ダレダッテアクニナル
「失礼しました」
職員室に行って、教師には家庭の事情で帰ると報告した。担当の教師は渋々と了解してくれたが、あの一件以来で親父が気にくわない様だ。
「帰るぞミカ……ミカ?」
ミカは俺に返事を返さない。それが普通だが、彼女はどうも背後を気にしている様だ。何かと俺が見てみると廊下の物陰にいる男が一人、そいつの手にはカメラがあった。
「あ! お前何してる!?」
俺が叫ぶと男はダッシュで逃げ出した。だが逃げ切れる訳は無い。辞めたが元サッカー部。足は怠けていないし、追いかけてすぐに捕まえてやった。男は涙目になっていた。
「ご、ごめんなさい! 許してください!」
「お前、俺達の写真を撮って、ネットに流そうとしたな!?」
気弱そうな男は黙っている。俺に怯えているのか。このくらいで怯えてしまうなら、もうして来ないかな。カメラの何処かに保存するフィルムが……あった。このカードだ。すでに撮られている場合があるからな。
「カメラは高いから壊さないでやる。だが次は無いからな!」
カードを真っ二つに割って、カメラと一緒に渡すと、男は叫びながら逃げて行った。
「行くぞミカ……こんな学校にいても辛いことしかねえ」
「……うん」
実はミカが気にしていたのは、もう一人背後の影から見てる人だ。だがその人はもう見当たらなかった。ミカは黙っていることにした。俺はその事に気付くのはまだ後の話だ。
親父の施設に着くと、アワバさんが入口の扉の前で待っていた。
「どうも……」
「あれ? なんかご機嫌ナナメだけど……なんかあった?」
「学校で……いや、別に何もないです。早く行きましょう」
「そうだな。じゃあ来てくれ」
扉を開けて入ると長い廊下が続いている。ドアや分かれ道も沢山あり、下手すると迷子だ。だが俺にとっては少し懐かしい。小学生の頃、よく迷子になっていたな。他にも白衣を着ている研究員の方が沢山いる。アワバさんの近くにいないとわからなくなりそうだ。
「それじゃあ歩きながら説明する。ウイルスはサバイバルゲームのサイトに発生した。君達はその近くに転送してサイトに入ってくれ。逃げ遅れている人もいるはずだから出来るだけ助けるんだ。だが君達はバスター。ウイルス退治が最重要にしてくれ」
「……なんでサバイバルゲームにウイルスなんか発生したの?」
珍しくミカが質問した。俺はよく分からないが、そんな所に出るのは珍しいのか。アワバさんは言いにくそうに答えてくれた。
「あー……それはな……どうやら違法サイトだったらしい。賞金をかけて戦っていたと調べがついた。それで負けた奴が腹いせでウイルス使った。こんなだと思うよ」
「どういう事だ? ウイルスはネットの不具合で出るんだろう?」
「確かに不具合でもウイルスは発生したりする。だがそれともう一つ。ウイルスは人が作っているんだ」
「な、何だって!?」
まさかウイルスを作る人がいるなんて。凄い知恵なのに、なぜそれを悪に使うんだ。
「別に不思議じゃない。ウイルスはサイトを守る為に作られたんだから、国の何かを守る為に使ってたんだ。そもそも陽夜君、あのワームも僕達が作ったんだよ」
「そ、そうなのか……」
話していると、俺達は大きな扉の前に辿り着いた。アワバさんが指紋認証、暗証番号を押した。扉が開くと、そこはこの前来たでかいモニター室だ。そこには親父も皆揃っている。
「サイト封鎖完了。外からは入れません」
「逃げ遅れている数は十五名。生命あるかは不明だ」
「リーダ〜、ウイルスモンタージュ完りょーう。蜘蛛みたいな形してるね〜」
いつもより気合いが違う。テハさんの喋り方は変わってない様だが、顔は真剣だ。アワバさんは敬礼して、中央の高台にいる親父に叫んだ。
「リーダー! バスター到着です!」
「来たなミカ。息子よ。急ぎ準備し、ウイルスを退治してくれ!」
親父に言われた俺とミカは、すぐに椅子に座って、頭に機械を取り付けた。一度やると手際がいい。椅子の横になると、コンさんが駆け寄ってきた。
「先に言っておくけど、この前戦ったワームとは全く異なるウイルスよ。陽夜君……気を付けて」
「……分かりました」
コンさんは下がって親父に合図する。
「……ウイルスを退治し、世に安泰を! バスター出動!」
急に目の前が真っ暗になった。ネットの世界に入っていく感覚だ。
ーーネットーー
ぼんやりと世界が見えてきた。今回はミカが目の前にいる。サイレンが鳴り響き、爆発が起きている。どうやらドーム型の様だ。
「行こう……どこから入るんだ?」
『ちょっと待ってね〜。封鎖を一旦解除して通れる様にしてあげるわ。そのまま直進してー』
出来ない事はない。真っ直ぐ走って行き、ドームの中に入る。中はまるで蜘蛛の巣だ。そこら中に蜘蛛の巣があり、たくさんのウイルスがいる。テハさんが言った通り、現実の蜘蛛の形に似ている。
「うああ!!」
遠くから叫び声が響く。見てみるとどうやら逃げ遅れた男が戦っている。
「あれじゃあ無理。ここはもうウイルスに侵食された……ここの物を使っても、餌をあたえてるだけ」
「冷静に分析してねえで助けに行くぞ!」
『待って陽夜君! 慎重に動いた方がいい』
「それじゃあ間に合わない! すぐにでも助ける! この前のブーツを頼む!」
急いで男の元に向かった。蜘蛛の巣に引っかからない様に進んでいけば大丈夫だ。ブーツのダウンロードが完了した。ジャンプは普通に変わらないけど、このブーツならすぐに跳んで行ける。男は尻もちし、蜘蛛にやられる恐怖に怯えていた。蜘蛛は足で男の腕を掴んで逃げない様にし、食い殺そうとした瞬間、俺は間一髪で蜘蛛を蹴り飛ばした。
「速く逃げろ! 戦っても無駄だ!」
男は武器を捨てて言う通りに逃げて行く。彼はテハさん達に任せよう。俺はこの蜘蛛を一匹残らず駆除する。仲間がやられたのに気付いたか、わらわらと集まってきた。ちょうど良い。まとめて相手してやる。動きは対して速くない、ならば。
「先手必勝。駆除する!」
一匹、二匹、足で踏み潰して突っ込んで来た蜘蛛を蹴り飛ばす。これなら武器を出すまでもなさそうだ。後は核を持った親玉がどこにいるか。
「……!?」
急に身体が動かなくなった。何が起きているか分からない。動こうとして力を入れても何かが引っかかってビクともしない。
「なんだ? うご……けない?」
『陽夜君!!』
アワバさんが俺の背後から来る蜘蛛に気付いたが、動けない俺にはどうする事も出来ない。そのまま俺の左腕は、蜘蛛によって食い千切られた。