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ワールド・ウイルス  作者: AT
ルート1 バスタータンジョウ!
8/50

アラタナバスター

 我ながらよく眠る。ベットから出れない俺は時計を確認すると、十二時間は眠っている。本来なら学校に行く時間だが、左腕の麻痺が治らないので休みにされた。別に健康でも行きたくはないがな。そもそも俺はもう行く必要あるのか、ずっと考えていた。

 しかしこの部屋、広い割には何も置かれてないな。ベットとソファだけで勿体無い広さだ。自動ドアが開き、誰かが入ってきた。見た事ない男だ。ジーパンにサンダル、赤いシャツを着てよく目立ちそうだ。キョロキョロと見渡しながら誰かを探してる。身体を起こすと俺に気付いたみたいだ。


「お! 可愛い子ちゃん発見! 名前なんて言うの? 何処から来たの?」


 いきなり何だこいつ。この施設は一般人は入れない筈だから、ここの関係者なのか。どう見てもそうは思えないな。大体可愛い子ちゃんって誰だよ。


「ねえ〜無視しないでよ〜。今暇? 俺と遊ばね?」


 こいつ、俺に言ってたのか。俺を女と間違えるなんて呆れた……まあよくある話だった。しかし、一体誰なんだこいつ。また自動ドアが開いて、誰かが入ってきた。


「陽夜君起きた? 朝食の……何でここにいるのベテッサ!!」


 入ってきたのはコンさんだ。だが俺ではなく、男に向かって叫んだ。男は俺の名前を聞いて、何かに気付いた様だ。


「陽夜……て事はお前か? 親の七光りで選ばれたのは? 男だと思ってたが、まさか女だったとは……」


「俺は男だ!」


「男だと!? 見た目完全に女じゃん! 笑えるぜ! ハハハ!!」


 テメェが勝手に間違えた挙句、笑い者にしやがるとは、なんてムカつく奴。だが怒るのは俺じゃなく、コンさんの役目の様だ。


「貴方は違う部屋で待機してなさいと命令した筈よ。何故ここにいるの?!」


「俺はベテッサ。お前とは違い、実力で選ばれたバスターだ。分かるか? 実力、だ!」


 コンさんの質問を無視して俺に自己紹介をしてきた。色々と腹立つがとりあえず黙っておこう。


「ベテッサ! 聴こえてないなら、その飾りの耳を削り落とすわよ!」


「こ、怖えよ。コンさん。ずっと部屋にいるのつまんなかったから散歩してただけだよ」


 コンさんはたまに怒ると怖い言葉を発するんだ。正直怒られてない俺も怖かった。またまた自動ドアが開き、誰かが入ってきた。


「騒がしいと思ったら、起きたのね陽夜………べテッサ」


 今度はミカが部屋に入って来る。彼女も学校は休んだ。転校の次の日に休みは良くないと説得して行かせようとしたが、彼女は頑固に俺の看病をすると行かなかった。彼女もそいつの顔を見るなり睨みつけた。


