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図書委員






「お願い、」



おさげ髪の彼女ーー堂本(どうもと) 綾乃(あやの)が涙に潤ませた目で俺を見る。

彼女は俺の手に指を絡めて、自身の胸へと引き寄せた。

ふくよかな胸の感触に、心臓が爆発しそうだった。

ドキドキと、耳元で鼓動が聞こえているような気さえする。



堂本(どうもと)さん、こんなところで…」



誰もいないとはいえ、ここは図書室だ。

誰が訪れてきてもおかしくはない。


いつもなら立ち寄らない静かな空間と本の独特の匂いに、俺は背徳感を覚えた。



「誰に聞かれるか、」

「いいの!もう我慢出来ないから、」



綾乃(あやの)が俺の手をパッと離し、顔を赤くする。

綾乃(あやの)自身は目立つ容姿ではなかったが、恥らうその姿はとても可愛らしかった。



「はやく、」



それだけに、俺の苦悩は尽きない。

これが、俺へ向けたアピールだったら嬉しかったのだが。



(うみ)くんのこと、教えて!」










事の発端は、数日前。

俺とまどかが、ゴミ捨てを(うみ)に押し付けた日から始まる。

あの日、図書委員の活動に出ていたはずの綾乃(あやの)は、顔を真っ赤にして教室に駆け込んできた。


尋常じゃないその様子に、(うみ)を待っていた俺とまどかは心配したのだが。

興奮冷めやらぬ、といった様子で綾乃(あやの)は呟いたのだ。



「好きになっちゃったかも、」



誰を、と聞く前に綾乃(あやの)は真っ赤な顔のまま、目を潤ませて俺に詰め寄った。


「お願い、(うみ)くんのこと教えて!」と。



普段は、とても大人しく控えめで目立たない綾乃(あやの)だが好きな人のことになると周りが見えないらしく…そのエネルギーに押されて俺は頷いたのである。

何より、(うみ)に彼女が出来るのはいいことだ。


何故かまどかはそれが気に入らなかったようで、彼女に協力するなんてとんでもないとぶすくれていた。



ーーと、まぁ、そんな経緯を経て、図書委員である綾乃(あやの)の放課後の予定に付き合って図書室での尋問に協力することになったわけである。



「ええっと、何から教えればいいのかな?」



俺と(うみ)とは幼馴染だし、大抵のことはわかる。

とはいえ、知っているのは好きなものだとか、嫌いなものだとか、どうしようもないことばかりだった。

改めて教えられることは、特にないような気がした。



「なんでもいいの!」

「えー?大したことは知らないんだけど…甘いものが好きとか、そういうの?」

「甘いものが好きなの!?」



綾乃(あやの)はパッと顔をを輝かせて、可愛い!ときゃあきゃあ喜んだ。

恋する女の子の、パワーというかエネルギーはすごいものがある。

圧倒されて、俺は聞かれるがまま(うみ)の個人情報を口にした。


好きな本の作者だとか、犬が嫌いなことだとか、まどかの扱いが上手いことだとか、本当に大したことない情報だ。



「ああ、そういえば…(うみ)にしては珍しく貴之(たかゆき)先輩には懐いてるかもしれないな」



(うみ)はそもそも、あまり人付き合いを好まない。

色恋に巻き込まれたりするのが面倒だからだと聞いたことはあるが、(うみ)の雰囲気があまり人を寄せ付けない、というのも原因ではある。



「態度はひどいんだけど、嫌いじゃないみたいかな」



俺がそういうと、意外だったのか綾乃(あやの)が真っ赤な顔のまま目を見開いた。


…なんか、嬉しそうなのはなんでなんだろうか。



「た、貴之(たかゆき)先輩ってあの貴之(たかゆき)先輩…だよね?」

「うん。なんか、思ってたよりいい先輩みたいで(うみ)のこと可愛がってるみたいだけど」



悪い噂が流れる貴之(たかゆき)ではあるが、根がいい奴なのは(うみ)も理解したらしい。

最近では、貴之(たかゆき)に構い倒されて憤慨する(うみ)の珍しい姿が見られるようになっていた。

幼馴染のそんな姿は新鮮な反面、小さいころを思い出して懐かしくもなる。



貴之(たかゆき)先輩、小型犬とか好きみたいだし」



小生意気な(うみ)が弟のように可愛いのだろう、というと、聞こえてるのかいないのか、綾乃(あやの)が悶絶していた。



「だ、大丈夫か…?」



恋する女の子とは、みんなこんなものなのだろうか…。

悶絶するその様子に心配になってきてしまう。

まぁ、幸せそうな顔をしてるので大丈夫だとは思うが。



「なぁ、こんな情報で大丈夫か?」

「…うん!すごく助かる!」



にこにこと笑う綾乃(あやの)の顔はまだ赤い。

(うみ)の奴も中々罪作りだな。

こんなに思われているなんて、と考えて俺は不意にまどかの顔が浮かんだ。


まどかとばらばらに過ごす放課後はあまりない。

いつも、まどかや(うみ)と一緒で別の誰かと過ごすのは本当に珍しいことだった。



(まどかは今頃何してるんだろうな、)









道端の石ころを蹴り飛ばした。

隣を歩く(うみ)の足にその小石があたり、跳ね返って溝へと落ちていく。

それを目で追って、まどかはため息をついた。



「何でいじけてんだよ」



しょうがない、とでも言いたげな様子で(うみ)がため息をつく。

いつも通りの帰り道。

莉子(りこ)が図書室に連行された為、(うみ)と2人きりの帰り道だった。



莉子(りこ)を取られたぐらいで…子どもじゃないんだから」

「…違うし」



(うみ)には、言えなかった。


綾乃(あやの)の恋心に、不快な気持ちを覚えたことなんて。もやもやなんてレベルじゃない、罵ってやりたいくらい凶暴な感情が湧き上がったのだ。


誰にも、壊させたくない。

誰にも、入ってきて欲しくない。


3人の関係に、綾乃(あやの)をいれたくなかった。



「機嫌直せよ」



子どもをあやすように、(うみ)がため息をついて頭をくしゃくしゃと撫でてくれる。

骨ばった、大きな手のひら。

男の子の、手。


どきん、と鼓動が跳ねたような気がした。



「子ども扱い、しないでよ…」



子ども扱いして欲しくないと思いつつも、それを嬉しく思う。

(うみ)がそういう扱いをするのが自分だけだと、知っているから。



莉子(りこ)は、(うみ)が取られてもいいのかな)




(私は、)






切なくて、胸が痛んだ。







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