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ワールド・ウイルス  作者: AT
ルート1 バスタータンジョウ!
9/50

イヤナヤツ

 拳を叩き合わせる音が響く。まるで鉄と鉄が打ち合う音。ベテッサの奴は息を吐き、気合いを入れている。首を回しポキポキと音が鳴る。右手の人差し指を立てて、かかって来いと指を振ってくるが、俺がそんな挑発に乗るか。


「いきなり出て攻撃とは、ふざけた奴だな。ちゃんと紹介されるってコンさんは言ってたが、これがその挨拶なのか?」


「堅っ苦しいのは好きじゃねえんだ。手合わせが挨拶代わりだ。つっても本気で来ねえと、俺は殺す気だからな」


 見た所、あいつのグローブは俺のブーツとよく似ている。どうやって衝撃波を出したか分からないが、他に何も持ってない所を見ると、あれから出したと考えられる。ここではそんなことも出来るのか。


「しかし、不意打ちを狙って外すとは……実力で選ばれたと言ったが、大した事無いみたいだな」


 煽るのは好きじゃないが、こいつの性格からしてよく効きそうだ。だが意外と冷静に返して来た。


「はっ! あの攻撃くらい避けてくれないと。それに俺達が相手にするのは、ルールを守る選手じゃねえ。卑怯者だ」


 卑怯か……嫌いな言葉だ。サッカーの時にわざとファウルをする連中と同じだ。無性に腹が立つ。


「俺は卑怯者は大っ嫌いだ!」


 足に力を入れ、地面を強く蹴っ飛ばしながら走る。あいつは拳を構える。飛んで来る俺を正面から止める気か。右足を前に出し、蹴り飛ばそうと構えたが、奴は大きく振りかぶり殴りつけた。俺の足と激突し、衝撃が空気に伝わっていく。物凄い力だ。ダウンロードした武器だからおそらく上がる力は同じだ。それに自分の力が足される。だが俺は助走ありの攻撃だぞ。こいつの馬鹿力とはこれ程あるのか。余裕な顔をしてやがる。


「どしたどした!? 随分と苦しそうだな!?」


 余裕過ぎて煽ってきやがった。ならばと俺は左足を地につけ、奴の背を飛び越し、後ろからのかかと落としを決める。だが間一髪で両腕でガードされてしまった。奴は怯まず右足を掴み、ぐるぐると回され下に叩きつけられた。


「……う!」


「オラオラ! まだギブアップするなよ!」


 足はまだ奴に掴まれた状態だ。このまま二度も食らってたまるか。掴まれている所は足といっても外側はブーツだ。


「ダウンロード解除!」


 足に付いたブーツは外れ、奴の手からスポッと抜けれた。投げ飛ばされ、転がっていく。すぐに攻撃が来ると思い、構えたが奴は拳を俺に向けていた。


「空気砲! ロケットパンチ!!」


「何!?」


 衝撃波が飛んで来た。さっき見たのはこれだったのか。もはや足で支えるのは無理だ。吹き飛ばされ、ビルの壁にぶつかる事でようやく止まった。


「……てえ、何だよズルくねえか?」


「ダウンロードの使い方が素人ちゃんだなぁ。やっぱり女だったか!?」


 一番言われたくないセリフだ。女扱いされるのは本当に嫌だ。特にこいつにはされたくない。


「しかし、顔に似合わず喧嘩慣れしてるな」


「慣れてなんかいねえ!! 俺は……ただ……」


 あまり昔の事を言いたくない。あの時の記憶が蘇る。血まみれの部室。仲間と思っていた奴等は倒れ、俺は……忘れている。俺ばかり見てたこいつは、ミカの事を忘れている。


「私と戦ってる最中に……許さない」


 いつの間にかミカは、拳銃に何かを取り付けている。あれはゲームで見た事がある。音を消す為のサイレンサーだ。ミカは音を消して弾を撃っているが、発射された後すぐに止まっている。それが何発も並んで浮いた状態だ。ようやく気付いたベテッサは、額から汗を流す。


「……やべえな」


「ハチの巣になれ」


 弾のスピードは上がり、元の速さでベテッサの奴に飛んで行く。ベテッサはギリギリに避けた。


「っぶね! 流石ミカちゃん。俺のハートをそんなに狙いたいのかい!?」


「………死、あるのみ。二手目発射」


 ミカが手を指した方にも弾が浮いている。違うところにも銃弾を仕掛けていた。これは流石に避けれないと思った。だが奴は飛んで来る弾を次々と掴んでいく。驚いた。奴は当たる弾を全て掴んだのだ。