「やあミカちゃん。俺がいなくて寂しかったかい?」


「寄るな……殺す」


 どうやら大分嫌ってる様だ。まあミカの気持ちも分かる気がする。俺も嫌いなタイプだ。


「怒らないでよ。ほら、笑顔を見せて、俺にしか見せない可愛い笑顔を」


「……お前がここにいる所為で、私の笑顔は消えた」


「ちょっとストップ! 部屋に続々と入って来てるが、俺は起きたばかりで頭が回らないから、何のこっちゃ分からん」


 とりあえず整理しよう。この男は勝手に入って来て、ミカは騒ぎを聞いて、とりあえずこの男は無視。コンさんが男を注意する前だ。


「コンさん、俺に何か伝えに来たんですよね?」


「ああ、そうだった。起きたなら食堂でご飯を食べて来なさい。お腹減ってるでしょ? あとこれはリーダーから」


 ポケットからカードを取り出すと、俺に渡した。


「この施設のカードキーよ。失くさないでね。中は危険な所もあるから気を付けて」


 カードの裏には俺の名前が書かれている。そういえば昔からこの施設に来てたのに、親父から貰わなかったな。そこは一つの疑問だったな。


「リーダーから『もう危険な所に勝手に入る子じゃないだろう』だそうよ」


 信頼されてるのか、今だに子供扱いされているのか、とにかく一つの疑問は早くも解決した。


「食堂はミカに案内してもらったら?」


「あ! じゃあ俺もご飯!」


「貴方は食べ終わったでしょ! ベテッサは私と来なさい。今度勝手に出たら、牢獄に閉じ込めて餓死させるわよ」


「そんな!? それ殺し目的判明してるじゃん!?」


「だったら来なさい。陽夜君、彼はまた今度ちゃんと紹介させるわ」


 男は背中を掴まれ、問答無用にコンさんに連行されて行った。俺はミカと一緒に食堂へ向かう。入るとそこは百人近く入れる広さだ。当然誰もいない。もう朝食は皆食べ終えて仕事に向かった様だ。

 食堂のメニューは様々だが、魅力的なサラダセットを頼む。厨房はこちらからでは見えないが、注文すると一瞬にして料理は出てきた。驚きながらも俺は、冷静に席に座る。そういえば左手の痺れがいつの間にか治っている。ミカは俺の前に座り、何も言わずに俺を見ている。


「いただきます……ミカ、聞いていいか?」


 聞いたがミカは何も言わず、頷いてくれた。なので俺は話を続けた。


「あいつは一体誰なんだ? お前に話していたって事は……知り合いなのか?」


「……ベテッサ。私と同じ、訓練を受けてきたバスター。でも会ったのは一度だけ。それでも十分嫌いになれる男」


「………そう見えた。しかし驚いた。いやここに来て驚きの連続だが……お前以外にもいたんだな」


「……その言い方だと、私が訓練を受けていたって、知っていたのね。どうして分かったの?」


「当ったり前だ。この前の銃の扱い方は素人じゃ無理だろ」


 いくらネットの世界でも身体能力は上がらない。俺が高く跳べたり出来るのは、あのブーツのおかげだが、それでも足技は現実でやるのと変わらない。つまり、ミカが壊れていく壁の中で狙いを定めれるのも、現実でやれる事だ。


