【夢幻】潔血の忌子05
「さてセヴラン、第一部隊のもう一人のメンバーを待たせている。彼女の待つ部屋に向かおうか。」
何事もない様にさらっと声をかけてメサイアは通路を歩き始める。
彼女?
一方のセヴランはその言葉が引っかかり、歩き出すのがワンテンポ遅れてしまった。
確かにアストラ軍に女性兵士は少しはいるが、多くは下級兵士であって精鋭部隊に配属されるような実力を持った兵士、しかも青年班の女性なんて彼は聞いたことがなかった。
「なあ父さん、同じ部隊に配属される人ってどんな人なんだ? 」
一人で思い悩んでも仕方ないと思ったセヴランは思い切ってメサイアに問いかけてみた。
メサイアはその問いを待っていたかのように明るいトーンでもう一人の精鋭部隊員について話し始める。
「まあ会えば思い出すだろうが、お前は彼女に会ったことがあるよ。
おそらく七年ぶりくらいの再会になるだろうな。
もちろん軍人としての実力は申し分ない。
まだ正式には決めていないが第一部隊の隊長は彼女になるだろう。」
「その人ってもともとアストラの軍人だったの?
そんなすごい精鋭班の人なら俺が知っていてもおかしくないはずなのに。」
「これまでもアストラ軍で士官をやっていたけれど、セヴとは系統の違う仕事をしていたからね。
彼女がここにいるということを知らなくても無理はないだろう。」
俺の知り合いにそんな実力者いたっけ?
なんて思いを巡らせても該当するような人は誰一人思い浮かばない。
それでも彼はそんな実力者と一緒に仕事ができるなんてすごいことじゃないか、と期待でいっぱいだった。
司令室につながる通路を抜けると、セヴランがさっき来た方向とは間逆の方向にメサイアは足を進める。
下っ端士官のセヴランが最深部に足を運んだことは数少なく、すべてを回ったことがなかったためこちらの方向に何があるかまったくわからない。
二人の足音だけが辺りに響く。
最深部というのはどうしてこうも緊張を煽る作りになっているんだろうか。
いつの間にかメサイアとの会話も途切れ、ただただ革製のブーツの音が頭の中に響いてくる。
「さあ、ここがこれからお前たち第一部隊の拠点になる部屋だ。
下級士官の部屋よりもずいぶんと広い作りになっている。
彼女はこの中で待っているよ。」
最下層には司令室や武器の保管庫しかないと聞いていたセヴランは軍人が過ごす部屋がこの階に存在することさえ知らなかった。
それに三人一組で暮らしても申し分ない広さの下級士官の部屋よりも広いこの部屋は精鋭部隊に上がったにふさわしい特権を手に入れたようなものであった。