「それなら俺は君のハートを狙うよ!」


 掴んだ弾を奴は投げ飛ばす。その速さは撃つのと変わらないスピードだ。しかしミカの元に飛んで行ったのは一、二発程度。全く別方向にいる俺の所まで飛んできた。


「そんなすげえグローブつけといて、ノーコンかよ!」


「うるせえな! そもそもグローブは掴むものだろうが! 細かいのは投げにくいんだよ」


「よそ見!」


 俺との会話の隙に、ミカはベテッサの後ろに着いた。奴は拳を振り合わしたが、それが来ると分かっていたミカは、頭を下げて銃口を顎下あごしたに突きつけ引き金を引いた。銃声が響き、ベテッサは倒れた。無論死んだ訳じゃないが、痛みは多少あるだろう。奴の負けだ。


「てめえ…二対一とは卑怯だろ!」


 さっき自分が言ったセリフを忘れたのか。それにどちらかと言うと、今のはミカのおかげだろう。そもそもこいつが俺ばかり狙ってくるからだ。


「卑怯じゃねえ。チームで強い方が勝ちだ!」


「……愛は必ず勝つ」


 ミカに変な言葉を追加されたがまあいい。こいつはまだ諦めていない様だ。


「上等だ! 二人共俺が相手してやるよ!」


 言った途端、世界は真っ暗になった。この感覚はどうやら現実に戻っている。目を開けると元のモニター室だ。


「はい終わり〜、ここまで〜」


 起き上がった途端、ベテッサは騒ぎ出した。


「ふざけるなよ! 何で終わりなんだよ!」


「陽夜君も大分慣れてきたわね〜。ネットに出入りするスピードが二人より速いわ」


 そういえば最初は眠った様になっていたのに、今はもうすぐにネットと現実に変わる。訓練を受けてた二人より速いなんて、何故俺だけ速いんだ。聞こうにもベテッサの奴がうるさい。


「話聞けよテハさん! 何で終わったんだよ!」


「はいはい緊急事態よ。リーダーの話を聞いてね〜」


「チッ……まあ今回は引き分けにさせてやろう。運が良かったな」


 負けてただろうがと言いたいが、俺はミカのおかげで勝てた様なものだ。


「俺達は敵同士じゃないんだ。勝ち負けなんでどうでもいいだろう」


「俺が良くねえよ! てめえになんか、アイタ!!」


「これ以上騒ぐなら、私が相手してあげるわよ」


「……す、すいません」


 コンさんの物凄い殺気に、思わず俺が謝ってしまった。肝心のこいつは謝っていないが。反省もせず自慢気に話を始める。


「まあ精神分離が出来れば、俺らの、いや俺の戦いはもっと楽になる」


「ベテッサ! 何故その計画を知っているの?!」


 コンさんが急に大声で怒鳴った。コンさんが深刻な感じを出している。どうやら知ってはいけない物らしい。俺達は聞いてていいのか。構わずこいつは話を続けた。


「研究員が話してるのを盗み聞きしただけだよ。ネットに行った俺らの精神と、現実にある俺らの肉体を切る。俺らは手足取れても痛みが無く、再生させれば戦いに支障は出なく、現実にも影響しない。戦いやすくなるからさっさと完成させてよ」


 確かに便利そうだ。前回の戦いで腕をやられた時も、俺は一時的にしか戦えなくなってしまったからな。本当に出来るならこの先も戦いやすく。


「それはもう無理だ。その件はすでに中止になった」


 それは親父の言葉だった。ベテッサだけは驚きを隠せず訳を聞いた。


「な、何でだよ!? ネットじゃカーレースで事故ったり、銃を撃たれても平気なら、俺らにも出来る様になるんじゃないのかよ?!」


「あれは体に当たってる訳じゃなく、プログラムで保護されているんだ。だから撃たれてもプレイヤーは平気なんだ。その保護自体をウイルスは感染させてくる。それに幾度も実験したが、ネットから精神が帰って来ず、二度と現実に戻れない。いわゆる死人になる」


「精神と肉体は結びつくから、切っても元に戻るんじゃ無いのかよ?」


「理論上ではな。だが現実では失敗だ。肉体無くしても精神だけボロボロになったら、それこそ死人になる。やっと戦える術を得てここまで来たんだ。未来の新たな一歩を踏み出す時は、危険を生じて行くんだ。この計画は危険過ぎる」


