか、そういうことは言わなかったとはいえ、俺の失言だったことは後々痛いほど感じた。


まどかの、表情を見たその時に。




「…なんで?」



疑問の声は、(うみ)本人からではなく、まどかから上がった。

さっきまでの楽しげな雰囲気が一瞬で変化して、一発触発とでもいうようなピリピリとしたものになる。


貴之(たかゆき)がため息まじりに、これは莉子(りこ)ちゃんが悪いと思うけど、と呟いているのが聞こえるが返事を返す余裕がなかった。



「どうして、そういうこと言うの」

「まどか…」



俺を睨みつけるまどかの目に涙がたまる。


怒りか悲しみかはわからないが、まどかの声が震えた。

教室だとか、もう場所なんて関係ないとでも言うように勢いよく立ち上がったまどかはそのまま、走り去ってしまう。


追いかけることなんて、…出来なかった。



(…胸が、苦しい)



あんなまどかは初めて見た。

もうそれだけで十分だった。


どんなに鈍い俺だってわかる。


まどかは、




「…(うみ)、追いかけて…あげてくれないか?」



(うみ)が冷静な態度を崩さずに、俺を見る。

俺が追いかけていいのか?、と言外に問われているのがわかって、俺はただ頷いた。

(うみ)の顔が見れない。

どんな、顔をしているだろう。



(…だって、俺は追いかけるなんて、出来ない…)



胸がざわざわする。

どうしたらいいかわからなくて、だから何もしない選択をした。


(うみ)がため息をはいて、教室を出ていく。

まどかを追いかけてくれたんだろう。



「…残酷なことさせるなぁ」



黙って見ていた貴之(たかゆき)のその言葉が、誰の為の言葉なのか…この時の俺は知る由もなかった。
















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