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ワールド・ウイルス  作者: AT
ルート1 バスタータンジョウ!
1/50

オヤジガイル

 学校のホームルームは終わった。誰もが部活に行くだろう。だが俺はもう行く必要は無いんだから、こんな所さっさと出て家に帰る。


陽夜ようや君!」


 誰かが俺の名前を呼んだ。この声は知ってる。後ろにいるのは同じクラスの静坂しずさかだ。


「何か用?」


「えっと……今日、部活休みなんだ。一緒にーー」


「あいつって学校ニュースに載ってた奴じゃねえ。怖え怖え」

「何で退学になってねえんだよ」

「学校来るなよ」


 静坂の声が周りの連中の所為で、最後まで聞き取れなかった。いや彼女が最後まで言うのを止めたのか。前文的に、今日は一緒に帰ろうという誘いだったろう。


「一人で帰る。お前も俺に話しかけるな」


 これは警告だ。今やネットが社会の一つだ。この迷命中学校のどんな小さな事件も、ネットニュースに載る。いい事で載ったらヒーロー扱いだが、悪い事で載っちまうと犯罪者扱いだ。そんな奴といたら何言われるか分からない。俺なりの優しさだ。

 だからと言って、周りの連中に腹が立たない訳じゃない。六月になってしばらく雨が続いてたが、今日は久しぶりに気持ちよく晴れた。なのにあいつらのせいでイライラする。そう思っていたら気付けば家の前だ。何故か家に灯りが点いている。変だ。消し忘れ、いや誰か居る。まさかと思いドアを開けた。


「おっかえり〜、我が息子よ」


 リビングで迎えてくれたのは親父だ。珍しく親父が居る。仕事ばかりでろくに家に帰って来れないのに、明日は雪でも降るのか。相変わらずの変な仮面を着けている。


「た、ただいま。驚いた……親父がこんな時間に家に居るなんて」


「まあな、ちょっと時間が空いたからな。息子と話でもしようかと」


 忙しいくせに、ちょっと時間が空いたなら睡眠を取ればいいじゃないか。全く親父は、いつもそうやって頑張るんだから。


「ちょっと待ってな。今から飯作るから……ご飯食べる時間はあるのか」


「あるさ。久しぶりの息子の飯だ。悪いが三人分頼む」


「三人? 誰か来るのか?」


「もう……洗面所で手を洗って来たか?」


 そういえばいつもやっていることなのに、親父がいる驚きで忘れていた。しかし親父が気付くなんて、ちょっと変だな。とにかく洗面所に向かいドアを開けた。そこには金色の長い髪をした女性が立っていた。一瞬何が起きているのか分からなかった。その人はタオルで髪を拭きながら、裸だった。


「な、なな! ごめんなさい!!」


 すぐに閉めた。驚いて呼吸が上手くできない。リビングを向くと、親父が手で口を塞いで、一生懸命笑いを堪えてやがる。


「親父!! 誰だあの人!! ていうか風呂に入っていたの知ってたなら教えろ!!」


「なかなか面白い反応だったぞ。しかし息子よ。ナイスタイミングだ!」


「ナイスじゃねえ! この破廉恥がぁ! ハア…ハア…誰なんだあの人」


「お前には話していなかったな。実を言うと彼女は、生き別れの妹でな」


 俺はキッチンに置いてたフライパンを手に取って、親父の前で振りかぶった。


「おい、ちゃんと本当の事言わねえと、フライパン落とし食らわせるぞ」


「怖い! 息子よぉ。何故そんな怖い事を考えるようになったんだ。母が悲しむぞ。なあ朝月あさつき?」


 親父は仏壇で逃げて行き、妻の写真を抱きしめる。後ろからさっきの女が出てきた。こいつが妹の訳が無い。そもそも母は俺を産んで死んだんだ。絶対にありえない。


「で、そろそろ教えろ。この人は誰なんだ?」


「彼女はミカ。外国人って設定だ」


「設定って何だ? 確かに日本人ではなさそうだが、親父んとこの新しい会社員か何かか?」


「いいや、お前の許嫁だ」


「……は?」


「腹減ったなぁ、今日の飯は何だ?」


「いやなに話終わってんだ! 許嫁なんて聞いた事ねえぞ!?」


 親父は怒ったように、勢いよく拳をテーブルに叩きつける。


「当たり前だろ! 今言ったんだから!」


「さも当然みたいに返してんじゃねえ!!」


「まあまあ話は飯食いながら言うから、ごーはーん。ごーはーん」


「はあ……疲れる」


 三人分の飯なんて用意できるのは、カレーくらいしかない。しかしあの女が気になってしょうがない。ミカって名前で金髪で金色の瞳に長いまつ毛。スタイルは……ともかく、どっからどう見ても美人だ。そんな美人が親父とどう知り合ったんだか。ていうか会ってから一言も喋らないな。


「親父。カレーにするけどこの人辛いの大丈夫?」


「さあ? 聞いてみればいいじゃないか?」


 いや親父の方が知ってるから、親父に聞いたんだよ。こんな人と初対面で話すのは、誰だって緊張する。特にさっきの後では。


「えっと……ミカさん。辛いのとか大丈夫?」


 彼女は答えるどころか眉一つ動かさない。そもそも日本語が通じていないのだろうか。


「……大丈夫」


 日本語で返事をしてくれて少しホッとした。言葉は通じる様だ。


「おいおい。何を緊張してるんだヨ! お前と同い年なんだからもっと仲良く接しろヨ!」


 うるせえ親父がラップっぽく言いやがって、腹立っていたのが思い出し、親父の分も余計に腹立つ。イライラしながら作っていると、あっという間にカレーが出来た。時計を見ると大分時間は経っている。