「……私が訓練を受けてた理由は聞かないの?」


「お前が話したいなら聞くが、辛い事なら無理して聞かない。ご馳走様」


 食べ終わった俺は、食器を持って厨房に返した。謝らないといけない事を、俺は忘れていた。


「……ミカ、すまなかった。この前の戦い。俺が足を引っ張ってしまった」


「それよりも嬉しい。ちゃんと私を見てたのね」


 口だけは笑うが目は変わらない。これはミカの表情で、一番嬉しい事なんだろうな


「そんなんじゃ……お前朝飯は?」


「もう食べた」


「それまたすまなかった。俺の為にわざわざついてきたくれたのか」


「陽夜の為なら、例え火の中水の中、食堂だって一緒に行ける」


「食堂はそんな凄くはないぞ」


「それに謝るのは、私の方が先。昨日の学校の事、貴方の言う通り、辛い事を聞いてしまった。ごめんなさい」


 ミカは深々と謝るが、あの時は俺が強く言いすぎた。なのに謝れると俺が正しかったと思ってしまう。


「あ…いや、お前は知らなかっただけで悪くない。悪いのは俺の方だ」


「でも……」


「これじゃあお互い謝り続けちまうな。なら両方とも頭を下げたらもう終わりだ。すまなかった」


「……うん。ごめんなさい。ありがとう」


 食堂から出ると、テハさんが前を通りかかった。こちらに気付き挨拶してくれた。


「陽夜く〜ん。おはよう」


 タバコ臭い。どうやらさっきまで喫煙室にいたんだな。この人は仕事中じゃないのか。


「おはようございます。テハさんは俺達がこれから何をすればいいか聞いてないですか?」


「さあ? 私は今からリーダーの所に戻るから、一緒に来る?」


 丁度良かった。どうしても親父に話したい事があったんだ。昨日の戦いが終わってから、少し考えてたんだ。


「そうそう、昨日のウイルスを使った悪党。今朝捕まったわ」


「え!? やけに早く捕まりましたね?」


「倒したウイルス調べたら、誰がやったか大体掴めちゃうのよ。陽夜君には残念な話だけど、犯人はあの時助けた男よ」


 あの時、俺が後先考えずに助けに行った男。俺は悪人を助けたのか。


「……悪い奴だったんですね。助けないほうがよかったかな」


「そんな事ないわよ。悪人であれ、陽夜君は人を助けたのは正しきことよ。彼もこんなに酷くなるなんて、思わなかったみたいだしね〜」


 男もそこまで悪人じゃなかったんだ。テハさんの言う通り、助けて良かったんだ。


「……何でその人はウイルスを持ってたの?」


「彼が作ってないのに気付くなんて、流石ね〜」


 ミカが言うまで俺は気付かなかった。確かにあの男がウイルスを作ったなら、自分を巻き込まれたりしない。


「ご名答通り、裏ルートで買ったみたい。とりあえず私達が出来たのはここまで」


 昨日の夜からここまで調べたなんて凄い。モニター室に入ると親父とメルグさんがいた。いたんだが二人共ぐったりとして横に座っている。徹夜して調べたんだな。逆にテハさんは何故元気なのか気になる。


「リーダー! 陽夜君とミカちゃん来たけどどうします?」


「……返事はない。ただの屍の様だ」


 明らかに親父の声だが、テハさんは無慈悲に起こす。


「リーダー! 残念ながら休憩は終わりで〜す。このまま永眠したいなら棺桶に入って下さ〜い」


「分かったよ……おはよう息子よ。今の所は特に無い。お前達は昨日の今日だから、ゆっくりと休みなさい」


 親父達は全く休めてない様だな。休めさせたいが、親父と話せるのは今しか無い。


「ごめん親父、少しだけ……話聞いてくれるか?」


「……?」


 何事かと思い、親父は起き上がり、次の言葉を待っていた。


「俺……学校辞めたい」


「ええ! 急にどうしたの陽夜君?」


 テハさんからしたら、いや皆からしたら驚くかもしれない。だが俺はここ最近思っていた事なんだ。


「もう学校に行きたくない。ついでに言うならミカも辞めさせてくれ。学校で学んだ事は、ここで教えてもらって簡単すぎる。親父だって分かってるだろう。もうあそこに居場所はないって事を」


 嘘は言ってない。実際勉強した事は子供の頃、コンさんや他の人達に教えてもらった。まさかそれが高校レベルまで行ってたなんて知らなかったが。


「………」


 親父は何も言わない。俺を何を言うか考えている。幾らでも待てる。


「息子よ。来なさい」


 親父の近くに行き、叩かれるかと覚悟していた。だけど親父は俺を抱きしめてくれた。


「辛い……人はどこにいてもそう思う。逃げる事だって出来る。だがそれを乗り越えて強くなるんだ。もしいじめられたなら……そうだな、相手に倍返ししてやれ。水かけられたら、泥をぶっかけろ。机に落書きされたなら、相手の机を使えないくらいボロボロに壊せ」


