オレニハニチジョウナンテナイ
昨日の事が嘘のように、俺は普通に学校へ行く。教室に入るとそこは変わらない日常、変わらない苦痛だ。担当の教師が来ると、生徒はダラダラと座り出す。
「急だが、転校生を紹介するぞ」
「転校生?」
まさかこの急のタイミング。昔から漫画でよくあるシュチュエーション。転校生は先ほど出会った女の子パターンだな。親父め、俺に黙っておいて驚かせる作戦だった様だが、すぐに気付いたさ。俺が家で何もしていないと思っていたなら大間違いだ。俺は勉強、料理、掃除、漫画、全て学んだ。これは漫画でよくある展開だ。
「それじゃあ入って自己紹介して〜」
教師に呼ばれて入ってきたのはミカだ。予想通り。残念だが俺は驚きはしないぞ。
「外国人?」
「うわ、凄え美人」
「ちょー可愛いんだけど」
周りの好感度は上々。だがあいつはそんなに喋らなさそうだ。上手くやっていけるのか。最初の自己紹介が大事なんだぞ。
「ミカ=ノーア。陽夜君の婚約者です」
オワッタ。俺の方がオワッタ。
「え、ええー!?」
「陽夜って、確かこの前の…」
「あいつ婚約者がいたのか?」
「クッソ羨ましい!」
「マジかよ?」
「静坂さん、大丈夫?」
案の定、教室が騒ぎ出してしまった。教師の静かにしろと言う声など、誰も聞きゃしない。とにかく何とかしてミカの発言を撤回しないと。
「待て! 彼女は遠い親戚だ。外人さんで日本語が上手く使えなくて、婚約者の意味を間違えてるんだ」
我ながら上手く言い逃れた。クラスを静める。だがミカはスラスラと答えた。
「親戚は、血縁や婚姻によって結びつきのある人。婚約者とは、結婚の約束をした人の事。そのくらい覚えてます」
ずいぶんと日本語が達者なことで。でも今その知恵を使うと俺が困るんだよ。分かってくれ。結果変わらず、そして昼休み。この噂はネットに上がり広まった。教室に居場所がない俺はただただ廊下を歩いてぶらつく。どっかに一人で居たら、バカな教師は悪い事してないかと質問され、皆と仲良くしなさいと無理な発言をする。だからぶらつくんだ。それなのにあの女、ミカはどこまでもついて来る。
「俺について来るな」
「どうして?」
外国から来たのなら、今の状況がわからないのか。それともただ感が鈍いのか。どっちにしろ面倒な事が大きくなる前に注意した方がいいのか。
「あーもう! いいか! 今やネットになんでも載るんだ。この学校にニュースと言って、何か起こったらすぐに書かれる。お前のせいで俺達の関係は全校に広まってしまったんだぞ!」
「別に構わない。貴方に近付く者はいなくなるんだから」
ダメだ。説明しても意味がなさそうだ。なんでこいつは俺の事をそんなに……そんなの聞ける訳ない。
「お前…そんなに喋れたのか?」
「初めてだったから人見知りしてただけ。あと貴方のお父さん仮面をつけてて、ちょっと怖かったから」
「確かに見た目変だけど、あんなの別に怖くねえよ」
「ギャップが違いすぎるから、私は驚いた」
確かにそうだが、あんたに言われたくないよ。
「誰かと思ったら、久しぶりだなぁ」
その声に俺は緊張が走った。聞いた事ある声と喋り方。声の方を向くと、あの男が歩いて来てる。
「……時画……退院……したのか?」
「……したのか? まるで他人事だなぁ。お前はなぜか、停学で済んだらしいなぁ。おかしな話だなぁ? この傷はだあれがつけてたんでしょう?」
「その傷以上に、日影を苦しめたのを誰だ!!」
「日影? 誰だっけぇ?」
「て、てめえ……」
わざとらしくとぼけやがって。時画はあいつを何とも思っていないんだ。
「俺がいなくて平和になると思ったかぁ? この借りは返させてもらうから、覚悟しておけ」
「お前こそ、これ以上やるなら二度と退院出来なくなるぞ」
時画は鼻で笑うと、すれ違う時にわざと肩をぶつけて来た。近くにいたミカは時画に睨まれたが、絡まれずに歩いて行った。
「……誰なのあの人?」
ミカは気になるだろうが、俺は答えなくない。
「お前には関係無い」
「関係なく無い。陽夜が関わってるなら私も関わる」
「関係無いと言っただろ! 何度も言わせるな!」
つい怒鳴ってしまった。ミカは何も知らないのに、何やってんだ俺は。ミカも黙り込んでしまった。すると俺のケータイが鳴り出す。番号は誰にも教えてない。ケータイには(大好きなパーパ)と書いてある。後で消そう。
『ヨー!ヨー! 親父だヨ!』
「切るぞ」
『ちょちょ、ちょっと待って! ミカもそこにいるね? 二人共、今から迎えを寄越すから家に帰ってくれ。バスターの出番だ』
「……チッ」
『息子が舌打ちしてる…怖いよ〜』
「うるさい……俺らまだ午後の授業があるのに帰れねえよ」
『別にいいだろう? 頭良いんだからも〜』
「親が言うセリフかよ……分かった。すぐに帰るよ」
どうせ学校にはいたくなかったから、ちょうどいい。すぐに教師に連絡して帰るか。別に悪い事はしてないんだ。
「………」
俺は気付かなかった。俺達の行動をずっと覗いていた者に。