 親父が真剣になって言ってるんだ。俺は親父を信じる事にしよう。


「この話は終わりだ。たった今ウイルスが現れた。場所はネットの出会い場所、虹色の泉だ」


 新しいウイルス、そこは聞いたことがある所だ。


「ネットでは有名な場所じゃないか。何でまたそこに?」


「分からないが、バスターはウイルスを倒す事が先決だ。全員! 用意しろ!」


 俺達三人は特に用意する事は無い。あるのはサポートしてくれる人達だ。コンさんが最終点検の為に、俺達の近くに来てチェックしている。


「コンさん、一つ聞きたい事があるんですけど、今まで発生したウイルスはどうやって対処したんですか?」


「その位も知らないのか? ウイルスが発生した所は、入れねえ様にされてんだよ」


 ベテッサが自慢気に話して来るが、その位誰でも分かってる。なのにこいつの自慢気な顔がムカつく。


「それは分かってる。俺が聞きたいのはその時のウイルスはどうなったかって事だよ!」


「おそらくだけど、今でもそこにいるでしょうね。周りには特別なウイルスガードをしてるから」


「特別な……そんな凄いのがあるんですか?」


「ただウイルスがそこから出て来たら、音が鳴るだけよ」


「それの何処が特別なんですか?! 大丈夫なんですかそれで?」


「まあ危険を教えてくれるし、何よりウイルスは出て来てないの。いずれ行く事になるだろうけど、今は発生するウイルスを倒し、これ以上被害を出さないこと。被害があってもしばらくすれば元に戻せるから」


「すいません遅れました!」


 アワバさんが息を切らしながら、扉から入って来た。大分お疲れだったみたいだ。メガネがかなりズレている。メルグさんに言われて気付いた様だ。親父が高台に上り、皆に合図する。


「……ウイルスを退治し、世に安泰を! バスター出動!」


 目の前が真っ暗になるのは慣れた。気付くと不安定な足場に立っていた。俺は思わず倒れそうになる。辺り一面水だらけだ。そこに浮いていた岩のような所に立っている。二人も同じように近くにいた。


「……海? 何処に向かえばいい!?」


『海じゃないわ。ここはもう虹色の泉よ』


「ここが!? これじゃあ氾濫状態じゃないか!?」


 この場所はニュースでよく出てた綺麗な噴水が虹色に輝く所で、ネットの待ち合わせによく使われている。そこは水の底に沈んでいるのか。水の底を見ると一匹の魚がいる。突如水が形を変え、巨大な触手の様になって俺達を襲ってくる。俺達は後ろに飛び、触手をかわした。自分達がいた足場は粉々に砕けてしまった。


「……普通の銃じゃ無意味みたい。ショットガン、ダウンロード」


「ブーツ、ダウンロード!」


「俺様のグローブをダウンロード!」


 俺達はそれぞれの得意武器をダウンロードする。だが俺の場合、触手に捕まれたらアウトだ。さっきの戦いでベテッサの奴がやった様に、このブーツに何か取り付けてみよう。


「アワバさん、ブーツに刃とか付けれる?」


『オーケー! すぐに出来るよ』


 ダウンロードされるとつま先に刃が付いた。鋭く尖り、走るのに邪魔にはならなさそうだ。上から叩き潰そうと水の触手が三本降ってくる。ジャンプして一本の触手を切る様に蹴った。すると一本だけでなく、離れていた他の二本も同時に切れた。


「切れ味良すぎだろ!」


 休む間もなく違う触手が襲いかかる。蹴り回してるだけで触手は切れていく。便利だがミカに当たらない様にしよう。ベテッサの奴なら構わない。浮かんだ足場に乗るとミカも同じ足場に来た。周り一体に水の触手が現れ、俺達は背中を合わせて触手を倒す。ミカのショットガンで触手は弾け飛ぶ。俺の蹴りで触手は切れる。何度も倒しても触手は現れてキリが無い。


「……なんか変」


 ミカは呟いた。確かに水の触手は現れるだけで襲って来ない。俺達が攻撃を止めると下の地面から音が聞こえる。削れる音だ。


「しまった! 下も水だ!」


 足場は割れ、下から出て来た水の触手に、俺は気付くのが遅かった。ミカに肩を掴まれ投げ飛ばされた。ミカは触手に捕まり勢いよく投げられた。空に見えるがプログラムで作った空間。ミカは見えない壁にぶつかった。


「ミカ!?」


 ミカが体制を直そうと動こうとするが、触手がミカを狙って、勢いよく叩きつける。何度も叩きつけられ、ミカは煙に包まれた。

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