「そんなことしたって、そいつらは止めないし、弁償とか被害請求してくる親もいるだろう。無意味な行動だよ」


「その位の金、幾らでも出せるよ。それにお前の気が晴れるだろう?」


 金よりも俺の方が大事って事なのか。幾らでも迷惑かけろなんて言っても、じゃあお構いなくでやれない。あの学校から逃げた方がマシだ。親父の手が頭を撫でてくれた。


「お前は強いんだから、逃げる必要ないだろう?」


 その言葉は俺の心に強く響いた。心を読まれたのか、たまに思っていた事を言われる。親父は俺が強い男だと言ってくれた。嬉しかった。


「親父………なんで俺の尻触ってんだ」


「何となく。しかし息子よ! かなり触り心地いいぞ。マシュマロみたいな柔らかさで、スポーツしていたとは思えない……」


「ふぁ!? この破廉恥がぁ!」


 親父に俺は右アッパーを喰らわせると、宙に円を描くように飛んでいった。全く、変な所触られて思わず変な声が出てしまった。親父は俺が強い男だと知ってこのザマか。


「分かったよ親父……ミカ、ちょっと付き合ってくれ」


「え? それは結婚を前提にしたプロポーズと受けとっていいの?」


 ミカの顔が真っ赤になる。変な意味で捉えてしまったな。俺はすぐに訂正した。


「すまん。言い方が悪かった。お前が訓練した所に案内してくれ。ここにあるんだろ?」


「もしかして陽夜君が行きたいのは訓練ルーム?」


「そんな所があるとミカに聞いた。そもそもいきなり戦えなんて、無茶な話だったんだ。だからそこに行って鍛えたい。ダメか?」


「それならここでだって出来るわよ。だって最初に貴方達は戦ってるんじゃない」


 言われるまま俺はネットの世界に入ると、そこは最初にウイルスと戦ったビルの上だ。そういえばあれは親父達が作ったんだったな。


『陽夜くーん、この前みたいに作ったウイルスと戦う?』


「出来れば体をもっと慣れさせたい」


『なら基礎アップね〜。ミカちゃんに相手してもらって』


「ミカと?」


 離れた場所にミカが現れた。簡単な組み手という事か。


『それじゃあ簡単な武器なら出すけど、それ以上手を貸さないから。あとこれは怪我しても、現実に影響しないわ。ミカは知ってるだろうけど、陽夜君は何か質問ある?』


「無いです。いつものブーツを用意して貰えますか?」


『は〜い。スタートはこっちで合図するわ。頑張って〜』


 俺の足はダウンロードして、ブーツを履いた。ミカはいつもの二丁の銃を使う。油断しない。例え練習でも撃たれたら死ぬと思え。

 俺とミカの間に小さなクラッカーが出る。始まりの合図はこれの様だ。スリーカウントが始まり、ゼロになるとクラッカーの紐が引かれ鳴り響く。同時にミカは銃を俺に向け、引き金を引いた。弾をかわすと俺はジグザグと不規則に動いて、狙いを定めにくくする。スピードも上がり、一気に距離を詰める。狙いは拳銃。蹴り飛ばそうと足を上げたが、ミカは後ろにバク転して華麗に避けられた。ミカは自分の力は男より弱い事を、誰よりも知っているだろう。だからこそ拳ではなく、拳銃を回転させながら持ち直して、グリップで殴りかかって来た。接近戦での戦いも拳銃を使いこなせる。避けながらも離れずに攻撃しなければ、ミカの得意な遠距離戦になる。足を蹴り、ミカのバランスを崩した。上からのかかと落としをするが、ミカは転がりながら避けた。起き上がると、拳銃を再び持ち直して銃口を向けるが、ミカは引き金を引かない。


「陽夜……まだ本気で戦ってない。女だから躊躇してるの?」


 そんなつもりは無い。だが心の何処かでそう思っているのか。心を冷静にしろ。体を鍛える為にやってる事だ。


「……慣れてないだけだ。本気で来い」


 言った途端、ミカは俺に向けて突っ込んでくる。予想外の行動だが、俺と同じ動きでタイミングも同じだった。俺達がぶつかろうとする時、突然横から衝撃波が飛んできた。俺とミカはギリギリに避け、衝撃波が飛んで来た方を向く。そこには両手を鉄の様なグローブをしたあの男がいた。


「俺も混ぜろよ。お二人さん」


「……ベテッサ!」

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