「親父、飯できたぞ……親父?」


 親父の返事はない。テーブルの前に座っていたが、どうやら横になって眠っている様だ。仕事で疲れているから起こし辛いな。突然、親父のケータイが鳴り出し俺は驚いた。親父はすぐに動き、ケータイを確認した。


「親父……飯、できたぞ」


 昔を思い出す。親父と一緒に食べる予定が、ケータイが鳴って仕事に戻らないといけない。よくある事だ。


「……よし、食べよう!」


「親父、いいのか? 仕事に戻らなくて」


「飯を食べたらな。迎えが来るから急いで食べねえと」


 何だろう。いつもと違って、なんか嬉しいな。


「それにまだ話がある」


 そうだった。俺も話したいことはあるが、とりあえず親父の話を聞こう。飯が冷めない内に食べ始めると、親父が話し出した。


「まず最初に俺の仕事。このネット社会で起こっているウイルス問題、その対抗策が遂に完成した」


「よかったな親父。お手柄じゃん」


「しかし問題が一つ! 誰がこれを使うか」


 俺にはよく理解できなかった。そんなの誰だっていいんじゃないのか。


「この対策を簡単に言うと、精神をネットに入り込んでウイルスと戦う。ゲームでもよくあるモンスター退治みたいなものだが、相手はウイルス。これはリアルにダメージが来る上に、ゲームなんかはすぐに呑み込まれる」


「親父が作ったのはそのウイルスと戦う事が出来る……だが戦闘なので、運動もロクにしてない人には出来ない。そういう所か」


 俺は早々と理解した。ゲームに慣れてるというバカが、ゲーム感覚で始めて大怪我でもしたら、怯えて戦う事がマトモに出来ないだろう。つまり死ぬ事もある訳だ。


「大正解! 正解した息子には、豪華賞品を差し上げよう!」


「いらん。つまりこの人は……戦う人なのか?」


 気付かれない様にちらっと彼女を見ると、黙々とカレーを食べている。危険な戦いに出なければいけないのか。そう思うと俺が持ってるスプーンが重くなる。


「そう。そしてお前もだ息子よ」


 俺はスプーンを口に入れる瞬間に、とんでもない事を聞いてしまった。思わずスプーンを落としてしまった。


「……ちょい待った。話の流れ的にそんな感じはしたが、俺は運動なんて、学校の授業くらいだぞ。部活もこの前辞めたの、親父も知っているだろう? もっとスポーツマンとか、軍人の人とか雇えばいいじゃん」


「そいつらは高い! 身内なら経費が軽くなる!!」


 親父は拳でテーブルを叩き強く発言する。


「そんな理由か!経費削減で選ばれたのか俺は!」


「待て待て、これは半分の理由だ。コンピューターの中だから身体は小さくて若い方が、動きに支障は出ない」


「本当か? 嘘くさい理由だな」


「……断らないって事は、やってくれると判断するぞ?」


「……やらないって言ったら、やらずに済むのか?」


 質問を返すと、頭をかきながら親父は答える。


「いや、無理矢理にでもやらせるつもりだ。断られたら、眠らせて連れて行くつもりだった」


「何さらっと拉致しようとしてんだ。ごちそうさま」


 カレーを食べ終えたので、台所に食器を運んだ。水を出して洗おうとすると、ミカさんが食器を持ってきた。


「…ありがとう。そこに置いててミカさん」


「ミカでいい。同い年だから」


 なんという事だ。彼女は俺と同じ歳だったのか。親父の話で歳は近いと予想していたのに。結果この人の名前と年齢しか分からなかった。この人は望んで戦いに来たのだろうか。黙って聞いていたのだから、今知った事ではないはずだ。俺と一緒に連れて行く為に、親父と来たのか。


「ん? 連れて行く……てことは、今からか!?」


「流石だな息子よ! 迎えがそろそろ来るから支度しておけよ」


「明日学校あるけど、それまでに終わるのか?」


「多分ね」


 た、多分って、なんと曖昧な言い方だ。ドアのインターホンが鳴る。迎えが来たのだろう。何故か親父が驚き怯え出した。


「マズイ! 隠れろ! 私の休憩時間が終わってしまう!」


「いや居留守使ったってバレるだろ。親父のケータイがあるんだから」


「リーダー! お迎えに上がりましたよ! 無駄な抵抗はやめてください」


 ドアの向こうから低い声が響く。親父は諦めるしかない。


「ほら呼んでるぞ。飯食い終わってないの親父だけだぞ。早くしろ」


「あれ!? もしかして私待ち?」


 今頃気付いたか。とりあえず迎えの方に待って頂く様に玄関に向かった。ドアの先には白衣の男が一人佇んでいた。


「すいません。あと十分待って頂けますか?」


「……分かりました。リーダー! 十分以内に来ないと、今後は休み無しです!」


「ひどーい!!」


 俺も支度しなければ、風呂に入る時間は無い。とりあえず洗面所で顔を洗って歯を磨く。親父が食い終わったので、食器を洗い終える。その間に親父達は外に出て行った。


「息子よー。早くしろー」


「誰待ちだと思ってたんだ!」


 外に出てすぐに眼に入ったのは、高級なリムジンカーだ。俺は乗るのに躊躇したが、後ろから親父が押してきた。


「ほら乗った乗った」


「おい押すなよ親父!」


 こんな高級車に乗るなんて、緊張していまう。


「出してくれ」


 親父が合図すると車は走り出した。親父は座席に置いてあった物を俺に渡した。


「着くまで少し時間があるから、それまで眠るといい。ほれ、毛布にアイマスク。あと子守唄を歌ってあげよう」


「最後のはいらん!」


 怒りが込み上げたまま、俺はアイマスクを着けて、毛布を頭から被った。

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